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投稿日: 2015/03/08(Sun) 23:44
投稿者Ken
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タイトルエステル記、ヨブ記

『エステル記』

 ここまで歴史を述べる書が続いてきたが、エステル記はまったくのフィクションである。しかもルツ記とは正反対の野蛮な物語で、バイブル全篇でこの一書だけは、神という言葉が登場しない。書かれたのは前一三〇年頃と思われ、長い雌伏の後、ユダヤ人が久しぶりに独立国を持った時期に当たる。この話が描く戦闘的な民族主義が人気を呼び、バイブルの中に強引に座を占めたのであろう。時代設定については、

エステル記1章1節:アハシュエロスのとき、

 つまり前四八六年から前四六五年までのクセルクセス一世の治世とされる。ペルシャ帝国はまだ強盛だが、下り坂の兆しも見え始めていた。

エステル記1章1節:インドからエチオピアまで、百二十七州に君臨したアハシュエロスのことだが

 これは帝国最盛期の国土を正しく伝えている。またインドの名がバイブルに初登場している。ダレイオスからアレクサンダーまで、前五〇〇年から前三〇〇年までは、インダス渓谷からヨルダン渓谷までが統一政体に含まれた珍しい時代だったのである。

 エステル記は、アハシュエロス王三年にシュシャンの宮殿で半年も続く大宴会が催されたことを語る。(史実のクセルクセスは、この年つまり前四八四年、エジプトとバビロンの反乱を鎮圧し、ギリシャ遠征へ向けて大軍を編成しつつあった。)大宴会の最後に、帝国の官吏だけを集めた宴会がもたれた。

エステル記1章9節:またワシュティ王妃は、王家の女たちのために宴会を開いた

 この時期のクセルクセスの王妃の名はアメストリスだった。ワシュティはエラム族の女神の名である。ワシュティが自分の宴会を開いている時に、王から突然の召し出しがあった。ワシュティが行けない旨を返答すると、気の短い王は、彼女から王妃の地位を剥奪し、代わりの女を見つけるために、国の美女を集めることを命じた。

エステル記2章5節:このとき、シュシャンにモルデカイという名のユダヤ人がいた
エステル記2章6節:彼はエコニヤと共に、ネブカドネザルがエルサレムから連れてきた
エステル記2章7節:彼は叔父の娘ハダシャーまたの名エステルを連れていった

 このとおりなら、前五九七年に連行されたモルデカイが、前四八四年に生きていたわけで、彼も従妹のエステルも百歳を超えていたことになる。物語の舞台よりも三世紀半未来の作者が、年代も確認せずにいい加減な創作をしたことが分かる。モルデカイはヘブライ語ではない、というよりバビロニアの神マルドゥク(ヘブライ語ではメロダク)を連想させる。ではエステルはといえば、これはもっとはっきりしていて、バビロニアの女神イシュタル(アラム語ではエステル)に他ならない。本名のハダシャーは「花嫁」を意味するバビロニア語で、これまたイシュタルに付けられた称号である。そしてバビロニア神話では、マルドゥクとイシュタルはいとこであり、そのままモルデカイとエステルの関係になる。エステル記の著者が、神話を換骨奪胎したことは疑いようもない。

エステル記2章16節:アハシュエロス王七年、エステルは王の元へ連れて行かれ
エステル記2章17節:ワシュティに代わって王妃とされた

 クセルクセス王七年は前四八〇年、サラミス海戦の年である。一方、アハシュエロス七年の宮廷では、エステルがモルデカイの助言に従ってユダヤ人の正体を隠し、これがアハシュエロス転覆の陰謀をモルデカイが知ったとき役立つ。モルデカイはエステルに秘かに知らせ、エステルが王に警告して、陰謀者は処刑され、モルデカイの功績が認められる。

 ここで物語の敵役が登場する。

エステル記3章1節:この後アハシュエロス王は、アガグ人ハンメデタの子ハマンの位を進め、王族の上に置いた

 つまりハマンは宰相になったわけだ。ハマンの名はどの史書にも登場しないが、エラム神話の主神の名がハンマンという。こうなると歴史のある部分が見えてくる。スーサに都を置くエラムが滅んだ結果、スーサの主がエラムからバビロニアに代わったと考えれば、バビロニアの神マルドゥクがエラムの神ハンマンに代わり、バビロニアの女神イシュタルがエラムの女神ワシュティに代わってもよいではないか。すでにエステルはワシュティに代わって王妃となった。この後、モルデカイがハマンに代わって宰相となるのである。

 ハマンはアガグ人というが、そんな種族はバイブルのどこにも出てこない。ただアガグはサウルに敗れ、サムエルに殺されたアマレク人の王だった。ハマンがアマレク人なら、宿敵イスラエル人への復讐のため現れたのは筋が通る。

 ハマンのユダヤ人への憎悪は、群臣の中でモルデカイだけがハマンに臣下の礼をとらなかったことで、さらに増幅された。ハマンはユダヤ人たちを殺すべき吉日を占った。

エステル記3章7節:アハシュエロス王十二年、プル、つまり籤を行った

 後にユダヤ人の間で、エステル記の出来事を記念する祭を生じ、プリムと名づけられたが、プリムはプルの複数形である。この祭りは現代まで受け継がれている。もしかするとプリムの起源は、マルドゥクとイシュタルに関連したバビロニアの祭をユダヤ人が取り入れたのではなかろうか。それが後世になって異教の神話ではなくユダヤ人の物語を記念したのだと説明するために、エステル記が創作されたのかもしれない。

 ユダヤ人退治の日を決めると、ハマンはユダヤ人が王命に背く謀叛人であると王を説得し、ユダヤ人を殺す許可を得た。モルデカイはエステルに連絡し、エステルは王命を取り消させる計画に着手する。彼女はハマンを招いての宴会を提案し、王の許可を得る。一方、ハマンは彼の妻から新たな提案を得る。

エステル記5章14節:妻のゼレシュは言った。絞首台を作り、モルデカイを吊るしなさい。

 エラム神話のハンマンの妻はキリシャという。ゼレシュはその変形ではなかろうか。

 物語の結末は、宴会の席でエステルがユダヤ人の正体を明かし、ハマンの命を要求し、アハシュエロスは許可して、ハマンはモルデカイのために用意した絞首台に吊るされるのである。ただし、ひとたび出されたユダヤ人討伐の王命は、取り消すことはできなかった。そこでユダヤ人は防衛戦を戦うことを許され、見事に勝利するのである。もちろん、そんな内戦の記録など史書のどこにもありはしない。

 なお、エステル記には後になって加筆された部分があり、その中ではハマンはマケドニア人になっている。クセルクセス時代のマケドニアはペルシャに服従する弱小民族だったが、エステル記が書かれた時代には、マケドニア人のセレウコス朝がユダヤ人の最大の敵だった。太古のアマレク人よりよほど敵役にふさわしいと思われたのだろう。


『ヨブ記』

 ヨブ記は思想表現ドラマといってよい。フィクションとしての歴史を述べる意図すらも皆無で、いつの時代を舞台にしたのかさえ分からない。

ヨブ記1章1節:ウツの地にヨブという名の男がいた

 ヨブの系譜も人物も述べられないのは、その必要もないほど、物語が書かれた時代には、よく知られていたからだろうか。なるほど、大変な不幸の中で信仰を貫く理想の人として描かれており、人気を博した物語であったろう。実はこの話の元になった古い伝承があり、ヨブ記の著者が自己流に脚色したものと思われる。預言者エゼキエルはバビロン捕囚の中に生きた人物だが、古くからの伝承の方に言及したような記述があり、次のような神の言葉を記している。

エゼキエル書14章13節:国が罪を犯して私に背いたとき、人と獣を追放させた
エゼキエル書14章14節:その中のノア、ダニエル、ヨブの三名だけは、自分の魂を救えるが

 では、そのヨブはどこに住んでいたのだろう。

ヨブ記1章3節:彼は東の最も偉大な男だった

 どうやらヨブはカナンの東方の豊かな族長らしい。だが彼の居住地は冒頭でウツと書かれている。そしてウツは一つの部族の始祖として創世記に現れる。

創世記10章23節:そしてアラムの息子、ウツ、

 アラム人はシリア人のことだから、ウツもカナンの北方と思われる。一方でエレミヤ書25章には、ウツはエジプトとペリシテの間にあるように読める箇所があるし、もっとはっきり書いているのは哀歌の書であろう。エルサレム滅亡を喜ぶエドム人を呪う一節である。

哀歌4章21節:せいぜい喜ぶがよい、エドムの娘よ、ウツに住まう者よ

 エドム人はカナンの南方にいた部族である。結局ヨブがいたのは、東方、北方、南方のどれともとれるのである。

 ヨブが紹介された後、場面はいきなり天上界に切り替わる。

ヨブ記1章6節:ある日、神が群臣の前に出御された。その場にサタンがいた

 どうやらサタンの仕事は、人間の信仰心が本物かを試すことだったらしい。ペルシャ神話の悪魔は神と対等だが、バイブルではあくまでも神に従属し、何を行うのも神の許しを必要とする。この場で神はヨブの信仰心を褒めるが、サタンは、豊かさと幸福の中にいる者が神に感謝するのは当たり前だと指摘し、ヨブを試すため不幸に落とすことの許可を得る。こうしてヨブは全財産を失い、息子にも娘にも先立たれ、彼自身も重い病に襲われる。

 これに対するヨブの反応が、元の話とバイブルに収録された話で異なる。元の話ではヨブは磐石の信仰心をもち、神を恨む言葉を一切発せず、おかげで元の幸福を取り戻したことになっている。バイブルのヨブ記も結末は同じだが、そこへ至るまでにヨブは神の悪意を激しく呪う。これがあればこそ、ヨブ記は読む者にとって価値を持つといえよう。

 ヨブ記の倫理的、神学的内容を語るのが本書(バイブル・ガイド)の目的ではない。それよりも少し天文の話をしよう。ヨブは、神は気まぐれな暴君だが人間の力ではとても敵わないといい、神が天空の星座を作ったことを語る。

ヨブ記9章9節:神はアークトゥルス、オリオン、すばる、南の家々を作った

 ここで「オリオン」と訳されているヘブライ語は「ケシル」で愚か者を意味する。ギリシャ神話のオリオンは狩人だが、オリオン座はバビロニアでは縛られた男と見られていた。捕囚中にバビロニアの天文学に触れたユダヤ人は、縛られたのはニムロド王で、神に挑んでバベルの塔などを建て、捕縛された愚か者と考えたのだ。また「すばる」と訳されているのは「キマー」という語で、密集した星を意味する。すばる星団が想像されるのは自然である。

 「アークトゥルス」と訳されているのは「アシュ」だが、明らかに誤訳である。そもそもアークトゥルスは単一の星で、星座ではない。後のほうで、神がヨブに、人間の卑小さを思い知らせる発言の中にも登場しており、

ヨブ記38章32節:お前はアークトゥルスとその息子たちを導けるか?

 ここでも、アークトゥルスの息子たちでは、なんのことか分からない。だが夜空を見ればそれに適合する星座はすぐに見つかる。それは北斗七星で、柄杓の柄の部分が親に続く子供たちと見られる。アシュはアークトゥルスではなく、北斗にちがいない。

 神を呪うヨブに、神の偉大さと人の卑小さを思い知らせる神の言葉は、これだけではない。

ヨブ記40章15節:ベヒモスを見るがよい。私はお前を造った時この巨獣も造った。これは牛のように草を食べる

 草を食べる大型の獣というと誰もがゾウを思い浮かべるだろう。だが、

ヨブ記40章21節:それは葦と水に身をひそめ
ヨブ記40章22節:水辺の木々に包まれ

 というから水に棲む動物で、むしろカバと思われる。古代のエジプトでは普通に見られた動物で、ヨブ記の著者がエジプトの住人と考えると、ヨブの居住地の記述に見られる、カナンの地理についての混乱も納得がゆく。だが、ベヒモスは後に神話的な巨獣として、想像されるようになった。

 神はベヒモスに続いて、別の怪獣を語る。

ヨブ記41章1節:レヴィアタンを鉤にかけて引き出せるか?

 レヴィアタンは明らかに水棲動物として描かれている。カバに対する、ナイルの巨大ワニと考えられることもあるが、ワニよりはるかに巨大なクジラという説もある。しかしやはりベヒモスと同じで神話の巨獣と考える方が、記述と合致するようである。バビロニア神話の主神マルドゥクは巨大怪獣ティアマトを殺して、世界を創る材料とした。ティアマトも水の獣で、これを斃して世界を創るのは、古代人が大河を制御して洪水を防ぎ、灌漑を施し、文明を起こした記憶の反映ではないだろうか。バビロニア神話の影響を強く受けた創世記の天地創造の記述を見てみよう。

創世記1章2節:地には形がなく虚ろであり、深淵の上に暗黒があり、

 ここで「深淵」と訳されるのはヘブライ語の「テホム」で、ティアマトとよく似ている。(※黒後家会の『何国代表?』でも、この説が語られている※)レヴィアタンもまた、後世豊かな想像を膨らまされ、預言者イザヤは世界の終わりにもまた殺される怪獣であるという。

イザヤ書27章1節:そのとき主は、恐ろしい大蛇レヴィアタンを罰し、海の竜を殺し、

 ともあれ、ヨブは、神の知恵は人間の想像の及ぶものではないのだから、その意思を疑うことの愚かさを思い知り、おかげで不幸から解放されて終わる。


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