エイリアンクラッシュ

ジャンル:テーブル
媒体:HuCARD(2M)
発売元:ナグザット
発売日:1988年9月14日
価格:5200円
商品番号:NX63001


外見◆ナグザットソフト第一弾はダークなピンボール!


 このソフトの発売は1988年。PCエンジンの誕生からほぼ一年後という最初期の段階だ。この時点でのPCエンジンに参入しソフトを発売していたサードパーティーは(ハドソンは事実上の盟主だからはずしておくと)ナムコ・メサイヤそしてNECのソフト部門NECアベニューぐらいしかなかった。そんななかにひょっこりと「ナグザット」という聞きなれないソフトハウスが自社ブランドでこの「エイリアンクラッシュ」を発売していた。PCエンジンとナグザットの長い長い付き合いがここから始まったのだ。

 ようやく最近になって知ったことだが、「ナグザット(NAXAT)」というのはコンピュータ周辺機器などの開発会社「加賀電子」の子会社で、加賀電子のブランド名「タクサン(TAXAN)」をひっくりかえして社名にしたということだそうな。ファミコン時代に活動していたのかどうかは確認してないが、PCエンジンの立ち上げ時からソフト開発にとりかかっていたことは間違いない。当時の雑誌記事によると、この第1弾ソフト「エイリアンクラッシュ」は当初ハドソンブランドで発売されることになっていたが(そういうソフトは初期に限らず結構多い)、ナグザット自社ブランドでの発売に変更された経緯があったようだ。それだけ社運をかけていたし自信のあるソフトということだったんだろう。
 それ以後、ナグザットは実に多くのゲームソフトをPCエンジンで発売していく。その総数は50タイトルにおよび、ハドソン、NECアベニューに次ぐ第三のPCエンジン主力メーカーとなっていった。PCエンジンで急成長した勢いでスーパーファミコンでもソフトを発売し、ハドソンの「全国キャラバン」をマネして「サマーカーニバル」なんてイベントまで開催するほど事業を拡大していったが、SCDが中心となったPCエンジン後期には「スーパーリアル麻雀」シリーズの移植などギャルゲーばかりを連打するようになり、まさにPCエンジンと歩みを共にするように衰退の一途をたどってしまった。PCエンジンの次世代機PC-FXにもやっぱり「スーパーリアル麻雀」で参入していたが、結局それっきりに。ナグザット自体も「加賀テック」に名前を変え、PS・SSでゲームを発売していたりもしたが、やがて開発自体もやめてしまった。一部で有名な秋葉原の中古ゲーム店「紙風船」が実はここが経営していたというのも最近初めて知って驚いたりしたものだ。

 さてそんなナグザット、僕なんかはPCエンジン後期からしか見ていないもので、ハッキリ言ってここのイメージは移植もオリジナルも含めて「中途半端なギャルゲーメーカー」という印象しかなかった。その第一弾がピンボールゲーム、というのがそもそも意外で、しかも実際にやってみるとこれがまたえらいダークなデザインになっていて驚かされたものだ。


◆二画面構成の不気味なピンボール台

 ゲームを起動するといきなりドヨーンと響く不気味な音楽に合わせて、かなり気持ち悪いデザインのタイトルが表示される。タイトルにもあるように、このゲームのデザインはSFホラー映画の名作「エイリアン」を明らかに意識している。ピンボール台は隅から隅まで「エイリアン」で見かけたような不気味なアイテムで覆われていて、実際にH・R・ギーガーさん(「エイリアン」のデザインを務めたホラー画家)がデザインに参加してやしないかと思えるほど。あ、「ブレードランナー」(監督は「エイリアン」と同じ人)のデザインをしたシド・ミードさんが参加したPCエンジンソフトは実在するんですよね。

 ゲームを始める前にゲームの速度(ボールの移動速度)とBGMを選択させられる。速度は「FAST」「LOW」の二種類があり、特に難易度が大きく変わるわけでもないので好みのほうを選べばいい。BGMはどちらもデスメタル調というか、やはり不気味さを前面に押し出しつつも耳にこびりついて離れなくなる中毒性のある曲が2つ用意されている。こちらも気分で選ぼう。

ゲーム画面 ゲームの操作系は単純そのもの。Iボタンタメで発射点からボールを打ち出し、十字キー左とIボタンで台の中に二箇所ある左右二つのフリッパーを動かしてボールを打てばいいだけだ。台は上部と下部の二画面にまたがる構成になっていて、それぞれにフリッパーが一つずつ用意されている。実際のピンボール台のようにやや傾けてある作りになっていて、ボールはやや遅い自然落下で下へ下へと転がっていくから、二箇所のフリッパーを動かしてこれが一番下まで落ちないようにボールを適宜跳ね上げてやるのだ。
 また筆者は知らなかったが実際のピンボールゲームには「台揺らし」というテクニックがあり、それはこのゲームでも再現されている。IIボタンを押すと台全体が微妙に揺れ、ボールが少し変則な動きをするのだ。もっとも加減が難しいのであんまり使い勝手はよくないし、それよりはフリッパーの動きに注意を払った方がいいような。

 二画面分の台の描画は、上か下かボールが入っている方に画面を切り替えながら映す仕掛けになっている。このためボールが上画面に入ったり下画面に入ったりを繰り返すと、そのたびにパッパッと画面が素早く切り替わり、その切り替わりが激しいとかなり目が疲れる
 また、上画面と下画面ではボールが行き来するところだけつながっていて、それ以外の部分では時間が全く別処理になっているのも気になる。例えば下画面で何か目標物を壊してモンスターなどが飛び出した直後にボールが上画面へ行くと、その間、下画面部分ではボールが戻ってくるまで時間が止まった状態になっているのだ。モンスターをボールで撃つと点数が入るわけだから時間が止まっていること自体はありがたくもあるのだが、ひとつながりのピンボール台としてはやはり不自然。ピンボールゲームとしてはリアルさを目指してるだけに残念にも思える。
 こういうつくりになったのは恐らく技術的原因だろうが(PCエンジン初期のため容量が少ないことも一因か?)、後に出た続編「デビルクラッシュ」(’90)では三画面分の全面スクロール表示に変更されている。

 二画面の切り替えの難に目をつむれば、それ以外ではPCエンジン初期の、それも同社第一号ゲームでこれほどの出来が!と思えるほどの出来。台の各所に用意されたさまざまなギミックの動きには目を見張らされる。ボールを景気よく弾き飛ばすスプリング、映画「エイリアン」の口の中から出てくるそれと同じように突き出すターゲット、スライムを全て倒すと出てくる「ゴール(下に落ちるのを防止する)」、何度もボールを当てると割れてエイリアンが出てくる「卵」など、いろんな仕掛けがあって飽きさせない。


◆多彩なボーナスステージで点を稼げ!

 上画面には各所にホールが設けられており、各種の条件をそろえた上でホールにボールを飛び込ませると、「ボーナスステージ」に入ることができる。ボーナスステージは4種類用意されていて、いずれも一画面のピンホール台。ステージ内にうごめくさまざまなターゲットにボールをぶつけて破壊し得点を挙げるというミニゲーム的な内容だ。

 画面中にうごめくエイリアンたちにボールを当てて穴に落としていくゲーム、あるいは画面内各所にあるスイッチを全て押すゲーム(簡単そうでこれがなかなか難しい)、子分のエイリアンをグルグルと周囲に回転させているエイリアンを全滅させるゲームなど、それぞれにほどよい難度で面白い。 
 一番熱中するのは画面内をウネウネと出入りするムカデ状の大型モンスターにボールを当てて破壊していくゲームだろう。PCエンジン初期のものとしてはほとんどちらつきもなく素晴らしい処理がなされた破壊快感度のかなり高いミニゲームだ。
 このボーナスステージ、本編同様にボールを落とすとゲーム終了となるが、あくまで「ボーナス」なのでボール自体は失われることなく本編に戻るだけなので気軽に遊べるのも嬉しい。うまいことクリアすれば(ゲームによってはかなり難しいが)さらにクリアボーナスがついて高得点が得られるから、なおさら熱中しちゃうだろう。実のところ、このゲームの一番のキモはこのボーナスステージなのではないかという気もする。

 ゲーム開始時点では「持ち玉」は3個だけ。条件はっきりしないのだが、一個も落とさずに一定の高得点(500000点ごと?)をたたき出せば持ち玉が増える仕掛けになっているようだ。「ようだ」と書いたのはどうもこの持ち玉増加があったりなかったりしたからなのだが…マニュアルにもこの点は明確に書かれておらず、何か細かい条件があるのかもしれない。
 持ち玉を全て落っことしてしまったら、もちろんゲームオーバー。ただし一回だけチャンスが与えられ、スロットの目押しゲームをすることができる。表示された数字と同じ数字をタイミングよくボタンを押して表示できたら持ち玉が一個だけ増えてゲームを続行できるのだが、かなり難しいので当たればラッキーというぐらいに思っておくしかない。

 なお高得点でゲームを終了すると、ゲームセンターのゲームのように高得点ランキングに自分の名前を入れられる画面が出る。ゲームの電源を切らない限りこのランキングがデモ画面で表示され、さらに新記録を出せば新たなランキングが作成される仕掛けになっている。しかしこのPCエンジン最初期の段階ではセーブのためのバックアップメモリは存在しなかったため、電源を切ってしまうとこの高得点記録を保存することが出来ないのが残念。

 本作は独特のホラータッチデザインのうまさ、手軽に遊べて飽きさせない単純明快にして工夫の多いつくりなどでPCエンジン初期ゲームの傑作の一本として紹介されていることが多い。さすがに二画面切替方式には難があるとしか言いようが無いが、その難点を解決した続編「デビルクラッシュ」ともども、今なお手軽に遊べる古典的傑作として手元に置いておきたい一本だ。

(追記)本作は2007年1月9日に任天堂「Wii」向け「バーチャルコンソール」の一作として配信されている。さらに2010年2月17日にPS向け「ゲームアーカイブス」でも配信された。


◎各誌評価

★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
4.012
3.783
3.528
3.872
3.796
3.668
22.662
第148位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★★

★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
東府屋ファミ坊

水野店長

森下万里子

TACOX



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