キックボール  
ジャンル:スポーツ
媒体:HuCARD(3M)/バックアップメモリ対応
発売元:メサイヤ(NCS)
発売:1990年11月24日
価格:6200円
商品番号:NCS90004


商品外見◆「蹴り野球」をTVゲーム化!
 
 正式な名称があるのかどうか知らないが、子どもの時にいわゆる「蹴り野球」もしくは「サッカー野球」などと呼ばれる遊びをしたことがある人は多いだろう。僕も小学校の頃に何度か遊んだ覚えがあり、その時は「蹴り野球」と呼んでいた記憶がある。要するにサッカーと野球を組み合わせたもので、基本的なルールは野球と同じなのだが、ボールはサッカーボール状のものを使用し、バットで打つのではなくボールを足で蹴ってプレイする。地方ルールというやつで、遊び方の違いはあれこれあるようだが、野球に比べて難度も危険度も低いことから全国で広く遊ばれているようだ。

 この「キックボール」(’90)はその「蹴り野球」をTVゲーム化したもの。特に明記はされていないが、マニュアルによると登場キャラたちは「遊び場争奪戦」をしているという設定になっていて、やはり「子どもの遊び」としてポピュラーな「蹴り野球」のゲーム化と作り手も意識している。ゲーム業界全体でも他に例を聞かず、ゲートボールを扱った「あっぱれ!ゲートボール」(’88)と並ぶPCエンジンにおける異色のスポーツゲームである。もっとも「キックボール」に関してはこれをスポーツと呼んじゃっていいものかどうか、若干迷いも感じるが…。

 ゲームを起動すると、筋肉ムキムキのハゲたオッサンがボールをけっ飛ばし、そのボールが画面内をあちこち跳ね返って最後に蹴った当人にぶつかってしまうというデモがあり、「KICK BALL」というタイトルが表示される。この筋肉オッサンはゲームの登場キャラの一人なのだが、どういうわけかマニュアル表紙でも中央に位置して「主役」の扱いを受けており、彼以外のキャラでプレイすると最後に戦うラスボスともなっていて、このゲームの象徴的存在とされている。なんでこんなキャラを…と思うばかりなのだが、この辺に後年メサイヤが「超兄貴」(’92)を生み出す予兆を感じることもできよう。
 他に用意されているキャラも力士とかカッパとかタコとかアザラシとかヘンなのばっかりで…(笑)。さすがにそれだけではいけないと思ったのか、前年に発売されヒットした「改造町人シュビビンマン」(’89)のプレイヤーキャラ、「キャピ子」と「太助」も加わっている。子どもの感覚では最初は普通にこの二人を操作キャラに選ぶと思うのだが、それだけ「シュビビンマン」が当時広く遊ばれ(特に傑作というわけでもないと思うのだが不思議なほどヒットしたらしい)、メサイヤのマスコットキャラ化していたこともうかがえる。

 このキャピ子と太助、そして他のオッサンや動物たち合わせて7人から自分の操作キャラを選んで「キックボール」の試合をすることになる。当然ルールはほぼ野球と同じなので1チーム8人(キャッチャーが存在しない)で構成されているのだが、その8人が全部同じキャラであるのも面白い。つまり「キャピコズ」であればチーム8人全員がキャピ子で、個性はいっさい設定されていない。いわば「分身の術」状態で対戦しているようなものだ。キャラごとに喜んだり悔しがったり、エラー時のビックリ顔など笑っちゃうような絵がそれぞれに用意されており、それを見るのも一つの楽しみだ。


◆野球のようで野球でない

 「蹴り野球」のゲームが他に見当たらない理由の一つに、「野球ゲームとの差別化がはかりにくい」というのもあると思う。確かにバットで打つのと足で蹴るのとでは実際にやれば大違いだし、ボールがデカいだけに守備の仕方もまったく変わってくるのだが、TVゲーム上でこれをやると両者の違いはほとんどない。所詮は指先のボタン操作でしかないのだから。
 作り手もその点は苦労したのではないかと思う。実際「タイミング良く放つ」というだけならバットを振るのも足で蹴るのもパッド操作ではおんなじことになっちゃうのだ。このゲームではあくまで「蹴り野球」を再現しようと、キッカーはまず「助走」を開始し、それからタイミングよく「キック」を入れるという二段構えの操作が必要になった。これ、慣れるまではなかなか難しく、しかもボールを蹴るタイミングや力の入れ具合(?)でボールの飛びがずいぶん違う。タイミングが合わずに空振りを三度やったらもちろん1アウトだ。

 蹴ったボールが守備側に直接捕球されれば即アウトだし、ヒット性の当たりでも打者より先に1塁に投げてもアウトになる。つまりそこまでは野球と同じなのだが、大きな違いが一つある。このゲームではボールを走者に直接ぶつけてもアウトになる(塁への送球がIボタン、走者へぶつけるのがIIボタン)のだ。これはドッジボールの要素が入っているのだけど、「サッカー野球」「蹴り野球」の地方ルールでは実際に存在するようだ。この直接ぶつける要素があるために、野球のようで野球ではないゲームには確かになっているし、「直接ぶつける」という行為自体がストレス発散の快感にもなって(笑)、このゲームを面白くしている。
 ただし、ぶつけられる走者の方も伏せる、あるいはジャンプすることで「かわす」ことも可能。走者にぶつけてアウトをとるつもりでいたらヒラリとかわされてボールが誰もいないところへコロコロコロ…なんて泣くに泣けない状況にもなりがち。攻撃側、守備側双方の腹の探り合い、瞬時の判断がゲームの展開を左右するわけで、ここがこのゲームの一番面白いところかもしれない。

ゲーム画面 また、このゲームでは「必殺技」が導入されている。例えばピッチャーの操作は他の野球ゲームとほとんど同じでスピードやコースの投げ分けが可能だが、Iボタンを押して投げると「超速球」「消える魔球」「時間差魔球」など、ほぼ確実に打てない「魔球」を投げられる(必殺球の種類はチームごとに決まっているが、実質差はない)。もちろんその球を投げられる回数は5回と限られていて、ピンチのとき、ここぞという時に使用することになる。これをいつ使うかも守備側のポイントとなる。
 打者にも必殺技、「スーパーキック」がある。これはIIボタンで蹴った直後、というかそれとほぼ同時にIIボタンをタイミングよくもう一度押すと繰り出されるもので、これまた超速打球や消える打球など、チームごとに超絶打球が用意されている。しかしこれが実に難しく、狙って出すのは僕にはほとんどできなかった。だが成功すればまず捕球できない打球になり、状況によっては大量得点にもつながる。
 もっともこの「スーパーキック」もIIボタンを押すことでキャッチする必殺技もあるし、走者にぶつける時も走者に「かわす」余裕も与えぬ「スーパーシュート」(IIボタンの瞬時二度押し)を投げることができるなど、うまく出せればの話だが、「アストロ球団」ばりの超人野球状態を楽しめるのだ。

 ゲームの舞台となる球場も独特で、やたらボールが跳ねる「サイバー球場」とか、逆にあまり跳ねない「草原球場」、その中間の「バラ球場」(なぜかレンガとバラで構成されている)の三種類があり、特に跳ねる方と跳ねない方とではずいぶんボールの行方に翻弄される。
 また各チームは一人一人の選手に個性はないものの、チームごとに脚の速さ、キック力(打撃力に同じ)、肩の力(送球の力)に違いがあり、その違いをちゃんと把握することが攻略の鍵となっている。


◆CPUが強すぎる?

 このゲーム、もちろん2人プレイも可能で、プレイに慣れて来てから友達と二人で対戦するとなかなか盛り上がるのではないかな、と思う。だが一人プレイで遊ぶには正直キツいものがあると感じた。慣れてくればある程度勝負になってくるのだが、それでもやっぱりこのゲーム、CPU側が圧倒的に有利に作られていると言わざるをえない。

 まずCPU側打者が三振することがまずない。おまけにジャストミートの確率は結構高く、しかも捕球困難な「スーパーキック」を楽々と繰り出してくる。さらにはこちらが走者にぶつけようとすると一二塁間、あるいは三本間ではほぼ確実に、待ってましたとばかりに「かわし」てしまう。それでいて外野から二三塁間にぶつけ送球するとほぼ確実に命中したりするのだが…
 またこちらが打ち上げたフライをCPU外野はほぼ確実に取ってしまう。そりゃまぁ実際の野球でも達人はちゃんと打球の落ちる位置を予測できるのだろうが、このゲームでは蹴った直後にもうその落下位置にちゃんと待ってるんだからたまらない。こちらが守備の時も同じことができれば文句はないのだが、このゲームではボールが飛んでくるまで外野の守備位置がまったく映らないので操作のしようがない上に、他の野球ゲームにあるようなボールの影とか打球音といった落下地点の手がかりになるようなものは全くなく、外野フライ捕球がかなり困難なのだ。
 さらに、チーム人数がキャッチャーがいないぶん8人と実際の野球より1人足りないため、とくに内野守備の穴がかなり大きい。お互い様と言えばその通りだが、CPU側は画面内に見えない部分でもちゃんと把握して動いているとしか思えず、公平とは言い難い。また同時に多人数を操作しなければならないスポーツゲームの宿命とはいえ、走塁でも守備でも複数選手の操作はまだるっこしく、ベースカバーに走る選手はそばでボールが止まっていようが見向きもしてくれない。こうした選手の操作性の出来はもっと改善できたはずだと思う。

 それと、これはあくまで僕のプレイした印象なので確信はないのだが、どうもこのゲームでは「ゲームの流れ」というか、「運の勢い」の要素がCPU側に設定されてみるみたいで、走者が数人出るとラッキーなエラー(強烈な打球にポロッとこぼしてしまう)やスーパーキックが連発され、一気に大量得点、という流れがよく起こる。実際の野球でもそうした「流れ」「勢い」というのはあるのでリアルと言えばリアルなんだろうけど、守備しているプレイヤーはもはや手に負えない「炎上」状態。こちら側の攻撃にはそういうことはないみたいなので、これも不公平を感じてしまうところ。
 このゲームは5イニング制で、それまでに10点差がつくとコールドゲームになる。それでもコールド負けにならないことの方が圧倒的に少なかった。勝つにはとにかく相手を調子に乗らせないことで、その炎上状態になる前にきっちり歯止めをかけることが肝要のようだ。

 一人プレイの場合、いずれかのチームで他の6チームを全て破れば「優勝」となり、エンディングを拝むことができる(試合に勝つたびにパスワードが表示される。バックアップメモリにも対応)。単に夕陽をバックにチームのキャラが並んで「寿」ってお祝い文字が出るだけという、苦労の割に報われない感のあるエンディングだが…。キャラにしても背景にしても全体的に安っぽい作りなのが否めないのだが、お手軽に遊べるゲームには違いない。価格に見合うとは正直思えないんだけど、下記の当時のレビューを見るとそう悪くない評価なのは、「そこそこ遊べる」からなのかも。ヒットした「シュビビンマン」のキャラゲームという側面もあり、取説の裏にはおよそ5カ月後に発売となる「改造町人シュビビンマン2」(’91)の告知も載せられている。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.144
3.247
3.309
3.278
3.587
3.989
21.554
第265位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★

★(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真

ウォルフ中村

TOMOYO

ミロはじめ


★「ファミコン通信」クロスレビュー
レビュアー
総合評価
東府屋ファミ坊

水野店長

森下万里子

TACO・X



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