ウルトラボックス6号
ジャンル:その他
媒体:CD-ROM
発売元:ビクター音楽産業
発売日:1992年1月30日
価格:5800円
商品番号:JCCD2606
◆史上初のCD−ROMマガジン、ついに最終号!
人類史上初の試み(笑)であったCD−ROMマガジン、「ウルトラボックス」もついに最終号である。その寿命は2年足らず。後半の3号は「季刊」ペースも維持できず、最終の「6号」は5号発売からおよそ4ヵ月後の1月末となってしまった。しかも値段がなぜか1000円上がってるし(笑)。
最終号ということで予算も時間も少なかったか、コーナー数はたった8つと大幅減。しかも一つは2号から5号まで連載された「クスト総集編」で、読者投稿コーナーを除く残りはミニゲームコーナーばかり、どうしても内容の薄さが目に付くものとなってしまった。
前2号でマニュアル表紙を飾っていた「UBガールズ」も消え、5号でゲーム中のイラストを担当していた水玉蛍之丞さんのイラストが表紙となった。これが「UBガールズ」の代わりということなのか(笑)、創刊号以来の恋愛シミュレーションコーナーも水玉さんのイラストによる「水玉の変愛模様講座」となっている(「恋愛」ではない、「変愛」である)。水玉さんといえばこの時期あたりからゲーム雑誌によく絵が載り、特にPCエンジンユーザーにとっては、この直後に出る「天外魔境II卍MARU」(’92)の登場キャラ「カブキ団十郎」に水玉さんが激しくお熱を上げてあちこちでそのネタを描いておられたことで記憶されることになる(笑)。
さてこの「変愛講座」だが、第一章「ナンパ編」はなぜかRPG風味で(笑)、いい年して彼女もいない「王子」が彼女を得るべく冒険の旅(!?)に出るところから始まる。街中で綺麗な女の子を見つけてナンパ、いきなり「つきあってください!」と迫りアイテム一つで割とあっさり彼女にする事が出来る。続く第2章「男はツラいよ編」はのちの「ときメモ」を先取りしたかのような育成SLG風味(?)で、彼女があれこれと出す要求に応えてコマンドを出し「男を磨いて」いく。これもおおむね問題なくクリアできるはず。
第三章はクリスマスイブの夜に彼女の部屋に招かれて…という展開。欲望を押し出しすぎると負け、という展開だが実はシャワールーム覗きぐらいは大丈夫、というサービスぶり。「家にはほかに誰もいないの…」ということでメデタシ、メデタシになるのは初期の「実践デート講座」を思い出したりもするところ。もっともこちらは難度は低いしかなり軽めのノリで楽しめるミニゲームといったところだ。CGは水玉さんの原画の雰囲気をよく再現していると思う。
4号収録の「フォネ」が好評だったか、この6号でもオリジナルRPG「JANGKEN &FAIRIES」が収録されている。これはなんと「史上初のじゃんけんRPG」(笑)。まぁ毎度いろいろ考えるもんだ、と思ってしまうところ。
「グー」「チョキ」「パー」の三種の人間界、そして妖精界からなるという世界が舞台。ゲーム開始直後にいきなり冒険の旅に出たいと言い出す主人公に父親は「お前は実はグーの国の王子だ!」とこれまたいきなりな事実を告げ(笑)、とにかく大急ぎで物語は始まる。スタート地点の町には地下通路があり、そこを突破しなければならないのだがその入り口に最初の強敵がいてまず勝てない。やむなく自分の能力をあげるべくフィールドに出るわけだが…
タイトルから察せられたように、このゲームの戦闘には「じゃんけん」の要素が含まれている。もちろん全てがそうだというわけでもなくフィールドのザコ敵などには「じゃんけん」が無かったりもするのだが、ちょっと強い敵だと「じゃんけん」をして勝たなければ攻撃がかけられないという仕掛けになっている。うーん、思いつきは悪くないのだが正直面倒な気も…。
完全に「ドラクエ」のパクリだった「フォネ」に比べるとどうしても操作系の悪さが気になる。自キャラの動きが遅めだし、買い物や武器装備のシステムなどがかなり面倒。また街中の人に話す際にはボタンを押すのではなくただぶつかればいいことになっているため、街中の移動がかえって面倒になっているのも残念。
「ドラヤキクエスト」「となりのトロロ」に続くパロディADV(?)として6号には「フラグの国のアリス」が登場。ゲームの国に飛ばされてしまった女の子・アリスが繰り広げる大冒険だ。絵とシナリオは5号でインタラクティブマンガを載せていた衛藤ヒロユキ氏が担当しており、ゲームの「お約束」をネタにしたギャグ満載の爆笑ADVとなっている。主人公のアリスのキャラもいろんな意味で凄いし、アドバイス役になってくれるはずのウサギがいつも「知らん」としか言わなかったり肝心の場面ではいつも逃げちゃったりとかブラックな笑いに満ちている。
三章構成で、各章の最初からコンティニューすることが可能となっているが、「ズルしてるかもしれない」ということで二章、三章ではちゃんと前章をクリアしているかどうかクイズをしつこく連発してくるところも笑える。それらに紛れて「このゲームは面白かったですか?」とか意地悪な質問もしてくるし(笑)。
ゲーム自体は選択肢を選んで進めて行くだけのものだが即ゲームオーバーとなる選択もあり、終盤では連続して正しい選択をしなければならない箇所もあって攻略は結構大変。また数箇所で縁日の射的風シューティング(?)場面もあってアクセントになってもいる。
前号で書いた話とつながるのだが、このゲームに登場する老人の「ソ連の内政はどうなるんじゃろうなぁ」というセリフはそれとなく「時代」を感じさせる。製作段階ではまだソ連崩壊(91年12月末)にはいたっていなかったのだが、夏の保守派クーデタ失敗のあとあれこれ末期症状が出ていた頃なのだ。
恒例の「スポーツHシリーズ」は「どきどきドライブランド」。ゲーム自体はよくある見下ろし型ドライブゲームで、規定時間内にゴールにたどり着くことが目的。ステージ1から規定時間がかなり厳しいので、何度もトライして道を覚えてしまうしかないだろう。
「クスト総集編」は章ごとに始められる構成になっており、ついにセーブ機能もついて鑑賞しやすくなった。本編では使用されなかったカットなども入っている「完全版」であり、「クスト」だけ見たいならこの「6号」だけで十分、という内容になっている。
「PCエンジンソフト図鑑」のVOL.6は「メーカーからのコメント」が入っている点が目を引く。全12社の広報担当者が肉声で宣伝をする内容となっており、発売間近なものから結局発売されなかったものまで(とくに「テンゲン」の「マーブルマッドネス」の宣伝は貴重)今見るとなかなかに興味深い。とくにNECアベニューがRPG「モンスターメーカー」を発売間近として宣伝しているのには大笑い。ご存知の方も多いだろうが、これはNECアベニュー最大の問題ソフトで、91年ごろから「もうすぐ発売もうすぐ発売」と大宣伝を繰り広げるも発売延期を繰り返し、結局発売されたのがなんと1994年3月。しかも壮絶なまでにバグだらけのうえ続編「神々の方舟」で完結させるという中途半端な終わり方をし、あまつさえそれも結局発売されなかったというとんでもない経緯をたどることになる。NECアベニューの大物ソフト発売延期の繰り返しはこの時期からやたら目立つ傾向があり、PCエンジンの後継機「PC-FX」でもそれは如何なく発揮され(爆)FXそのものの運命すら決してしまいユーザーの大ブーイングを受けていたものだ。
「UBインフォメーション」の編集者コメントではついにこの「ウルトラボックス」が「冬眠」に入るということが明かされている。休養・充電の上、春には新規企画とともに「新生UB」を始めるとされているのだが、実際には再開する気はほとんどなかったんだろうなぁ…PCエンジンにはその立ち上げ時から力を入れていたビクター音楽産業だったが、期待したカラオケやアイドル路線も不発に終わり、このCD-ROMマガジンも商業的には成功したとは言いがたく、ゲーム以外の企画からは完全に撤退していく事になる。このころにはSCDも普及し始めていたんだから、「UB」もSCD版を出して欲しかった気はするのだが…。
◆「CD−ROMマガジン6号終了の法則」
…とでも呼べる説がPCエンジン・PC-FXマニアの間でささやかれたことがある(笑)。この「ウルトラボックス」が6号で終わり、それを引き継いだ形でゲーム体験版に狙いを絞った小学館のCD−ROMムック「PCエンジンCD−ROMカプセル」(1992〜1994)も6号で終わった。さらに後継機PC−FXの「アニメ戦略」の一環として始められ、事実上「FXユーザーマガジン」という役割も担っていた「アニメフリークFX」(1995〜1998)シリーズも6号で終了した。単なる偶然と言ってしまえばそれまでだが、「ウルトラボックス」(初代CD−ROM2)「CD−ROMカプセル」(SCD)も「アニメフリークFX」(FX)とそれぞれのハード自体の終焉とほぼ時を同じくしているのも目を引く。ハードの市場における寿命もおおよそ3年と言われているのでのんびり季刊ペースでやってると6号ぐらいでハード自体が終わってしまうということもあるんだろう。
どうも見渡した限り、この手の企画はその後どのハードでも現れていない気がする。ディスクマガジンっぽいのはあるにはあるが、単体での発売ではなくパソコン雑誌・ゲーム雑誌等の付録ディスクという形でしか出ていない。「ウルトラボックス」みたいなバラエティー豊かなものとしてはひところ月刊で刊行された(最近は季刊)アスキーのパソコン雑誌「TECH WIN」の付録CD−ROMが挙げられるだろうか。
CD−ROMという大容量の入れ物が出現した時、絵だって音だってあれもこれもバンバン入れられる、ということで思いつかれた全く新しい「マルチメディア」のCD−ROMマガジン。思いつきは悪くなかったし全く失敗だったとは言わないが、商業的にはほとんど不発に終わったと結論付けざるを得ない。家庭用ゲーム機をゲーム以外のことに活用しようという試みで成功したものはほとんどなく(せいぜいPS2のDVD再生ぐらいか)、この当時ビクター・ハドソン・NECが展開していたデータベースやアイドルグラビア、カラオケといったCD−ROM企画もいずれも不発に終わっている。この「ウルトラボックス」じたいも次第にゲームソフト化していかざるを得なかったし、「家庭用多機能コンピュータ」を意識したPCエンジンのコア構想じたいも「CD−ROMゲーム機」という方向へ一本化されていってしまう。
その後の歴史を見ればこれが単に普及度だけの問題ではないことがうかがえると思う。PS、PS2といった普及度の高いディスクゲーム機でもほとんどゲームソフトしか発売されていないし、DVDだって登場時はCD−ROMと似たような多機能性がブチ上げられていた覚えがあるが、結局のところほとんど映像ソフトに特化した商品になっていっちゃったし。あれもこれもと欲張りなもの、いくつかのジャンルにまたがるようなものはマニアにはともかく一般の買う側からするととっつきにくいのは確かなんだろう。
「ウルトラボックス」シリーズには今見ても斬新さを感じるのは事実。とくにCD−ROM草創期特有の作り手の実験精神・開拓意欲を感じるなど魅力も多い。だけど季刊ペースで5000円ほどの金を払って買うものとしては内容が少なく、ソフトとしての位置づけが中途半端である点も否めない。今さらだがCD−ROMの利点を生かしてゲーム体験版を入れちゃうとかPCエンジン雑誌に特化していけばもうちょっと生き残れたのでは…と思うのだが、それがまさに小学館の「CD−ROMカプセル」なんですよね(笑)。開発元は異なるのだが(「CD−ROMカプセル」はアルファシステムが開発)、PCエンジンソフト図鑑のデータも流用されているし精神的にも受け継いだところが多いのではないかと勝手に思っている。
◎各誌評価
★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
| 音楽
| お買い得
| 操作性
| 熱中度
| オリジナリティ
| 総合
|
3.666
| 3.083
| 3.875
| 3.250
| 3.333
| 3.500
| 20.708
第377位
|
★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
| 総合評価
|
浜村通信
| 7
|
アルツ鈴木
| 5
|
渡辺美紀
| 5
|
TACOX
| 5
|
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