TVゲーム全体の中でスポーツゲームの占める位置はかなり大きい。実際のスポーツは広い場所や設備や人数、そして運動能力が必要とされるが、それを家庭内で誰でも手軽に仮想的にプレイできるのがこのジャンルの魅力。TVゲーム出現以前にもスポーツを模したゲーム玩具は存在したし今なお人気があるのだが、コンピューターゲームの場合、「その他大勢」の人間をコンピューターが担当してくれるし面倒な作業もみんな処理してくれるのがありがたい。だから一人でもスポーツが出来るってのが最大の魅力かもしれない。もちろん複数人数の対戦の方が盛り上がるスポーツゲームも多いけど。
PCエンジンで発売されたスポーツゲームのジャンルを列挙すると、野球、サッカー、ゴルフ、バレーボール、テニス、バスケット、アメフト、アイスホッケー、ドッジボール…などなどやはり他機種でもおなじみのスポーツが並ぶ。しかしそんな中にあってひときわ異彩を放つのがこのソフトだ。なんとゲートボールをコンピューターゲーム化しちまったのである!恐らく世界でも唯一のゲートボールゲームであろう。そもそもこのスポーツ、日本産のものだしね。
ゲートボール。誰しもが「老人のスポーツ」という言葉をまず思い浮かべるであろう。実際本ソフトでも登場するキャラクターに老人が何人かいるあたりにそうした固定イメージがうかがえるのだが、本作は「ゲートボールってこんなに面白いスポーツなんだよ」とプレイヤーに訴えかけることを主眼にしている。当然遊ぶ側は大半が子供だからゲートボールのルールも知りゃしないだろうと、ルール解説コーナーが用意されている。そこで主張されるのは、ゲートボールと言うゲームがいかに知的かつ戦略的かつ凶悪な(笑)スポーツであるか、ということなのだ。
◆凶悪なる戦略性スポーツ!
ゲートボールのルールを僕もこのゲームのレクチャーで初めて知ったようなものなのだが、プレイヤーたちが2チームに分かれて各自のボールを打って転がし、競技場内に配置された四つのゲートをくぐらせてゴールを目指す、そしてその点数を競い合うという基本は単純明快なゲームだ。ゲートを通過させるともう一度打つ権利を得るのだが、敵味方のボールに当ててももう一度打つ権利が得られる。後者の場合、自分のボールに当てたボールを密着させて打つ(これをスパークという)ことが出来るのだが、これが敵のボールの場合は場外へ追い出し(一回場外へ出された玉は次回は場内へ打ち込む一打しか打てずかなりのロスになる)、味方のボールの場合はそれをゲート通過させるなど有利な方向へ打つことができる。
ここにゲートボールの「戦略性」がある。とにかくとことん味方を有利に運び、敵にはひたすら妨害工作を仕掛けることになるのである。どれかの玉に命中させる限り延々と同じ選手がプレイを続行できる仕組みになっているから、あっという間に一方的展開になってしまうことも少なくない。僕も慣れないうちはCPUチームによって味方チームの玉を次々と場外に打ち出され、ボコボコにされてしまったものだ。そんな目にあっているうちは指をくわえて見ているほかなく、悔しさは倍増するばかり(笑)。とにかく「性格悪いな〜お前」と激怒すること間違いなし。もちろん自分も徹底して性格悪く立ち回らねばならない。なんというか、「凶悪なる足の引っ張り合いゲーム」というのが、僕の本作から受けたゲートボールの印象である。なるほど、老人たちのゲートボールの集まりでいじめ問題が発生するのはこういうことか、などと思ってしまったりもした(笑)。
というようなゲームであるから、ボールを打つときも用心してかからねばならない。一歩間違えると敵チームによる徹底的場外追い出し攻勢をくらってあっという間に地獄へ一直線である。どこにどう味方のボールを配置するか、さらに味方の誰を主軸にしてボール運びを行うか、確かになかなかに戦略的な要素の多いゲームなのである。
味方の誰を主軸に、と書いたが、このゲームには登場人物が9人いて、それぞれに長所短所を持っている。プレイ開始時にこのうちから5人を選んでチームを編成するのだが、それぞれの長所短所をよく考えて試合に臨まねばならないのだ。もっとも、プレイする限りではそれほど個人差があるのか、疑問を感じなくもなかったけど。
慣れてくればそこそこ勝負できるのだが、CPU側チームはかなり強敵である。最初の「町内大会レベル」でも僕はなかなか勝つことが出来なかった。「シミュレーションモード」では打撃をCPUに任せることも出来るので、それでなんとか勝てたと言う体たらくで(汗)。
◆異例の素材ながらしっかりした作りの良作
このゲーム、ここに掲げた画面が基本的なプレイ画面なのだが、ボールを打つ段になると、ボールを打つ方向を決めるボール視点のウィンドウが開く。驚かされるのが、このウィンドウ内画面の3D(?)表示。そのボールから見て敵味方のボールがどのように配置されているかを見せてくれるわけだが、見る方向、標的とする位置を変えるとそれに応じてグリグリとスムーズに表示が切り替わっていく。やや細かい調整が難しい嫌いもあるが、この当時での擬似3D表示としてはなかなかのレベルだと思う。こんなゲーム(失礼)でこんな高等技術にお目にかかれるとは思わなかった。しかも、このゲーム、まだPCエンジン登場から丸一年という段階で出たソフトなのだ(もっとも年表見ると88年作品は実はいずれもかなりハイレベルだったりして)。
ゲームのタイトル画面では発売元のハドソンの下に「AZUMA」というクレジットが出るので、こちらが開発元なのだろう。ゲームでは打撃を全て自分で行う「アタックモード」、打撃の方向を指定するとあとは自動化してくれる「シミュレーションモード」、そして敵も味方も全て自分で操作して戦略研究・練習ができる「レクチャーモード」の三つが用意されており、上手い人も下手な人もいろいろと楽しむことが出来る。
対CPU戦では「町内大会レベル」「県大会レベル」「全国大会レベル」「世界大会レベル」が用意されている。まだ確認していないのだが、世界大会レベルで勝利するとHuチームとかいう最強チームが出現するのだとか。どのレベルでも制限時間を設定でき、手軽にひと試合を遊ぶことも出来る。いや、下手すると延々とお互いに足を引っ張り合ってなかなか終わらない可能性もあるんだ、このゲーム。あと勝利すると、勝利したチームの記念撮影が行われるという演出も、さりげないけど楽しい。
とまぁなかなかいいゲームだと思うんだけど、残念ながらPCエンジンはじめゲートボールをテーマにしたコンピューターゲームはこれ以後も出ていないらしい。やはり客層がとびついてこないのか。それともゲーム世代が老人になるまで待たなければならないのか…?
(注:この文中に「世界唯一のゲートボールゲーム」「ゲートボールゲームはその後出てない」といった記述がありますが、その後PSの低価格シンプルシリーズの一本として「THEゲートボール」なるゲームが出ていたとのご教示をいただきました。補足しておきます)キャラクター | 音楽 | お買い得 | 操作性 | 熱中度 | オリジナリティ | 総合 |
4.165 | 3.330 | 3.623 | 3.697 | 3.541 | 4.165 | 22.522 第162位 |
★★★ |
レビュアー | 採点 |
岩崎啓真 | 6 |
ウォルフ中村 | 7 |
小野泉 | 6 |
ドーピン和樹 | 8 |