☆マンガで南北朝!!☆

カゴ直利・画/和歌森太郎・監修
「南北朝の争い」

(1968年、集英社・学習漫画「日本の歴史」5)


「マンガで南北朝!!」トップに戻る



◎学習歴史漫画の草分け

  今でこそ当たり前に存在する「学習漫画」というジャンルですが、登場したのは1960年代後半からであったと思われます。戦後、日本の漫画は驚異的な発展 を遂げたのですけど、一方で俗悪・読むとバカになるといったイメージも広く流布しており、「悪書追放運動」のあおりで盛大に叩かれたこともあります。「大 学生がマンガを読んでる!」と大騒ぎになったのが1960年代のことですし。そんなわけで「学習」と「漫画」を結びつけるという発想自体がそれ以後のこと だったのだと思う次第です。
 その学習漫画で「日本の歴史」を描いてしまおうという壮大な試みに初めて挑んだのがこの集英社の1968年版です。 それ以前に集英社は「ジュニア版日本の歴史」と銘打った子供読み物を発行しており、同じく和歌森太郎氏が監修にクレジットされてるので、これをベースに漫 画化がすすめられたのではないかと推測しています。日本の誕生から戦後までを全18巻にまとめ、1〜12巻(原始〜幕末)をカゴ直利氏、13〜18巻(明治〜現代)を宮坂栄一氏が分担して漫画を執筆しました。

  その後の「日本の歴史」漫画からすると全体的にノリが軽く、講談調の歴史話も盛大に盛り込む内容で、情報量が多く面白いのは確かですが、少々歴史考証に難 がある傾向もありました。また作者の世代のせいもあるんでしょうか、今日からすれば戦前的な「皇国史観」が見え隠れするところもあり、天皇・皇族がすべて 端正な顔立ちで描かれてますし、第1巻では舎人親王が執筆するというスタイルをとりつつも「神武建国神話」がそのまま漫画化され、ヤマトタケルの話(日本書紀ベース)なんかそのまま史実のように描かれていました。その一方で近代史は敗戦過程と戦後の政治史を意外なほど詳しく描き、「60年安保闘争」という直近の歴史に大きくページを割かれています。最終ページのひとつ前で中国の文化大革命がやや肯定的に描かれる(当時日本ではまだ実態が不明でイメージ先行だった)あたりも「時代」がにじみ出てる感じがしますね。

  僕の通った小学校や市立図書館にもあったぐらいですから、てっとり早い子供向け歴史読み物として図書館に並んでるケースは多かったのではないかと思いま す。70年代に装丁がちょっと変わったぐらいで版を重ねており、80年代初頭に集英社も含めた各社から「日本の歴史」漫画が一斉に出るまではこのシリーズ が漫画日本史のスタンダードだったと言っていいです(というか、他に例がなかったんですが…学研のは伝記漫画でしたし)
 僕が最初に読んだ歴史漫画もこのシリーズで、最初に読んだのは確か安土桃山時代の巻でした。織田信長・豊臣秀吉の活躍がそれこそ講談調に面白おかしく語られ、僕を一気に歴史好きにさせた思い出の一冊でもあります。
 

◎鎌倉末幕府打倒〜建武政権崩壊まで

 南北朝時代が扱われるのは第5巻。漫画は前近代すべてを担当したカゴ直利さんによるものです。
 第1話「苦しい鎌倉幕府」では徳政令にからめて鎌倉末期の武家社会の行き詰まりを架空の御家人たちの苦労話でコメディ調に語っています。後醍醐天皇の登場は第2話「正中の変」からで、やはり後醍醐さんは非常に美形な理想的君主として描かれてます(もっともカゴさんの絵はキャラクターのバリエーションが明らかに少なく、同じ顔が何度も出てきます)。倒幕計画が発覚して日野資朝が佐渡に流され、その子・阿新丸(くまわかまる)の仇討が「太平記」そのままに語られるあたりは、この漫画の「講談調」の一例と言えます。第3話「元弘の変」ではやっぱりあの「霊夢」による楠木正成登場が描かれ、笠置陥落で終わってます。
 第4話が「鎌倉幕府たおれる」。いきなり慌ただしい展開になり、赤坂城の戦い、赤坂奪回、後醍醐脱出、千早城の戦いと正成を中心にスピーディーに話が進みます。そして足利高氏新田義貞の挙兵で一気に幕府滅亡。北条高時はやはり典型的なバカ殿に描かれており、鎌倉陥落が決定的になり「いまさらどうにもなりませんよ。かくごを決めて東勝寺へ」と家臣に言われると「寺へ行けばいいことあるのか?」と喜び、次のコマで「死ぬのはイヤじゃ〜ん!」と泣きながら腹を切るという迷場面(?)を演じてます(上図)。
  ところで僕が読んだ1970年の版ではこの幕府滅亡の展開で文字解説をつける位置を編集者が間違えてしまったようで、「鎌倉幕府もついにほろびました」と かいたあとに高氏の挙兵が描かれたり、「義貞の軍は鎌倉にせめこんでいました」の解説のあとに義貞が千早攻めに参加しているなど無茶苦茶なことになってし まっています。これ、あとの版だと直したんだろうか…他にも誤植が目立ちます。

 第5話が「建武の新政」。さっそく足利尊氏の台頭が始まり、護良親王(大塔宮)と対立。この漫画では護良が都に戻らないまま、征夷大将軍にも任命されないままで、尊氏の策謀により歌会に招かれて逮捕される展開になってます。そのあとで二条河原の落書が出てきたり、西園寺公宗による後醍醐暗殺未遂が意外にも1ページをさいて描かれてからそのあとに足利直義が鎌倉将軍府へ行くなど、史実の展開とバラバラな描写が目につきます。そして中先代の乱、その混乱の中での護良の死を描いて第5話は終わります。
 第6話は「足利尊氏の反抗」。北条時行を 討つために出陣した尊氏が祖父・家時が「三代のうちに天下を取らせたまえ」と祈った話を回想する場面がありますが、家時の自害には触れません。そして今度 は義貞が尊氏を討つべく出陣することになりますが、尊氏の出家騒動もカットされ箱根の合戦は「大友が裏切った」の一言で形勢逆転(笑)。細かいところで、 逃げる義貞が天竜川にかけた浮橋をそのまま残していくという「梅松論」のエピソードがわざわざ描かれており、尊氏が「敵にするにはおしいやつだなぁ」と義貞を称賛するカットがあります。このあと京都攻防戦で尊氏が敗北、逃走するカットで例の「騎馬武者像」っぽくなってきます。

 第7話「朝廷二つに分かれる」は、九州へ逃げる途中の尊氏に赤松円心「べつの天皇をたててその命令でたたかうことです」と提案するシーンから始まります。南北朝対立の直接的きっかけとなる提案であるわけですが、ここで円心の顔が露骨にワルに描かれるところが注目。聞いてる尊氏も最初はそれなりに二枚目っぽい顔なんですが、この提案を「うむ!それはいいアイデアだっ!」と受け入れるカットでは、鼻の形が変わり(鼻の穴が描かれる)明らかに悪人ヅラになります(右図)。さりげない変化ですが、やはりここに江戸以来の「逆賊尊氏」イメージの残滓を感じてしまうところです。
 このあと九州での戦いになりますが、尊氏が菊地氏に協力を求めて拒絶されるという史実にないシーンがあります。そして同時進行で円心VS義貞の白旗城攻防戦が描かれますが、「太平記」と異なり円心の謀略に見事に引っ掛かる義貞という構図ではなく、義貞の猛攻に円心が「とてももちこたえられん 尊氏どのにれんらくを」と焦る描写になっています。そして新田軍兵士が周辺の農民から物資を略奪したのを義貞が怒って返しに行かせますが、「天皇のために戦っている」と知った農民たちが積極的に物資を差し出す、という元ネタ不明の義貞美化シーンがわざわざあります。
 講談調のこの漫画ですから、湊川へ赴く正成が正行と涙涙の「桜井の別れ」をやるのはお約束というところ。正成の「母をたすけて べんきょうなさい」のセリフはいかにも「教材」です(笑)。湊川合戦はかなり簡単に描かれますが、義貞の作戦ミスがはっきりと書かれ「ウムッ へたないくさをしたな!」と正成が怒るカットがあります(下図)。
 そのあとの後醍醐と尊氏のいったんの和睦の場面ではなぜか後醍醐の皇子として懐良親王だけが登場、後醍醐が懐良をひそかに西国へ派遣しています。そしてそのまま越前・金ヶ崎城の戦いに移り、ここが陥落した場面で「義貞も戦死してこの戦いは終わりをつげました」と明らかな間違いを書いてしまっています。


◎南北朝の対立〜合体まで

 第8話は「足利幕府と吉野朝」。金ヶ崎陥落・義貞戦死のあとに事情がカットされたあげくいきなり後醍醐が吉野に入っているという妙な展開で、このあとに北畠顕家の奮戦と戦死、北畠親房の 常陸行きと「神皇正統記」の執筆が語られます。親房の格好が上杉謙信みたいな頭巾姿なのでは何かイメージの典拠があるんでしょうか…伊東章夫さんの「足利 尊氏」でもこんなカッコウだったもので。そして親房が常陸から吉野に戻ると、なぜかまだ後醍醐天皇が健在!足利家内部の内輪もめが伝聞と会話だけで処理さ れ、尊氏の降伏をブレーンの僧侶(もしかして文観?)が「直義より尊氏のほうが信用できる」と語ったりしてます。そして足利兄弟の争いに乗じて親房が一時京都奪回に成功するわけですが、それを聞いた尊氏・直義が仲直りしてしまい、一緒に京都を奪い返すというキッカイな展開が描かれてます。ええ、直義毒殺シーンなんて全然ありません。
 このあと舞台は瀬戸内海の海賊の島・忽那島に移り、懐良親王のもとに後醍醐天皇死去の知らせが入るシーンになります。涙ながらに奮起した懐良はこのあと九州に渡り、奮闘する…というところでこの章は終わります。
 この第8話、事実関係の間違いがやたらに目につき、「監修」をちゃんとやったのか疑わしいばかりです。

 最後の第9話「南北朝の合体」は尊氏の死後10年、義詮細川頼之義満を託するとこから始まり、南北朝合体までが描かれてます。頼之は義満の父代わりとなるのは史実の通りですが、義満に「キョロキョロしないで!」「きちんとすわって手はひざの上に!」などと厳しく教育にあたり、義満が素直に「はい!」「はい!」と応じるやりとりが微笑ましい(笑)。この章、拙著「室町太平記」そのままに頼之と義満の二人が主役として進行してまして、頼之の失脚と復活、明徳の乱、南北朝の合体を望みつつ頼之が亡くなった直後にそれが実現、といった展開もしっかり描かれてます。
 この章での義満は南北朝合体についても基本的に「いいひと」に描かれていて、顔もこのシリーズの天皇家のそれと同じで美形に描かれています。ところが次の第6巻ではいきなりワル顔(というよりは「一休さん」の義満に近い)に描かれてしまっているのは、やはり「上皇になろうとする」からなんでしょう。義満が批判的に描かれる一方で義持が良心派に描かれてましたから、作者の意図するところは明白だったように思います。

◆おもな登場人物のお顔一覧◆
事情により登場人物の一部のみ掲載しておきます。
皇族・公家

後醍醐天皇日野資朝日野俊基北畠親房北畠顕家
北条・鎌倉幕府


北条高時北条時行

足利・北朝方

足利尊氏足利直義赤松円心
新田・楠木・南朝方


楠木正成楠木正行新田義貞


「マンガで南北朝!」のトップに戻る