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投稿日: 2016/03/27(Sun) 22:47
投稿者Ken
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タイトルエズラ記二

『エズラ記二』

 黙示文学は紀元七〇年のエルサレム神殿破壊後も作られ続けた。むしろ、ユダヤ人にとって状況が絶望的になるほど、世を正す救世主の出現が待ち望まれたのだ。神殿破壊から一世代を経た頃に書かれたユダヤ教の黙示録の一つは、バイブルの複数の異本の中に座を占めることになった。この書もまた、著者は遠い昔の著名人に設定され、実際に書かれた時代より五世紀半前に活動したエズラということになっている。ユダヤ教の外典だが、キリスト教の記述も混ざっている。

 構成的には、最初と最後の各二章はキリスト教徒による加筆でギリシャ語で書かれ、それ以外の部分はアラム語の原文をギリシャ語に翻訳したものである。もっともアラム語もギリシャ語も原文は失われ、ラテン語訳のみが現存し、カトリック教会はこれを正典に含めている。

※日本聖書協会のサイト(http://www.bible.or.jp)では、この書を『エズラ記(ラテン語)』と名付けている※

 最初の二章は割礼を否定し、ユダヤ人が態度を改めないと神に見捨てられ、別の民族が選ばれると警告している。本来の文章は第三章から始まる。

エズラ記二3章1節:町が破壊された三十年後、私はバビロンにおり、眠れぬ夜を過ごしていた
エズラ記二3章2節:なぜならシオンが荒廃し、その富はバビロンに移されたのだから

 ネブカドネザルがエルサレムと神殿を破壊してから三十年といえば前五五六年で、史実のエズラが活動した時期より一世紀も前になるが、ここではローマがエルサレムと神殿を破壊してから三十年と黙示的に言っているので、この書は紀元一〇〇年頃に書かれたことになる。なぜ異教徒のバビロン人(実はローマ人)ばかりが栄え、ユダヤ人は惨めさの中に置かれるのかという「エズラ」の問いかけに、神の回答がくる。

エズラ記二4章1節:ウリエルという名の天使が遣わされ、私に答えた

 ウリエルの名は旧約聖書には登場しないが、この一節のせいで、ミルトンは『失楽園』でウリエルを太陽を司る天使として描き、イスラム教ではウリエルはイスラエルの別名で、世界の終わりを告げるラッパを鳴らすのは彼であるという。(キリスト教ではガブリエルの役目になっている。)ウリエルは「エズラ」に、神の計画は人間には理解不能なので、とにかく審判の日の後に理想の世界が訪れると言う。そして、その前に起こる奇跡をウリエルは語る。

エズラ記二5章4節:太陽は夜また輝き、月は昼にみたび輝く
エズラ記二5章5節:木は血を流し、石は声を上げる
エズラ記二5章6節:ソドムの海から魚が獲れる

 ソドムの海は、古代都市ソドムが沈んだ、一切の生き物がいない死海のことだ。そこに魚が現れるというのである。これを皮切りに、ウリエルは数々の奇跡を語ってゆく。そして最後に現れる神のしるしがある。

エズラ記二7章28節:我が息子イエスが現れ、生ある者は皆、四百年の喜びの時をもつ
エズラ記二7章29節:その後、わが子キリストと、すべての生ある者は死ぬ

 キリスト(救世主)を「イエス」と呼ぶことから、この部分がキリスト教徒の加筆であることが分かる。救世主の王国は世界の終りの後ではなく、その直前に来ることになっている。

 ウリエルが「エズラ」に見せる光景の中に、ダニエル書で有名になったものがある。

エズラ記二11章1節:私は夢を見た、海中より鷲が現れ、それは十二の翼と三つの頭をもち、

 この鷲はダニエルが見た四匹目の獣だと、ウリエルはいう。

エズラ記二12章11節:君が見た鷲は、君の兄弟のダニエルが見た王国なのだ
エズラ記二12章12節:ダニエルには説明がなされなかったので、今、君に告げる

 ダニエル書の四つ目の王国は、このように語られている。

ダニエル書7章7節:四番目の獣を見よ、恐ろしく、比類なく強く、鉄の歯と十本の角をもち、

 ダニエル書の著者はアンティオコス四世の時代に生きたから、獣はセレウコス朝で、十本の角は、その時点までの十代の王を表す。だが、第二エズラ記の時代には、獣は当然ローマ帝国であって、十二の翼は、その時点までの十二代の皇帝にほかならない。

エズラ記二12章14節:同じく十二人の王が順に現れ、
エズラ記二12章15節:二人目が最も長い時間を持つ
エズラ記二12章16節:十二の翼はそのことを示す

 ユリウス・カエサルを初代の皇帝と考えると、十二代は、ユリウス、アウグストゥス、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロ、ガルバ、オト、ウィテリウス、ウェスパシアヌス、ティトゥス、ドミティアヌスで、四十一年君臨した二代目のアウグストゥスは、たしかに他の十一人よりも治世が長かった。

エズラ記二11章29節:三つのうち最も大きな中央の頭が目覚め、
エズラ記二11章31節:見よ、王位に就いたはずの、翼の下の二つの羽毛を喰らい、
エズラ記二11章32節:そしてこの頭は地上のすべてを支配する

 三つの頭はフラウィウス家の三帝で、大きな中央の頭がウェスパシアヌス、両側の小さな頭がティトゥスとドミティアヌスに該当する。第二エズラ記の著者にとっては、最も凶悪な皇帝たちで、ウェスパシアヌスとティトゥスは反乱を起こしたユダヤ人を討伐し、特にティトゥスは神殿を破壊させた当人である。三つ目の頭(ドミティアヌス帝)のとき、新たな獣が鷲を退治するという。

エズラ記二11章37節:吼える獅子が森から現れ、鷲に言った
エズラ記二11章39節:お前は四頭の獣の生き残りではないか、と
エズラ記二12章3節:そして鷲の肉体は焼き尽くされた

 そしてウリエルは獅子の正体を明かす。

エズラ記二12章31節:君が見た、鷲を責める獅子は、
エズラ記二12章32節:油を注がれた王であり、

 言い換えれば、救世主が現れてローマを倒すといっている。だが、史実のローマは倒れるどころか、ドミティアヌス帝のあと、最も繁栄した「五賢帝」時代を迎えるのだ。だが、第二エズラ記のような文書に扇動されたユダヤ人は、各地で反乱を繰り返しては鎮圧され、そのつど根絶やしにされ、とうとう帝国各地で細々と生きるだけの存在になってしまった。

 また、救世主が異教徒を倒した後の光景を、このように描いた記述もある。

エズラ記二13章12節:その後、その人は平和を好む人々を呼び寄せた
エズラ記二13章40節:彼らはアッシリア王に連れ去られた十部族で、

 イスラエル王国が滅んでから八百年を経ていたが、まだ彼らの子孫がどこかで強国を築き、ユダヤの兄弟を助けに来るという夢を見ていたのだ。

 最後の二章は、キリスト教徒が三世紀に加筆したもので、外典まで含めたバイブル全篇で最も遅く書かれたものである。神がエジプトについて語っている。

エズラ記二14章10節:見よ、我が民は根こそぎ殺されている、彼らをエジプトで災厄の中には置かぬ
エズラ記二14章11節:私はエジプトを討ち滅ぼすであろう

 我が民はキリスト教徒、エジプトはローマのことだ。ただし、現実のエジプトで起こったことが、題材になっているかもしれない。神の民が殺されつくす記述は、何度も反乱したユダヤ人が、エジプトだけでなくヨーロッパ以外のすべての地で根絶やしにされた事実を背景にしているかもしれない。また、二一五年にカラカラ帝がアレクサンドリアの博物館への援助を打ち切ったことが、エジプトを襲う災厄と見なされた可能性もある。さらに二六〇年を過ぎた頃、飢饉と疫病がアレクサンドリアを襲い、大量の死者が出ている。

 何よりも、三世紀になるとローマ自体が衰退の道を辿っていた。東方ではサーサーン朝帝国が強大になり、ローマは敗退を続け、ついにはローマ皇帝ウァレリアヌスまでが捕虜になった。いよいよ悪が倒れ、救世主が現れる兆候に見えても不思議ではない。

 だが、ローマはまだ倒れなかった。そこから有能な皇帝が続いてサーサーン朝を撃退し、二八四年に即位したディオクレティアヌス帝の下で、元の姿を取り戻した。そして三〇六年に即位したコンスタンティヌス帝の治世で、ついにキリスト教の国になるのである。


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