オーダイン
ジャンル:シューティング
媒体:HuCARD(4M)
発売元:ナムコ
発売:1989年9月4日
価格:6300円
商品番号:NC89004
◆ナムコのアーケード移植作の一本
ようやくナムコのソフトが出てきた。PCエンジン界におけるナムコ作品の数は結構多い(全25本)のだが、ゲームソフトのタイトルはアイウエオ順でやってるとなかなか出てこない。とくに「は行」と「わ行」に集中しているためなかなか書く機会が巡ってこないのだ。とりあえず「お」の段に入ってこの「オーダイン」と「おぼっちゃまくん」の2本のナムコ作品が登場する。
ナムコについて書くのはこれが初めてとなるので、ここでちょこっとナムコとPCエンジンの関わりについて触れておこう。
「ナムコ」はもともと「中村製作所」といい、1950年代に百貨店の屋上の木馬設置から始まって各種娯楽機器の製造販売を行っていた。1970年代からビデオゲームへも進出、「ギャラクシアン」や「パックマン」「ゼビウス」などの名作でゲーセン小僧たちを魅了する。80年代にはこれら名作をファミコンに移植して爆発的なヒットを飛ばし、ゲームソフト業界において安定した覇者の地位を確立していった。その後も度重なる家庭用ゲーム機世代交代も安定して切り抜け、ヒットメーカーの地位は揺るぎもなく、ゲーム機以外のアミューズメント事業もさまざまに展開している。浮き沈みの激しいこの業界にあって一番安定感のあるメーカーとも言えるが、創業50周年となる2005年にバンダイとの経営統合を発表、2007年現在ゲーム部門は「バンダイナムコゲームズ」なる会社に引き継がれている。
さてPCエンジンはその立ち上げ時、このナムコを強力なソフト供給サードパーティーとしていた。最大のサードパーティーはもちろんハドソン…と言いたいところだが、ハドソンはPCエンジンに関しては実質主催メーカーなので、立ち上げ時の本当の意味でのサードパーティーはナムコしかいないと言ってよかった(いちおうNECアベニューという存在もあるがこれも限りなく主催側といえる)。ハドソン以外から最初に出たPCエンジンソフトはナムコの「妖怪道中記」(’88)であり、ナムコはその1988年だけで「プロ野球ワールドスタジアム」「ギャラガ88」「プロテニスワールドコート」「ドラゴンスピリット」と立て続けに5本も発売している。このラインナップを見ただけでも当時のPCエンジンにとってナムコがいかに強力な助っ人であったか、またナムコ自身もPCエンジンに意欲的に関わろうとしていたかがうかがえる。
そもそもPCエンジン自体が「打倒ファミコン」を強く意識して立ち上げられたものだ。実質的にPCエンジンを開発したのはNECホームエレクトロニクスではなくソフトメーカーであったハドソンで、その動機にはファミコンの圧倒的なシェアを基盤とした任天堂の業界支配への不満があったとも言われている。ナムコがPCエンジン立ち上げ時のソフト供給メーカーに名乗りを上げていたのも、対任天堂戦略でハドソンと同調したものだろう。両者ともファミコンへのソフト供給はその後も相変わらず続けるのだが、少なくとも任天堂への「牽制」という狙いはあったと思う。
ところでPCエンジンソフトが並ぶ棚を見た人はお気づきだろうが、ナムコのPCエンジンソフトのパッケージは他のソフトのそれと異なるデザインで統一されており、かなり目立つ。普通は「PCengine」「HuCARD」の共通ロゴが背表紙と説明書表にデザインされているのだが、ナムコのソフトの背表紙には「ピーシーエンジン」とカタカナで表記、「HuCARD」の代わりに「namcoT」(ナムコのゲームソフト用ブランド)のロゴがあしらわれている。「HuCARD」のロゴは説明書表に表示されているのだが、説明書内では「ROMカード」などと書かれ、他社の説明書に必ずある「HuCARDはHEシステム専用です」の文章も見当たらない。そもそもHuCARD自体も裏に「namcoTHuCARD」と大書されており、なにやら「ナムコ独自仕様」な感じなのである。
正確なところはわからないのだが、ナムコはPCエンジンソフトの媒体自体を自社製造していたのではあるまいか(HuCARDはハドソンの商標で、製造もハドソンがやっていたらしい)。またパッケージデザインが自社独自のもので許されている(?)ところなども、初期PCエンジン界においてナムコがいかに大きい存在であったかをうかがわせる。実際、当時のファミコンでは不可能だったアーケード作品の移植を中心とするナムコの「ピーシーエンジン」ラインナップは、ゲーマーたちにPCエンジンをハードごと買わせることにかなり貢献したはずだ。
しかし…そのナムコもHuCARDの衰退とスーパーファミコンの登場により、傑作の呼び声も高いアレンジ版「ドルアーガの塔」(’92)を最後にあっさりとPCエンジンから手を引いて行った(聞くところでは開発開始時点でこれが最後と決めていたらしい)。次第にPCエンジンの中心となっていったCD-ROMには目もくれず、HuCARD時代のみのソフトメーカーで終わってしまったのだ。ナムコがCD-ROMソフトを出していたら…?という妄想も浮かぶのだが、あくまで手軽に遊べるHuCARDソフトのみに徹した潔さも評価したいところである。
◆回転機能は無理やり移植!
最初のナムコ作品ということでゲーム以外の話が長くなってしまった。そろそろ本題の「オーダイン」にとりかかろう。
本作「オーダイン」は、もともと1988年にアーケード向けにリリースされた横スクロールシューティングゲーム。悪人「クボタ」にさらわれた婚約者「香奈」を救うべく天才科学者「泊祐一郎」が戦闘機に乗って敵のもとへ〜というプレストーリーがついており、助手の「サンデー珍」も協力する2人同時プレイが可能というところが売りだった。
グラフィックはこの時期のナムコ作品に共通する、コミカルで原色を多く使った、一見「子供っぽい」絵柄で統一されている。しかし拡大縮小・回転を可能とする当時としては最新鋭の基盤「システムII」上で製作されているため、随所にそれらを使った目を奪う演出が加えられていた。特に2面の溶岩洞窟を潜り抜けるステージで出てくる「回転迷路」なんかは今見てもなかなかインパクトがある。全体的に「遊園地風味」なデザインだ。
敵を倒すといくつかのパターンで「クリスタル」が手に入り、そのクリスタルで途中に出現する空中ショップ(「みゆきちゃん」なる女性店員が相手をしてくれる)で武器を購入してパワーアップしていくシステムを採っている。ただしこのゲームではそれらパワーアップ武器のうちビーム兵器は一定時間しか使えず、状況に応じてどの武器を購入・装着するかが攻略のポイントになっていた。
武器はショップだけではなく、時々登場する福引ショップ「DreamCo.,Ltd」でも手に入れることが出来る。ここでは掛け金を払って縁日の射的のように番号が書かれた回転する的を撃ち、命中した番号に応じてお金や武器がもらえるしくみ。的の回転はそう速くもないので慣れてくると狙った番号をちゃんと射抜け、強力な武器を入手することも容易だった。
さてPCエンジン版はアーケードのリリースの翌年という、割と早い移植である(この当時のアーケードからPCエンジンへの移植は数年遅れも珍しくなかった)。ゲーセン稼動現役バリバリともいえる時期に移植されたわけで、ユーザーの期待度も高く、当時の雑誌の評価もわりあい高めだ。
その移植度だが、作り手が忠実さをこころがけて移植しているのは確か。原作のグラフィックの雰囲気を可能な限り生かしており、敵やショップの出現タイミングや敵ボスの「堅さ」など、原作を遊んだ人もそう違和感を感じないであろうレベルにはなっている。また売りである「2人同時プレイ」もPCエンジンのマルチタップにより再現可能だ。ただしPCエンジンの能力でも無理なものは無理で、特に原作の売りであったステージ中の回転表現は軒並みカットされるか「もどき」のものに変更されてしまっている。
初プレイ時に2面の溶岩洞窟で上から丸い赤の物体が次々と妙なタイミングで「降ってくる」ことに「こりゃなんだ?」と思っていたのだが、あとでアーケード版の「回転迷路」の動きを見てようやく意味が分かったほど。要するに回転迷路の再現は無理だったので、「赤い丸」の群れを回転風味に動かしてソレっぽく見せていたのだ。僕などは原作を知ってからようやく「回転」風味に動いていることに気づいたというわけ。
4面でも回転機能を使った「風車」のギミックが登場するが、これも原作そのままとはいかず、丸い物体をいくつもつなげ、それぞれを回転風味に動かして「風車」っぽく見えるようにするなど(左図参照)、涙ぐましい努力が見える。回転といえば「DreamCo.,Ltd」の射的も回転式ではなくスライド式動作に変更されている。
ゲームの難度はアーケード版とそう変わらない。敵機がかなりの数出てくる上にどれもかなり「堅い」ので二人同時プレイが前提になってるかな、という気もしなくはない。攻撃方法は前方へのビームと下方へのボムの二種類の攻撃が同時にできるのだが2つのボタンを一緒に押しまくる羽目になるため一人でやってるとかなり指が疲れる。これも二人で前方・上方と下方の攻撃を手分けしてくれということなのだろう。説明書でもアイテム購入のヒントとして二人の役割分担を勧めている。
ただ一部のパワーアップアイテムにはゲームバランスを思いっきり崩してしまうものも存在する。最たるものが「ストックボンバー」。これを装着するとバリアが張られて敵の弾(オレンジ色の小さいものに限る)はいっさい当たらない上に前方についている口(そういえば同社のマスコット「パックマン」に似ている)で敵の弾をパクパクと吸収してしまう。おまけにその弾のエネルギーをためこんで強力なビームを放って敵を撃破するという実に便利な武器なのだ。さらに他のビーム兵器が一定時間しか使えないのに対して「ストックボンバー」は使用時間無制限、ただ障害物にぶつかると消滅するという仕組みなので、物にぶつかりさえしなければ実質無敵状態だ。この強力すぎる武器はさすがに高いのでそう手に入らないのだが、うまくやれば「DreamCo.,Ltd」の射的でも手に入れられるので、一部のゲーマーからは「強すぎる武器」との批判もあったようだ。ボム系でも「ファイヤーボム」もかなり強力で、一部ボスなどはその一発だけで撃破可能だったりする。
この時期ナムコは自社のアーケード人気作をPCエンジンに数多く移植しており、ナムコのPCエンジンソフト群はそのまま「ナムコ80年代後半傑作集」の観もある。中には「よくぞここまで!」と移植度に感心するものもあるが、多くは本作のように若干の表現カット&強引なスケールダウン再現(笑)によるもので、アーケード版に親しんだ熱狂的ゲーセン小僧たちからは悪口を言われたようだ。PCエンジンだとなまじ見た目には忠実移植っぽいから余計に悪く言われるところもあったかもしれない。
「アーケードそのまま」にこだわるのであれば、今となってはわざわざPCエンジン版をやる必要はなく、プレステなどで出た「ナムコミュージアム」シリーズで遊ぶのが正解だろう。本作「オーダイン」は「ナムコミュージアムVol.4」に収録されている。PCエンジン版に関してはむしろ当時最新アーケードゲームをどのようにPCエンジンの能力内に「落とし込む」かが見所で、その工夫ぶりを楽しむべきなのだ。
あ、そうそう、PCエンジン版オリジナルの要素として「香奈ちゃんモード」というのが存在する。本来は主人公に救出される役であるはずの香奈ちゃんがプレイヤーキャラになってしまうという裏モードで、Iボタンを3秒以上押しながらRUNでゲームをスタートさせると香奈ちゃんの顔グラフィックが出て「香奈いきま〜す」と出撃してしまうのだ。もっともゲーム中は顔が小さいこともありほとんど表モードとの変化は無い(サンデー珍との2人プレイも可能)。エンディングだけ違っているのだそうだが、クリアしていない僕はまだ未確認だ(汗)。
(追記)本作は2007年8月21日から任天堂「Wii」向けの「バーチャルコンソール」の一作として配信されている。
◎各誌評価
★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
| 音楽
| お買い得
| 操作性
| 熱中度
| オリジナリティ
| 総合
|
4.2
| 3.9
| 3.4
| 3.9
| 3.7
| 3.5
| 22.535
第161位
|
★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
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