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投稿日: 2015/08/16(Sun) 22:47
投稿者Ken
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タイトルマカバイ記二

『マカバイ記二』

 マカバイ記第二書は第一書の続編ではない。歴史の記述に限っていえば、扱っているのはユダ・マカバイの死までになる。ただし第一書とは異なり、政治、軍事よりも、神殿と祭司の記述が中心である。実はイアソンという人物の著書があり、それを短くまとめたものだと、マカバイ記第二書の著者自身が述べている。

マカバイ記二2章23節:これらはキュレネの人イアソンが五巻の書として著したもので、我らはこれを一巻にまとめる

 キュレネはナイル川の八百キロ西にある北アフリカの町で、当時はプトレマイオス朝の版図だが、アレクサンドリアと同様、多くのユダヤ人が居住していた。イアソンはギリシャ語の名前だが、この頃にはユダヤ人でも本名とよく似たギリシャ名を名乗ることが多かった。イアソンの本名はヨシュアかもしれない。

 実にマカバイ記のあたりからギリシャ・ローマ風の名を持つ登場人物がバイブルに多くなる。マカバイ記のあとは新約聖書の物語に入るが、登場人物の中には、使徒ペトロや使徒パウロのようにまったくギリシャ語やラテン語の名を持つ者があるし、ヘブライ語の名前でもギリシャ・ローマ風に変形した形で現れる。後者の代表はイエスその人と母親のマリアで、本来はヨシュア、ミリアムというヘブライ語の名を持っていたのだが、ギリシャ化してイエス、ラテン化してマリアという名で福音書に登場する。史実の彼らも、おそらくはヘブライ風とギリシャ・ローマ風の両方の呼ばれ方をしたのではないか。もちろん、この人たちがユダヤ人であった事実は動かない。

※現代でも、世界中からアメリカへやってくる多くの人が英語の名前を用いる。例えば日本人でも、トミオはトム、ミチオはミッチ、ハナエはハンナ、アミはエイミーといった具合に変え、名刺にまでそちらが表記されている。もちろん、ケンやナオミなどはそのまま英語の名前になるし、ノブオやサチコのように、どの英語名とも結びつかない場合でも、ローマ字表記の最初の二文字だけ利用して、ノーマンやサリーと名乗る人がいる。このことは、アメリカ社会で成功する上で、日本で想像されるよりも、はるかに重要なのだ。そういえば、阿倍仲麻呂は、唐の朝廷では晁衡と名乗っていたという。古今東西事情は同じということだろう。※

 マカバイ記第二書は、エジプトのユダヤ人に、ハヌカの祭を必ず行うように求める二通の書簡についての記述が冒頭にくる。マカバイ記第一書が語るように、これはセレウコス朝に穢された神殿を清めたことを記念する新しい祭だから、エジプトの住人にはその意義が理解されにくかったのだろう。

マカバイ記二1章7節:デメトリオスの治世、百六十九年(前一四三年)の大いなる困難の中で、我らユダヤの民は諸君らに書簡を送った
マカバイ記二1章10節:百八十八年(前一二四年)、エルサレムの民はプトレマイオス王の師アリストブロスに挨拶を送った

 一通目はヨナタンがトリュフォンに殺された頃、二通目はヨハネ・ヒルカノスがエルサレムを治めていた頃になる。二通目はエジプト王の師アリストブロス宛という。師かどうかはともかく、エジプト王に雇われたユダヤ人の学者だったのだろう。書簡は、バビロン捕囚の時も途絶えなかったユダヤの儀式を守ることを訴えている。その中で、破壊された神殿から祭壇の火を祭司たちが水の枯れた水槽に移したところ、その火は消えることがなく、一世紀半後にネヘミヤが火を祭壇に復活させたという話を紹介している。

マカバイ記二1章20節:ネヘミヤは、火を隠した祭司たちの子孫を遣わした。彼らは火の代わりに粘り気のある水を発見した。
マカバイ記二1章36節:ネヘミヤはそれをナフタルと名付け、

 このナフタルは現代語ではナフサになっている。もちろん石油のことで、埋蔵量の豊富な西アジアでは自然に湧き出ることがあり、点火すれば「永遠の炎」を生ずる。

 また、このような一節がある。

マカバイ記二2章21節:ユダヤ教の信仰のために雄々しくふるまった人々

 「ユダヤ教」という言葉は、実はこれが初登場である。

 物語自体は、アンティオコス四世がユダヤ人を迫害する前の、平和だったエルサレムから始まる。

マカバイ記二3章1節:よき祭司長オニアスのおかげで、聖都は平和で、法はよく行われ、

 祭司長オニアスは、オニアス三世で、前一九六年にその地位に就いた、ソロモンが最初の神殿を建てたときのツァドクから連綿と世襲してきた祭司の最後の一人である。その家系は捕囚の間も続き、第二神殿もこの一族が司った。もっとも聖都エルサレムが平和だったというのは、その後に起こるアンティオコス四世の迫害を際立たせるための誇張だろう。その頃の王は、ユダヤ教を援助したなどという記述まである。

マカバイ記二3章3節:アジアの王セレウコスは、自らの収入で、祭祀の費用を負担した

 このセレウコス王は前一八七年に即位したセレウコス四世だが、当時のセレウコス朝はローマに敗れた後、賠償金の支払いで破産寸前の状態にあり、先代のアンティオコス三世は、あらゆる神殿に重税を課したことへの反発で殺されたくらいである。その息子がユダヤの神殿にだけ、搾取の代わりに援助を行うなど考えられない。

 ともあれ、神殿の運命が暗転するのは、内紛が原因だった。

マカバイ記二3章4節:神殿の行政長シモンは、祭司長と意見が対立し、

 実は、バビロン捕囚から戻った後、祭司長は祭祀を行うだけでなく、神殿の事務行政も指導していた。ところが、ユダヤがプトレマイオス朝の支配下にあった頃、祭司長オニアス二世が神殿に課された税の支払いを拒んで政府と対立し、甥のヨセフが急遽エジプトへ赴いて、プトレマイオス三世をどうにかなだめた。この時から、神殿の指導は二本立てとなり、祭祀はオニアスが、行政はヨセフが担当することになった。オニアス三世は二世の孫、シモンはヨセフの子である。二人の間に対立が生じたとき、シモンはセレウコス朝の地方総督に、神殿に隠し財宝があると告げたので、金に困っていた朝廷はヘリオドルスという人物を調査のために派遣した。ヘリオドルスの調査は奇跡的な現象のせいで失敗したと書かれているが、実情はオニアスが金品を贈って買収し、野心家のヘリオドルスも、いつか神殿の財力を自分のために利用することを考え、両者で談合したのだろう。前一七五年、ヘリオドルスは簒奪を狙って王を暗殺するが、ローマから戻ったアンティオコスのために失敗し、アンティオコスは即位してアンティオコス四世となった。彼と祭司長オニアスの間には、初めから対立の原因があったといえる。

 アンティオコスがオニアスの排除を望んだとすれば、うってつけの協力者が相手の一族に登場した。オニアスにはヨシュアという弟があり、これがイアソンというギリシャ名を名乗るほどギリシャ文化を好んだ人物だった。このイアソンが王に取り引きを申し出た。

マカバイ記二4章7節:アンティオコスが王位に就いたとき、オニアスの弟イアソンは、祭司長の座を狙って、秘密に動いた
マカバイ記二4章8節:王に、三百六十タレントの銀、他に八十タレントの報酬
マカバイ記二4章9節:この他にも百五十を約束して、地位を要求した

 祭司長の地位は名誉だけでなく、神殿の収入を自由に出来るから、これだけの報酬を任命権をもつ王に与えても、十分に元が取れるのだ。一方、何よりも金に困っていたアンティオコスは、イアソンとの取り引きに応じて、彼を祭司長に任命した。

 ところが因果応報といおうか、イアソンは彼がやったのと同じ方法でやられてしまった。

マカバイ記二4章23節:イアソンは、王へ金を届けるため、シモンの弟メネラオスを派遣した

 このシモンの弟も本名はオニアスだったが、ギリシャ名のメネラオスを名乗っていたのはイアソンと同じだった。彼はイアソンが約束した報酬に三百タレントを上乗せして、祭司長の地位を求めた。アンティオコスに拒む理由はない。メネラオスが祭司長になり、イアソンは逃亡するしかなかった。

 一方、多くの信心深いユダヤ人にとっては、アンティオキアで拘留されているオニアス三世こそが正統の祭司長だった。メネラオスはセレウコス朝の司令官と相談して(間違いなく買収したであろう)、オニアス暗殺に成功した。この後アンティオコス四世はエジプトへ進撃し、ローマの命令で退却したのは、マカバイ記第一書に記すとおりである。そしてエルサレムを襲い、神殿を略奪し、多くのユダヤ人を殺した。メネラオスは王に全面協力した。

 マカバイ記第二書は、神殿がゼウスの神殿に変えられたとき、多くのユダヤ人が抵抗して殺された話を伝えるが、これは第一書には記載がない。一般に第一書の方が信頼性が高いと考えられるので、あるいは殉教の話は創作かもしれない。とはいえ、ナチスの歴史が示すように、虐殺の話は真実であることもしばしばある。真偽いずれにせよ、マカバイ記第二書が語るのは、ユダヤ・キリスト教史における最初の殉教物語といってよい。内容は詳細で凄惨である。

 物語はこの後、ユダ・マカバイの指導でユダヤ人が叛旗を掲げるのだが、第一書と比べて史実性は明らかに低い。悪人どもが罰を受ける話が詳しく語られるが、ほとんど信用できない。例えばアンティオコス四世は病に苦しんで死ぬが、罪を悔いてユダヤ教に改宗しようとしたなどと言っている。


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