倭人襲来絵詞・第一日
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空飛ぶサル


☆初の海外および飛行機

 何を隠そう、今回の僕の旅はとにかく「初」づくしなのである。際だつのはこの歳(秘密)で海外旅行も初めてなら飛行機に乗るのも初めてなのだ。

 前者の理由で大きいのは時間がとれなかったこと。なにしろこのサイトを見ればお分かりのようにとにかく色々手を出してる男であり、しかも受験産業という世間が休みの時に忙しい業種のバイトをしていることもある。それでなかなか「海外」というわけにもいかせいぜい国内僻地旅行ばかりしていたわけだ。
 後者の理由は単純。飛行機が怖いのだ。だいたい僕は高層ビルのエレベーターですら脚がすくむ高所恐怖症である(外が見えるやつなどは最悪)。しかも多少閉所恐怖症の気味もある。そんな男が飛行機に乗ったらどうなるか分かったものではない。自動車よりも事故の確率が圧倒的に低いことは分かっていても、どうにも乗る気になれなかった。まぁそれだけ想像力が強い人間という証拠だから別にそれを恥とも思わなかったけどね。僕が敬愛するSF作家アイザック=アシモフだって、あれだけ小説中で宇宙船を銀河規模で飛び回らせながら本人は大の飛行機恐怖症で、彼の生涯中飛行機に乗ったのはたった一度だそうだ(しかもその一度は戦時中の軍の命令によるものだそうな)。

 これまでに北海道や九州・対馬や福江島にもいったことがあるがいずれも船か鉄道を利用した。それで中国行くときも「鑑真号」とか利用して船で行こうかな、と思っていたほどなのだ。専門も海賊だしその方が気分が出るんじゃないかと。だけど結局今回の旅はツアーということもあり「何事も経験」と飛行機に乗る決意をついに固めたのである。

 住んでいる土地と行動範囲がその周辺なもので、成田空港に離発着する飛行機だけはよく見ていた。しかし実際に成田空港に入るのは初めてだ。成田駅からJRで第二ターミナルビル駅下車。飛行機は怖いが本来の物見遊山根性を発揮して空港見物のために早々に空港内に入る。駅を降りると早くも出口でパスポートの提示を求められ、なんだか緊張を強いられる。そのまま出発ロビーへ入るが、まぁそのデカいこと、デカいこと。考えてみれば事実上の日本の玄関口、その規模はデカいはずである。集合場所をテレビ画面で確認すると、集合時間まで一時間ほどあったのでウロウロと出発ロビー内を端から端まで見物する。見学用の扉から屋外に出て飛行機の離発着も眺めてみたが、あいにく外は雨。

 そうこうしているうちに集合時間も近づいたので日航のカウンターに行く。僕が申し込んだのは近畿日本ツーリストの「日航で行く江南5都市の旅」というツアーだ。ホントはもっと安い別のツアーを希望していたのだが日程等が合わず、ほぼ同じコースを回るこのツアーにしたのである。参加人数は39人。
 カウンターで初めて今回のツアーのコンダクターと顔を合わせた(声だけは確認電話で聞いている)。案外若くてなかなか可愛い女性である。その後出国手続きのため全員が集合。すると驚いたことに……平均年齢が異様に高い(^^;)。少なくとも僕より若そうなのは家族連れにいた男の子だけ(でも20前後か)。あとは40〜50代が6、7人ほど。あとはほとんどが60代後半以上としか思えないご老人ばかりである。平均年齢とっても恐らく60を軽く越えるはずだ。この時期ヒマな人ってのは定年後の人か学生だとは思うけど…。

 まぁこれはあとから分かってきたことだが、中国旅行に江南なんて選ぶ人ってのは、もう何度も中国行って北京も西安も桂林も敦煌も回って「あと空いているのはここだなぁ」などと思ってくるような方々らしいのである。実際かなりの人が中国に何度も来ており、ヨーロッパ旅行経験者も多かった。おかげでみんな旅慣れている。一人混じった「若造兼初心者」の僕は何やら浮いた存在になっちゃったような感じだ。

乗った飛行機 さて、いよいよ出国手続および搭乗である。何でも初めてのことばかりだが、コンダクターが逐一教えてくれるので何の混乱もなく完了。モノレール状のシャトルに乗って搭乗口に向かうのだが、鉄道マニア根性を発揮して車内やすれ違うシャトルをパシャパシャ撮る。出発まで一時間ほど待っている間、次々飛び立っていく飛行機を眺めていると、どうやら自分が乗るらしい飛行機を発見する。DC-10という奴でいささか小柄。「あんなのが飛ぶわけかぁ」などと感慨にふけって眺める。
 出発30分ほど前から搭乗開始。座席は飛行機のほぼど真ん中。どうせ乗るなら窓から外を見ていたかったが、この位置ではほとんど何も見えない。しかも席が狭い。この窮屈状態で3時間ほど耐えねばならばい。まぁそれでも近場なんだからマシな方なんだろうけど。当然ながら周囲はみな同じツアーのご一行で固められている。あとはもう運を天に任せてその時を待つばかりだ。「とりあえず中国を見ないうちに落ちるのは勘弁してくれよ」と祈る。

 17:30。さてついに機は動き始めた。しかし実際に飛ぶまでやたらに時間がかかる。前がつまっていたのか、いつもそういうものなのか40分ほどウロウロと我が機は空港内を彷徨う。そして6時を過ぎた頃、「これから離陸します」と機長のアナウンスが流れ、機はゆっくりと加速し始めた。「こんなんで飛ぶんかいな」などと思っているうち、機はスピードを上げ弾丸のような勢いで突っ走り始めた。滑走路に段差でもあるのか機体がガタンガタンと揺れ、窓についていた雨の滴が一気に後方に弾き飛ばされていく。「ああ、もう誰も止めらんないなぁ」と恐怖におびえながらも「なるほど、これは飛ぶわな」などと妙に感心しているうちに機はググッと頭を上げ上昇。あっさり飛んでしまうのでありました。だいたいあのスピードじゃ飛んでもらわんことにはそれこそ大変な事態になってしまう。

 上昇中はひたすら雨雲の中を突っ切るためかなり揺れる。ちと初体験には辛い振動と、よくエレベーターで感じるあの体が浮くような不快感が繰り返し襲ってきた。エレベーターだって苦手な僕にこれは結構こたえた。仕方ないので座席にある雑誌なんかをみて気を紛らわす。上がってしまえば平気なのは分かっているのでひたすらその時を待つ。
 で、どうにか飛行機は雲を突っ切って水平飛行の状態に入った。当たり前だが青空が広がる。窓から遠いのでよく見えないが、夕陽の輝きが窓からこぼれていた。雑誌や飲み物のサービスが始まり、周囲はみんなここぞとばかりワインを飲み始める。酒飲みではあるがそうワイン好きでもない僕は缶ビールを頼んで2本ばかりチビチビと飲んでいた。上空の機内では早く酔いが回ると聞いていたのだが、少なくとも僕の場合は全く関係なかったらしい。やがて機内食なるものも初めて体験した。駅弁と変わんないな。

 ホントは上空から日本を眺められる事を期待していたのだが、窓から遠い上にすでに夜。夕陽を追いかけるように飛んでいるわけだが追いつくはずもなくすぐに窓の外は真っ暗に。こうなってはあとは寝てるしかない。しかし10分ほどで目を覚ましてしまい、やむなくヘッドフォンでクラシックやら落語やらの機内放送を聞いて時間を過ごす。なんとなく縁起を担いで時計を一時間遅らせて一足早く中国時間に合わせたりしてみた(笑)。

 唐突な話だが、パソコンのゲームにフライトシミュレーターというジャンルがある。実は僕もMS-DOS時代のソフトを買ってよく遊んだものだ。別に戦闘機を操ってアクロバットよろしく敵機を撃墜するようなものではなく、ちゃんとした航空機を普通に操縦して離陸、水平飛行、着陸をこなすものだ。なんでも本物のパイロット養成に使用されるとかいう代物だった。その時の経験から言うと離陸なんてのは少し練習すれば誰でも出来るのである。スピードを一気に上げてタイミング良く頭を上に向けりゃいいわけだから。平行飛行なんて何もやることはなく、自動車の運転と変わらない。
 しかし着陸はそう簡単ではない。僕もそのシミュレーターでまともに滑走路に着陸できたのは数えるほどしかない。まず滑走路にねらいを定めて旋回・降下していくのが難しい。そして降下の角度とスピード。ちょっとでも狂えば地面に激突だ。実際世の中の飛行機事故の大半は着陸時に起きてるような感じもする。それを考えると結構怖い。しかもあっちは夜だしなぁ。

 さて徹夜城・生涯初の空の旅、無事に上がってみたのはいいが、降りてみるのはまた大変、というところ。徹夜城とその一行の運命やいかに。それは次回をお読みください。

次へ進む。いよいよ中国上陸!