ウルトラボックス3号
ジャンル:その他
媒体:CD-ROM
発売元:ビクター音楽産業
発売日:1990年12月28日
価格:4800円
商品番号:JCCD0603


◆だんだんノッてきた?CD−ROMマガジン第3号!

外見 6月の創刊号、9月の2号に続き、12月の年の暮れに無事「ウルトラボックス3号」は発売された。もともと季刊発行の「CD−ROMマガジン」という企画なのだが、3ヶ月でCD−ROMソフト1本を作ってしまうというのは今にして思えばかなりハードなスケジュールだったんじゃなかろうか。
 この「3号」は「ウルトラボックス」の前期シリーズの最後の一本、という面もある。「ウルトラボックス」はその後も3本製作されるのだが、3号と4号の間には若干の空白期間があり、後期では少し毛色も変わってくる。創刊号からこの3号までは恐らく並行して製作された部分もあるだろうし、この企画の当初の狙いが前面に出たシリーズとなっている。
 だが「読者」からの反応を見てだろうか、それとも年末発売のお正月向け商品ということもあってか、この3号では「遊べる」ゲームコーナーがかなり増えた。それと深い意味はない変更なんだろうが、起動して最初に表示される画面が「創刊号」では「GAME OVER」、「2号」では「to becontinue」という「?」なものだったのが「3号」ではいたってフツーのオープニングになり、あの変な怪獣マスコットも出なくなってしまった(エンディングには出る)

 前号から続く連載企画はバージョンアップした「PCエンジンソフト図鑑」、謎のサイキックミニコーナー「あなたもきよたくん」、ラッシャー木村の星占い「星に願いを」、連作ミニゲーム第3弾「仮面ビクター」、読者参加コーナー「じゃんじゃんボックス」、連載アニメ・ゲーム第2回「クスト」といった面々。

 「PCエンジンソフト図鑑」コーナーは当然情報量が増えたものの操作性の悪さは相変わらず。新作ソフト紹介に収録されているのは「ゼロヨンチャンプ」「改造町人シュビビンマン2」「トイ・ショップボーイズ」となぜかHuCARDソフトばかり3本。

 「星に願いを」コーナーにはお正月企画として「ラッシャー木村のプロレス伝説」なるスゴロクゲームがついている。言ってみれば「プロレス人生ゲーム」なのだが、これがなかなか良く出来ている。「アルクコーガン」など実在プロレスラーをもじったキャラクターの中から最大4人(COMに担当させることも可能で一人でも遊べる)を選びサイコロを振って止まったマスの指示に従って所持金が増減していく。プロレスネタであるからして時々対戦になるのだが、これがなんとカードバトル。4枚出てくるカードをお互い任意に開き、そこに書かれた技の攻撃力と防御力のポイントの差で負けたほうにダメージが出るという単純なものなんだけど、完全に運任せだけにこれが意外に熱い(笑)。もちろん勝利すれば賞金の上相手から所持金を奪えるので、プレイヤー同士の対戦ともなれば盛り上がること請け合いだ。

 毎度出来のいいミニゲーム「仮面ビクター」、今度はとうとう横スクロールシューティングゲームである(笑)。ビクターの弱点が「女の子」にあることを知った「ヒョッカー」が女子戦闘部隊を繰り出して来て、ビクターは宅配便で稼いで買った空飛ぶバイクでこれを迎え撃つ。中国やアメリカなど世界各地を背景にしたステージで構成され、敵の女の子のキャラもその国ごとのデザインになっている。ハートマークを集めると「ビクター」に変身でき、パワーアップするのも前作同様。シューティング自体はかなりオーソドックスな出来だ。

 連載アニメゲーム「クスト」は前作から3年の月日が流れ、主人公も新キャラクターに交代しての第2話となった。もちろん前作のキャラクターも引き続き登場、特にヒロインのセリアがちょっぴり大人の女に成長して出てくるところも見所だ。ロイド博士に関しては第一回に比べるとシリアス度が減ってギャグ調が目立つような…。
 前作の反省からか、一枚絵のビジュアルはほとんど登場しなくなり、無理にアニメもさせず声も一部に絞っているのでストレス度は激減している。「アニメ」よりもアドベンチャーゲームの要素が強くなり、コマンド選択により話を進めていく形式となった。このため当初の「連載アニメ」の性格が大きく後退したのも事実でちょっと残念にも思うところ。絵は相変わらずハイレベルなものなのでこの点は安心して見ていられるが、季刊ペースで発売される連載内容としては一回分の内容の薄さがどうしても気になってしまう。このあとユーザーは半年近くも待たされることになっちゃったし。


◆実写・二次元のアイドル路線

 CD−ROMという新しいメディアに音楽・芸能関係での利用を期待した動きがこの時期目立つのだが、発売元が「ビクター音楽産業」だけにこの「ウルトラボックス」も創刊号からアイドル紹介コーナーが存在した。そしてとうとうこの第3号で「UBガールズ」なるオリジナルアイドル三人組が出現、「CLUB UB」というコーナーを設けて彼女たちを必死に売り込んでいる。
 CD−ROMから出たアイドルといえばなんといってもハドソンの「みつばち学園」(’90)から選ばれた井上麻美がいる。SCDで「井上麻美・この星にたった一人のキミ」(’92)なんて専用ソフトまで出したのだが、結果はといえばまるっきりハズしたとしか言いようが無い。この「UBガールズ」の3人もその後どうなったことやら、少なくとも筆者は知らないのだが。
 「CLUB UB」最大の目玉コーナーが純愛ラブストーリーのアドベンチャーゲーム「ロマンスをさがして」。「UBガールズ」の一人・水出千夏ちゃんをヒロインにした実写とアニメ混在のゲームで(他の二人も顔見せ程度に出ている)、クリスマスパーティーでの出会いからバレンタインの日までの全5章構成。千夏ちゃんと会話して画面上方に表示されるLOVEゲージを上げていけば最後まで到達できるという仕掛け。前2号にあった「実用デート講座」のノリなんだけど、だんだんソフトな純愛路線になってきたのにはちょっとホッとするところ(笑)。

 この「CLUB UB」では「UBクラブ」なるファンクラブの会員募集までかけている。会員には年4回の会報が出る、とあるのだが実物は見てないのでなんとも…出たとは思うんだけど、内容までは知らない。もし会員で詳しい情報をお持ちの方はご一報ください。
 狙いは多少違うけれど、どれほど集まるのかと思えるファンクラブ企画はPC−FXにもあったっけ。これも会報が出ていたらしいのだが、さすがの筆者も入会まではしなかったので持ってない(笑)。

 もう一つ、二次元分野のアイドル路線のコーナーが「プリンセス・オブ・PCエンジン」。既発売のPCエンジンソフトに出演した美少女(そうか?というのも混じってるが)たち20人のデータベースで、それぞれのゲーム中の取り込み画面や音声、さらには「月P」の竹田団長による各キャラへの愛のこもったコメントまでついている(笑)。「イース」のヒロイン・リリアのイメージキャラクター(?)なんてアイドル予備軍も登場するのだが、この子、その後どうしたんでしょう?
 最近になってこのコーナーを眺めた僕には「ああ、このころからやってたんですね、こういうの」というのが第一印象。むしろPC−FXをリアルタイムで見ていた僕にはそういう感慨があるのだ。PC−FXでも「アニメフリークFX」というCD−ROMマガジンが出ており、ほぼ毎号にこの手の「ゲームヒロイン特集企画」が存在した。この「プリンセス〜」と良く似た「PC−FX美少女キャラコンテスト」なんてのもあって、これが実は大半が発売前作品から引っかき集めた代物だったのだが、正直なところ狭い世界でようやるわ、と思っていたものだ。すでに先例があったわけですな。

 「PCエンジン=ギャルゲーマシン」というイメージはいつから出来たのか明確ではないが、他機種ユーザーなど周囲からレッテル貼りされた部分があるにしても、このように売り手の当事者側から積極的にそのイメージを振りまいていたところはある。それも意外と早期からその傾向があったことをこのコーナーは示している。93年にもなると徳間書店から出たムック「SuperPCエンジンFAN」で詳細なデータを入れた「美少女キャラ名鑑」コーナーが出来るぐらいで、この流れは以後ますます強くなっていく。それが良かったのか悪かったのかはその人のゲーム傾向によって大きく評価が分かれちゃうところ。
 それはそれとして単にデータベースだけでは不足と思ったか、絵合わせ16パズルとかスロットマシンによる「ヴァラエティシャッフル」とか(クレジットをためるとヒロインたちの内緒情報が見れる!)工夫はそれなりに感じられる。


◆貴重な同時代証言!?ゲーム開発ADV

 さて個人的にこの「3号」最大の目玉だと思うのが「Making of ドラヤキクエスト」だ。「ドラヤキ音楽産業株式会社」のゲーム開発部門に入ったプレイヤーが、RPG「ドラヤキクエスト」の開発プロデューサーとなり、悪戦苦闘するというアドベンチャーゲームだ。これ、ゲーム開発の涙と笑いと恐怖の実態を伝える実に面白い「業界暴露もの」となっているのだ。

 ゲームを作るためにプレイヤーは次々と人に会って行く。開発進行を叱咤する部長(芸能プロデューサーから転進という設定が妙にリアル)、ディレクター、プログラマー、シナリオライター、グラフィッカー、デザイナー、音楽家、デバッグのアルバイトから宣伝プロモーター、さらにはゲーム雑誌ライターやら勝手に企画を売り込みに来る変な男(笑)などなどホントに多くの人間が登場してくる。プレイヤーはそれぞれの人材の配置をあれこれ選択していくだけなのだがマルチエンディングになっていてほとんどの場合ゲーム業界から追われて他の職につくことになり、ゲームの無事発売にこぎつけるまではなかなか大変だ。

 接待やギャラで仕事の能率をあげるシナリオライター、ウィルスを残して勝手に逃げ出すプログラマーとそれに対処するベテランプログラマー、アニメ業界からデューダ(うわっ、懐かしい!)してきたオタクくさいグラフィッカー、デバッグをほったらかしにして駆け落ちするアルバイトたち……などなど、出てくるキャラクターたちのいずれにも強く「実在感」を覚えるのが笑えつつも怖いところ。多少のデフォルメはしてるだろうけど、作り手が明らかに「いるんだよね、こういうの」「あるんだよね、こういうこと」ってプレイヤーに言ってるんだよね(「実在の人物・団体とは絶対に関係ありません」としつこく言ってるところにかえってその意図を感じてしまう)。今でも多かれ少なかれ同種のことはあるのかもしれないけど、1990年というゲーム業界全体に昇り調子の熱気があった時期のムチャクチャな開発現場の一端がうかがい知れる、実に興味深い同時代証言だと思う。

ドラヤキクエスト 合間に挟まる「プログラマーのいじめ方講座」(笑)とか、実際のゲーム業界裏話も面白おかしくではあるが紹介している部分も楽しい。「ゲーム業界に入るならBASIC程度じゃダメ、アセンブラかせめてC言語を」といった具体的なアドバイスもあるし、「PCエンジンでは多重スクロールは3面しか出来ないが無理に5面やれという」といった技術的な話もちょっとある。またこの「ドラヤキクエスト」はHuCARDという設定だがマスター納入のところで「ちなみにCD−ROMのマスターは8ミリテープに収められる。業界ではこれを『8ミリマスター』と呼ぶ」といったこの時代ならではの開発事情がうかがい知れる説明もある。フロッピーディスク普及以前、ゲームなどコンピュータプログラムが音楽用のカセットテープに記録されていたことは知っていたが、CD−ROM段階でもそれがあったとは知らなんだ。

 当時は当然CD−Rなんてものはない。ハードディスクだってCD−ROM並の大容量(今となってはたったの640MBだけど…)を持つものはまだ存在せず、ゲーム開発用の特別なものがつかわれたのではないかと思われる。2003年になって雑誌「ドリマガ」でPCエンジン特集が組まれたとき、当時のCD−ROM開発の苦労を関係者が語っていたが、開発用ハードディスクは数台をつなげてCD環境をエミュレートする方式でなんと1000万円(!)もの値が張る代物だったとか。またCD−ROMの動作確認のためのサンプルもいちいちマスター同様に工場に納入してプレスしてもらわねばならず、この1プレス代が100万円(!)したとか。それでも動作しなかったりとか凄まじい苦労があったらしい。こうした話を聞くと、当時のPCエンジンCD−ROMソフト群にまた格別のいとおしさを覚えてしまうところだ(笑)。

 「ウルトラボックス」のスタッフ・キャストロールが表示されるエンディングも「3号」では「編集後記」と題され、一部にスタッフのコメントが入っているのでしっかりチェックしてほしい。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.022
3.704
3.840
3.386
3.545
3.818
22.315
第192位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★

★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
東府屋ファミ坊

水野店長

森下万里子

TACO・X



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