Web Forum
[記事リスト] [新規投稿] [新着記事] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

投稿日: 2015/06/01(Mon) 01:54
投稿者Ken
Eメール
URL
タイトルホセア書〜ヨナ書

『ホセア書』

 ここからは、十二人の「小預言者」の話が続く。「小」といっても、要するにイザヤ、エレミヤ、エゼキエルと比べて、バイブルに含まれる話が短いということなのだが。

 ホセアはイスラエル王国の預言者である。彼の言がほとんどすべてイスラエルへ向けられたものであること、イスラエルの王を「我らが王」と呼んでいることからそれが分かる。冒頭で活動期間を紹介しており、

ホセア書1章1節:ホセアが主の言を受けたのは、ユダのウジヤ、ヨタム、アハズ、ヒゼキヤ諸王の、そしてイスラエルのヤロブアム王の時代だった

 時代を特定するのにユダの王から挙げているのは、後世の編纂者がユダの末裔だったからだろう。ウジヤの即位は前七八〇年、ヒゼキヤの死は前六九二年、ヤロブアム二世の治世は前七八五年から前七四五年である。イスラエルの滅亡へ至る最後の時代をホセアは生きたわけで、イザヤと同時代人だが、ホセアの方が年長と思われる。

 最初の三章はホセア自身の伝記で、イザヤと同じく彼も息子に世の出来事を象徴する名を付けている。

ホセア書1章4節:主が言われた、その子をイズレエルと名付けよ、ほどなくイエフが流したイズレエルの血の仇を討つのだから

 一世紀前、イエフが滅ぼしたオムリ王家はヤハウェ信仰を弾圧した異教徒で、ヤハウェ教徒はイエフの行為を是認してきたはずだが、即位のとき神の子になっている王を殺すのは、やはり恐ろしいことと考えられていたようだ。そのような考えは人類史の中で非常に長く続き、例えばシェイクスピアは、リチャード二世を悪王としながら、彼を殺したことで国に災いが降りかかるという劇を書いている。イスラエルもまた、アッシリアの圧迫という形で、かつての王家を滅ぼした報いを受けつつあると、ホセアは信じたのだ。

 そのホセアの眼には、アッシリアへの臣従すらも、イスラエルとユダの崩壊を止められなかった。

ホセア書5章13節:エフライムは病を、ユダは負傷を患い、エフライムはアッシリアのヤレブ王の下へ行くが、癒えることはなかった

 ヤレブという名のアッシリア王はいないが、状況からティグラト・ピレセル三世のことであるのは間違いない。そして南北両王国とも滅んだのだから、たしかに病も傷も癒えなかった。

 それでも預言者ホセアは亡国のさらに先を見ている。

ホセア書3章5節:いつかイスラエルの子等は戻る、そして主なる神とダビデ王を見る

 ダビデが復活して現れるというのは、非常に古くからある考え方の反映であろう。過去の栄光をもたらした偉大な君主は本当に死ぬことはなく、ただ眠りにつき、また必要とされる時には蘇るというものだ。だからアーサー王はアバロンで眠っているし、ドイツ皇帝バルバロッサはキフホイザーの山で眠っているという伝説を生じた。ここでのダビデも同じであろう。もっとも、イスラエル人がダビデ王朝に抱いていた不信と反感を思えば、ホセアがダビデの復活を待望するのはおかしいとも言える。この部分は、後世のユダ系編者の加筆かもしれない。



『ヨエル書』

ヨエル書1章1節:主の言葉がヨエルに降り

 主の言葉がいつ降ったのか、ヨエルの活動時期はいつだったのか、その記述がないが、推測はできる。まずヨエル書にはアッシリアやバビロニアの脅威が言及されてないので、前七五〇年より前か、前五〇〇年より後か、そのどちらかであろう。次に王の名が現れず、異教の祭祀も全くでてこない一方で、ユダヤ人の離散は語られている。

ヨエル書3章2節:諸国へ散らされた我が民

 ギリシャ人への言及もあるが、ユダヤ人がギリシャ人を知るのは、ペルシャ帝国時代になってだいぶ経ってからのはずである。

ヨエル書3章6節:エルサレムの子等をギリシャ人へ売り、

 総合的に考えて、ヨエル書が書かれたのは前四〇〇年頃と思われる。

 ヨエル書はまた、来たるべき大破壊について予言をする。

ヨエル書1章15節:主の日は近く、全能の神による破壊が訪れる

 主の日とは、ユダヤ人を迫害する暴君が罰せられ、ユダヤ人の受難が報われる日で、いわゆる最後の審判を意味するのは言うまでもない。

ヨエル書3章2節:私は諸国民をすべて集めてヨシャファトの谷へ連れ行き、彼らが離散させた我が民のために彼らを裁く

 ヨシャファトの谷がどこにあるのか、発見に成功した者はいない。ヨシャファトは「ヤハウェの裁きが下った」という意味だから、ここではユダのヨシャファト王は無関係で、神の裁きの谷という意味だろう。

※すると、イライジャ・ベイリが「ジェホシャファト(ヨシャファト)」と叫ぶのも、古代の王名ではなく「裁きの神よ!」と叫んでいるということか。現代のアメリカ人が「マイ・ゴッド!」「ジーザス!」と叫ぶようなものだろう。※

 神の託宣は続く。

ヨエル書3章4節:ティルスよ、シドンよ、君らは何をしたか
ヨエル書3章6節:エルサレムの子等をギリシャ人に売り渡した
ヨエル書3章7節:見よ、私は彼らを売られた地から救い出し、君らに償いをさせるだろう
ヨエル書3章8節:君らの子女をユダの子等に売り、彼らは彼方の地へ売られるだろう

 まだこの時代には、裁きは個人ではなく、国単位、民族単位で行われるという考えが支配していたようだ。個人ごとに裁きを受けるという思想は、少しずつ生じていったので、はっきりと書かれるのは、たとえばダニエル書のような後世の文章である。

ダニエル書12章2節:地中に眠る多くの者が目覚め、ある者はとわの命を、別の者は恥辱ととわの軽蔑を受ける



『アモス書』

 三番目に登場する小預言者はアモスだが、時代的には彼が最も古く、新しい種類の預言者の第一号らしい。サムエルやエリシャに代表される古い預言者は神懸り状態になって神託を伝えるが、アモスたちは落ち着いて、平易な言葉で語る。実のところ、アモスは自分が昔ながらの預言者であることを否定している。

アモス書7章14節:アモスは答えて言った、私は預言者でも、預言者の息子でもなく、牧者である。

 アモスの活動時期は冒頭で述べられる。

アモス書1章1節:ユダのウジヤ王、イスラエルのヤロブアム王の治世、地震の二年前に、テコアの牧者だったアモス

 ウジヤやヤロブアムの治世に地震が起こったことは、どの史書にも記載がないので、年代は特定できない。また、こういう記述もある。

アモス書8章9節:その日、主は言われた、真昼に太陽を沈め、好天の日を暗く変えると、

 これが日食のことなら、前七六三年にイスラエルやユダで日食があったことは算出できるので、預言者アモスの活動期間はそのあたりだろう。彼はホセアやイザヤの同時代人だったことになる。

 アモスはユダの人間だが、彼の預言はイスラエルに向けたものが多く、異教信仰だけでなく、社会的不公正を激しく非難している。

アモス書5章21節:私は君らの宴を憎む
アモス書5章22節:君らの供物は受けぬ
アモス書5章23節:歌声を止めよ
アモス書5章24節:裁きは水の流れるごとく、正しきは大いなる流れとなり、

 ここから見えるのは、アモスは神殿で儀式が行われても、最後の審判で救われるのは、行いの正しい者だけと言っていることだ。

アモス書5章18節:主の日を望む者は呪われるべし、いったい何を期待するか? 主の日は闇であって、光ではないのに

 神に救われるか否かは、民族ではなく個人ごとに決まるという思想の先駆けがそこに見られる。ただし、アモスはやりすぎた。

アモス書7章9節:私はヤロブアム家に剣をもって対する

 イスラエルでこれを言えば謀叛人となる。祭司アマツヤはアモスにイスラエルを去ることを勧めた。アモスが何と答えたかは記されていない。彼がイスラエルで殉教したという記事はないので、ユダへ戻ったのではないか。



『オバデヤ書』

 オバデヤ書は旧約聖書の中で最も短く、一章二十一節しかない。著者のオバデヤが誰なのかも分からないが、イスラエルのアハブ王の宮廷にそういう名の人物がいた。

列王記一18章3節:アハブは侍従長のオバデヤを呼んだ、(オバデヤはたいへんに主を畏れていた
列王記一18章4節:イゼベルが預言者たちを殺した時、オバデヤは百人を連れ出し、一つの洞窟に五十人ずつ匿って、食物を運んだ

 アハブとイゼベルの時代にこんなことをしたなら、後世のユダヤ人にとっては大英雄で、一世紀の史家ヨセフスは、この時のオバデヤがオバデヤ書の著者だと言った。しかし、オバデヤ書には明らかにネブカドネザルのエルサレム破壊を語る部分がある。

オバデヤ書1章11節:外来者がユダを連れ去り、異国人が入城し、エルサレムで賭け事をした

 エルサレムの陥落を見た人物が、三世紀前のアハブの宮廷にいたはずは、当然ない。一方で、

オバデヤ書1章20節:囚われたイスラエルの子等はカナン人の地を回復し、囚われたエルサレムの人々は南の諸都市を回復し、

 ユダの民が戻ったように、イスラエルもまた戻ると思われていたとすると、あまり後の時代ではない。ユダの民が戻った頃か、その直後の時代あたりまでだろう。前五〇〇年あたりが最も妥当と思われる。

 バビロンへ連行された人々が、どこにいたのか、具体的な地名を挙げた部分がある。

オバデヤ書1章20節:囚われたエルサレムの人々はセファラドに、

 だがセファラドがどこなのかは分からない。ただ、中世にはユダヤ人はイスラム教が支配するスペインで栄えており、セファラドはスペインという考えが広まり、北欧東欧のユダヤ人がアシュケナジムと呼ばれるのに対し、スペインやポルトガルのユダヤ人は子孫も含めてセファルディムと呼ばれるようになった。例えば十九世紀の英国の首相ベンジャミン・ディズレイリはセファルディムである。



『ヨナ書』

 どうみてもヨナ書はフィクションだし、そもそも預言者の話でもないが、ヨナという名の預言者が列王記に登場するので、本書のヨナがその預言者ということにされ、他の預言者の話と一緒にまとめられている。

列王記二14章25節:彼(ヤロブアム二世)は、ガト・ヘフェルのアミタイの子、神の下僕ヨナに主が語らせたように、イスラエルの境域を回復した

 本物のヨナは前七八〇年頃に活動したわけだが、ヨナ書が書かれたのは、いくつかの理由から前三〇〇年頃と思われる。

 ヨナ書は、ヨナが神の命令を聞いたところから始まる。

ヨナ書1章1節:主の言葉が、アミタイの子ヨナへ降った
ヨナ書1章2節:大都ニネベに行き、彼らの悪行を叱責せよ

 もうここで史実のヨナの話ではないことが分かる。前七八〇年頃のニネベは大都などではない。アッシリアの都はカラで、センナケリブがニネベに遷都するのは一世紀も先のことだ。

 ヨナはこんな命令には従えないと思った。当然のことで、まるでヒトラー時代のユダヤ人に、ベルリンへ赴いてナチスの悪行を叱責せよというようなものだ。そこでヨナは、西地中海のタルシシュへ向かう船に乗って逃げ出した。これは、ヤハウェ神が全知全能ではなく、イスラエルの地を離れれば、神から逃れられるとヨナが信じていたことを示している。ただし、ヨナ書の著者はそうは思っていない。神はヨナが乗った船を嵐に襲わせ、船員たちは災いの原因のヨナを海へ放り込んだ。そのヨナに異常なことが起こった。

ヨナ書1章17節:主は大魚を用意してヨナを呑み込ませた。ヨナは魚の腹中に三日三晩いた

 ヨナ書自体がフィクションだから、大魚の正体を詮索しても仕方がないが、バイブルの記述がすべて真実と信じられていた時代には、この大魚はクジラだという考えが広く支持された。クジラは哺乳類で魚ではないというのは近代生物学の知識で、古い時代には水の生物はすべて魚と思われていた。jellyfish(クラゲ)もstarfish(ヒトデ)も、もちろん魚ではない。(※漢字の「鯨」も魚偏である。※)しかもイエスがヨナを呑み込んだ魚はクジラだと言ったので、すっかりこの考えが定着した。

マタイによる福音書12章40節:ヨナは鯨の腹に三日三晩いた

 クジラだとすれば、人間の大人を傷つけずに飲み込める喉の構造を持つのはマッコウクジラだけである。とはいえ、マッコウクジラは地中海にはいないし、いずれにせよ人間がクジラの胃の中で三日三晩も生きられるはずがない。ヨナ書自体がファンタジーなのである。

 魚の腹中で悔い改めたヨナは陸上へ吐き出してもらい、今度こそニネベに行き、町が破壊されると説いて回った。驚いたことにアッシリア王以下の全員が罪を悔いて懺悔した。もちろんそんなことはどんな史書にも記録がないし、それどころかバイブルの列王記も歴代誌も、これほど偉大なヤハウェの勝利を記していない。

 悔い改めたニネベは破壊をまぬがれるが、今度はそれがヨナを怒らせた。彼はニネベが懺悔することではなく滅びることを期待していたのだ。そのヨナの前に現れたものがあった。

ヨナ書4章6節:主なる神は瓢箪の木を生やし、ヨナの頭上に陰を作らせた

 瓢箪はヘブライ語のキカヨンの訳だが、正しい訳とはいえない。キカヨンは熱帯に育つトウゴマ科の植物で、木に匹敵する大きさに育つ。

 神はヨナに日陰を与えたのに、翌日はそのキカヨンを枯れさせた。ヨナはますます怒ったが、そこで物語のクライマックスと教訓がくる。

ヨナ書4章10節:主は言われた、自分で育てたわけでもない瓢箪の死がそれほど無念なら、
ヨナ書4章11節:左右の手の区別もできない民が十二万以上もおり、多くの牛もいる大都ニネベを救うべきだとは思わないのか

 ここには、神は全人類の神であってイスラエル人だけの神ではないこと、罪人でも罪を悔いれば許されること、まして子供に罪はないこと、それらの思想が明確に表れている。牛にまで言及されているが、バイブル全篇を通じて動物愛護を語る唯一の箇所だろう。ここは、サウルがアマレク人を皆殺しにしなかったことでどれだけ神が怒っているかを、サムエルが語ったことを思い出すべきだろう。つまりヨナ書はルツ記と同じく、エズラに代表される排他的民族主義に反対する意図で書かれたのだ。クジラに飲まれた男の冒険譚だと信じる限り、最も重要なメッセージを逃すことになる。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 返信フォーム (この記事に返信する場合は下記フォームから投稿して下さい)
おなまえ
Eメール 非表示
タイトル
メッセージ    手動改行 強制改行 図表モード
URL
パスワード (英数字で8文字以内)
プレビュー

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No パスワード

- Web Forum -