☆マンガで南北朝!!☆

松田大秀・画
「太平記-夢は吉野をかけめぐる-

(1991年、翔企画「シミュレイター」誌32号)


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◎シミュレーションゲーム誌に掲載された爆笑漫画

  これはかな〜り貴重な一品。僕は1991年当時あちこち探し回って神田・神保町の老舗「奥野カルタ」でようやくこれを買ったんですよ。当時TVゲームはま だ所持していなかった僕はボードゲームの歴史・戦争シミュレーションにちょこっとハマっておりまして、ホビーショップなんかも時々のぞいていたわけです。 当時この趣味の雑誌としては「タクティクス」と「シミュレイター」の2誌があり、ともに季刊ペースで発行されていました。「シミュレイター」誌はこの時期 「翔企画」というシミュレーションゲーム制作を手がける会社から発行されていましたが、34号で休刊となっています。つまりこの32号はほとんど末期の号 といえます。
 この「翔企画」は「SSシリーズ」という安価・簡単なシミュレーションボードゲームシリーズを発売しており、1991年には大河ドラマに便乗して「太平記-血戦楠木正成-」を発売しています。これ、なかなかの名作なのですが、それについては「ゲームで南北朝!」コーナーを見ていただくとして(このゲームについてはまだ未公開…お待ちください)、このコーナーで紹介するのは、そのゲーム発売を記念して「太平記特集」を組んだ「シミュレイター」誌の巻頭を飾った、「ヒストリカル・ゲームコミック」のほうです。
 この漫画を担当したのはシミュレイター誌ほかウォーシミュレーション関連でよくお見かけする松田大秀さん。表紙も担当されており、そちらには漫画中には登場してない日野俊基や足利直義、足利義満と思われるキャラも描かれてます。漫画のタイトルは「太平記」<SSシリーズ太平記によせて>となっていますが、なぜか目次では「夢は吉野をかけめぐる」と表示されてまして、とりあえずここでは両方をミックスしておきます。

  この漫画、要するに「SSシリーズ太平記」の内容と、歴史・軍事マニアにもちとなじみがうすい南北朝時代そのものを簡単に紹介する趣旨で描かれたもので す。わずか8ページの作品ですが、これがなかなか濃いのですよ。漫画家さん自身が軍事史マニアということもありますし、ゲームデザイナーの中嶋真さんが南 北朝研究の御大・佐藤進一氏の直弟子(?)という本格派でありますから、南北朝で一番面白く、なおかつこのゲームのテーマとなっている「建武の乱」を実に うまくまとめています。
 しかもこの漫画、南北朝時代を扱った、ほぼ唯一のギャグ漫画ということでも貴重な存在なのであります。実を申せば、僕がこの「漫画で南北朝!」コーナー制作に踏み切った原因の一つがこの漫画の存在にあったりするんです。めったに見られないこの一作をぜひ紹介したい!というわけで。


◎おっさん正成&いじられまくる義貞

 「後醍醐天皇は日本史における一個の政治的畸形者であり、その奇であることはかれが天皇であることよりも皇帝になることを熱願したところにあった」という司馬遼太郎の文章(出典未確認)を引用してしぶ〜く始まるこの漫画、1335年12月、箱根・竹之下合戦で新田義貞が敗れた知らせが京に伝わるところから始まります。「SSシリーズ太平記」もここがゲーム開始時点なんですね。知らせを聞いた後醍醐天皇、「新田の馬鹿め…怨敵退散の真言密教呪法までしてやったというのに…よほどサイコロの目が悪かったのであろうかと頭を抱えます(笑)。ボードゲームですからサイコロに運が左右されてるわけでして、尊氏と義貞が戦うと、尊氏の方がサイコロ一個分有利ルールなんです。
 「サイコロ一個分有利だかなんだか知らんが…」と京へ馳せもどる義貞を、「おお新田殿!無事でござったか!」「安全第一」のヘルメットをかぶった工事現場の監督としか思えないオジサンがニコヤカに出迎えます。「な…なにモンだ貴様…」と驚く義貞に、「陣地防御戦の鬼・河内のおっさんでござるよ」と笑って答えるオッサン。そう、彼こそが楠木正成なのです!(右図)武田鉄矢も気に入っていた司馬遼太郎の「楠木は河内の気のいいオッサン」発言をもとにしたと思われますが、このインパクトの前には金八先生も裸足で逃げ出しそう(笑)。
 「古来、京を守って勝ったためしはござらん。ということで無防備都市を宣言して兵を引くと…」「ジュネーブ条約があるとでも言うのか、この馬鹿者!!」というやり取りはさすが軍事マニア雑誌というところでしょうか。

 後醍醐天皇が「賀茂の守り作戦」を指示しますが、やっぱり足利軍は京都に突入。比叡山に避難する天皇や公家たちのカットの背景に「杉野ォ、杉野はいずこ!」と叫んでる広瀬武夫らしき人がなぜか見えるんですが、これはどうも松田さんのお約束ギャグの一つらしいです。
 宮方敗北か…とみえたところに救世主のように駆けつけるのが青年武将・北畠顕家。このゲームでは尊氏に匹敵、もしくはそれ以上の実力をもっていて、南朝方プレイヤーには頼みの綱ともいうべき存在として、詳しく紹介されています。「余談ですけど某テレビ局の大河ドラマではなんと後藤久美子がこの役をやるんですよ、はっはっは」と解説役の鹿内靖さん(同誌編集長)が口にしてますが、まだ放送前の段階だったんですね。

 北畠軍の突入で、足利尊氏は九州へ敗走。勝利に気を良くした後醍醐天皇は顕家軍を奥州に帰してしまう「完全な戦略ミス」を犯し、「わたしの出番はもう終わりなのネ、つまらないなぁ」とボヤきつつ顕家は退場。「そのころ新田義貞は―後醍醐帝より賜った勾当ノ内侍とちちくりあっていたとかいう噂で―」とナレーションが語られ、「どうなんですか!新田さん!」ワイドショーのレポーターが義貞を追い回す一幕も(笑)。
 とかなんとかやってるうちに尊氏が九州から東上。正成はいきなりリアルな顔で「今度こそ宮方は危ねえぞ。こいつぁいったん京を捨てるしかあるめえ。尊氏の奴に京を占領させて大軍が京に入ったら淀川ぞいの補給路をゲリラ戦でおびやかすしかねえ。いわゆる兵站(ロジスティックス)ってやつよタバコをくゆらせながら(「室町時代にタバコはない」としっかり注が(笑).服に「楠木建設」とあるのも注目!)作戦を練りますが、これはもちろん馬鹿公家(明記はないが坊門でしょう)に却下され、正成は湊川の死地に赴くことになります。「ふんとー努力のかいもなく〜今日も泪の陽が落ちるゥ〜男はつらいよォ」と歌いながら(笑)。
 
 このあとは湊川合戦のゲーム的な解説。このゲームでは「身分」の概念もとりこまれていて、戦闘能力の高い正成は義貞と行動を共にすると身分上義貞が総司令官になっちゃって、実力を発揮できない、というルールがあるんです。その解説を聞いた義貞が「なんじゃと、それじゃワシが無能のように聞こえるだろうが!!」とわめきます(笑)。しかし解説は「湊川の敗戦は、物語によれば明らかに新田義貞の作戦ミスなのだが…」「ま 義貞のような無能な武将をパートナーに持ったのが正成の不幸であったとも言えよう」と容赦なく追い討ちをかけ、義貞、「うるせえってんだヨオオォッ!!」とついにブチ切れます(笑)。いや〜やっぱり軍事マニア的には義貞評価はより厳しくなるもののようで。しかし徹底しておちょくられるこの漫画ほど義貞の存在感が強い例を僕はほかに知りません(爆)。
 このあとは南北朝分裂と後醍醐の死を簡単に語っておしまい。編集長が「太平記ギャル」なる謎のバニーガールに囲まれつつお別れを告げて幕を閉じます(笑)。

 たった8ページなんですけど、この満腹感は南北朝マニアのみが味わえるものかと(笑)。
  この「シミュレイター」太平記特集では、デザイナーによる歴史解説、これまた爆笑必至のリプレイ記事、人物辞典など実に充実。裏返すと「南北朝なんてよく 知らん」という読者が圧倒的多数だったから、ということでもありますが、当時の歴史雑誌よりも中身が濃かったんじゃないかと思うほどの内容はやはりシミュ レーションゲーム雑誌だったからでしょうね。部数も少なく、当時ですら滅多に手に入らん雑誌でしたから、古本・ネットオークションなどで見かけたら確実にゲットを。

◆おもな登場人物のお顔一覧◆
ゲームの時代設定上、建武の乱関係者しか出てきません。
皇族・公家

後醍醐天皇阿野廉子?北畠顕家坊門清忠?
足利・北朝方


足利尊氏

新田・楠木・南朝方


楠木正成新田義貞勾当内侍


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