「室町太平記」番外
「暴露大会その2」


◆アヴァン・タイトル◆

 平成16年(2004)4月、なんと一年もの放置ののち、「暴露大会」が再開された(汗)。
 前回の暴露大会で当初の全体構想の大幅な変更を余儀なくされていたという、作品の根幹にも関わるドロナワ的状況が明らかにされ、なおかつ実は「三国志」だの「小説吉田学校」だのといった隠し見立て設定が存在していたことが暴露された。
 そしてまた異なる出演者たちをゲストに招いて、作者つるし上げ暴露大会の第二幕が始まろうとしている…


◆構想倒れのあおりを食ったフィクションキャラたち

世阿弥(以下、「世」)「はい、暴露大会第二回目でございます」
徹夜城(以下、「徹」)「なぜか丸一年もの放置ののちの再開でございます(苦笑)」
世「今回もゲストのご紹介からいきたいと思います。まずは実は「ムロタイ」全体のヒロインキャラでもあった小波さんです」

小波(以下、「小」)「はいはい、今川了俊さん以外で第一回から最終回まで出ずっぱりの数少ないキャラなんですけどね、今ひとつ活躍できませんでした」
世「それからやはり女性キャラでこのドラマでは珍しく悪役まわりの渋川幸子さん」
渋川幸子(以下、「幸」)「悪役…といえば悪役ですけど、数少ない女性キャラの中では出番の多いほうなんですけどね」
世「そして実は影のスターだった?長慶天皇さん!」
長慶天皇(以下、「長」)「ふん、どうせ私は“天皇”と認められるまで500年以上もかかってますから。どうせ日陰者です」
世「とまぁ、暴露大会第二回は出番が多かったような少なかったような、微妙な方々に出ていただいているんですが、小波さんを初めとするフィクションキャラクターの皆さんの処理はやっぱり苦労されてますよね?」
徹「そりゃもう、完全に計算が狂ったのが多いですから(汗)。前回言いましたように展開の予定が完全に構想倒れになったため、フィクションキャラたちの活躍の場は大幅に狭くなってしまいました(涙)」
小波「あー、第一回から思わせぶりに出てきてる速波さんなんかそうですよね」
徹「まさしくそうで。本当は彼女を主軸に小波ちゃんの成長を描きつつ、「海の民」をもっと舞台裏で大活躍させる予定があって…」
長「それで私を悪役に引っ張り出してまでして強引に抹殺しちゃったわけだな(第22回)」
渋「なんかあのあたりは物凄くつめこんで処理してますよねぇ」
徹「ハハハ…本編中でもちょこちょことはからませましたが、当初はこの速波・小波・勇魚の三人を“倭寇”に絡ませ、さらには海外情勢にも一枚かませる予定だったんですよね。それで後半に三国の話が結びついてくる、って構想だったんです。実は李成桂の『威化島回軍』の現場に小波ちゃんがいるという絵が作者の頭の中にはあったりしました」
小「そこまで出張させられなくて助かったわ(笑)」
徹「さらに言えば、小波ちゃんにはもっと違った活躍をしてもらう計画もありました」
世「ああ、最終回の私の解説でチラと触れてる件ですね。名前が“肥富=こいずみ”と似せたという」
徹「ええ。実は肥富は小波ちゃんその人、つまり“実は女性だった!”という風にする計画があったんです!」
小「げげっ」
徹「かなり迷った末にいったん決定しちゃったんですが、結局はさすがに無理を感じて(だって日本使節として明に行かなきゃならないし)路線変更。もともと登場させる予定だった魏天くんと急遽くっつかせ、そのお子さんを“肥富”にすることにしたんです」
小「急遽くっつかせ、ってコラっ(笑)」
徹「年齢的な問題もありました。一応その辺を考えて初登場時にかなり幼くしたんですけど、そういった迷いがあったもんだから全編をよく読むと年齢設定をごまかしているところもございます(笑)」
小「年齢設定と言えば、勇魚のオジサンも年齢がよくわかりませんよね」
徹「この人も当初の展開ではもっと派手に動き回る人だったんですよ。明らかに速波さんに気があるキャラでしたしね。そしてどっかで壮絶に死ぬ予定だったりしました」
世「あらま、殺す予定だったので?」
徹「はい。何度か機会がありまして(笑)、速波さんと一緒に死ぬ、あるいは清氏と頼之の決戦で死ぬ、あるいは海外に渡って死ぬ…とかいろいろ考えたんですが、その都度先送りに(笑)」
幸「けっこう適当に構想してますねぇ…」
徹「そして最後の大決戦である応永の乱で大内義弘に従って戦死、ということにして話を進めたんですが、結局生きながらえてしまいました(笑)。なんか殺しにくいお人でして…」
世「古今東西の歴史ドラマにはよくあることですけど、こういった庶民代表的フィクションキャラクターたちというのは扱いに苦労するもんですよねぇ…」


◆ドラマの華、女性陣は…

世「歴史ドラマにおいて、フィクションキャラクターと共に扱いに苦労しがちなのが女性たちですね。どうしても政治家・武将を主役にした歴史ドラマにおいては女性は添え物的役回りになりがちで…」
幸「ふーんだ、どうせ添え物ですから」
徹「いやぁ、その中で幸子さんは結構美味しいキャラだったんですよ。実のところどういうことをした女性なのかは詳しくは分からないんだけど、義満さん関連の本を読んでいるとどうも継母である幸子さんだけには義満は頭があがらなかったらしい、といった話がチラッと出てきて、こりゃいけそうだと膨らましてみたんです」
幸「主人公をいじめる継母役…まぁよくある設定ですわね」
徹「でもね、僕は幸子さんのキャラが好きでしてねぇ。義満の実母の良子さん、乳母である頼之の妻と並んで義満の成長過程に影響を与えた「三人の母」という位置づけで話を運んでみたつもり。ドラマ終盤の幸子さん臨終シーンで「三人の母」というセリフが出てきますが(第48回)、あのシーンを最初に思いつき、あのシーンを目指してキャラ作りをしたんです」
長「イヤなやつなんだけど、終わってみると実はそれなりにいい人、ってパターンであるな」
幸「私と、良子さんはさすがに名前が残ってるけど、頼之さんの妻を『慈子』って名づけたのは適当なの?」
世「歴史ものでは実在の人でも女性は実名が不明のケースが多くて、いろいろ勝手につけてますよね。よくあるのが戒名とか法名から一文字とって、という手ですね」
徹「僕も最初それを考えたんです…彼女、『玉淵』って道号を夢窓疎石からもらってますから、「玉子」とか「淵子」とか(笑)。でも、なんかピンと来ませんで…あとで知ったけど、平岩弓枝さんの義満を描いた小説『獅子の座』ではホントに「玉子」ってなってたそうですね」
幸「で、“慈子”って名前はどこから?」
徹「この人の父親の名前が「保世」。「やすよ」だと思われるから、その娘で「保子」。ひねりがないんで文字を変えて「慈子」…という凄い連想ゲームでして(笑)。義満の乳母として慈愛を注ぐ、というイメージも一応重ねております」
世「頼之さんのお母さんの“利子”さんってのも勝手命名でしたね」
徹「えーと、これは確か手元の漢和辞典で適当に開いたページに載ってた字を使いました(笑)」
長「なんちゅう、いい加減な(笑)」
世「女性陣の話題と申せば、義満さまの華麗なる女性遍歴は泣く泣くカットでしたねぇ」
徹「あんたを含めた華麗な“少年愛”遍歴もね(笑)」
世「……(ポッ)…まぁ、なんといいますか、女性男性を問わず豪快に生きたお方なんですねぇ、義満さまって」
徹「男性遍歴のほうは史料追跡が大変そうだったんでパスしましたが、華麗な女性関係はやりたかった…『源氏物語』そのまんまですもん、ホント(笑)。あれこれ構想もしていたのですが当初の予想より「頼之編」が長引いたため、泣く泣く厳子さんをめぐる話に絞りました…これについては第49回の世阿弥さんの解説でちょこっとフォローはしておいたんですけど、ドラマ化できず無念な点です」
幸「姉妹ともろとも、どころか母娘もろとも妻にしちゃったり、弟の嫁さんを横取りしたり、町の遊女を拾ってきて側室にしちゃったり…全部やったらR指定になってたかもしれませんねぇ(汗)」


◆カットされた逸話

世「女性関係は編集上の都合でしかたなく、ということでしたが、割と面白いミニエピソードでもカットされてるのがあるんですよね」
徹「うん、『細川頼之記』ってズバリのタイトルの史料があっていくつか面白い話が載ってるんですが、後世の書物でまるっきりアテにならないのでほとんど採用してません」
小「たとえばどんな?」
徹「一部でよく引き合いに出される話なんだけど、頼之が少年義満を教育した際、義満のまわりにわざと人にこびへつらったりウソをついたりをする坊主達を出入りさせて、義満の“反面教師”にさせた、ってエピソードがあります。ああいうふうになってはいけませんよ、と」
幸「たしかに教育話としては面白いですよね」
徹「このドラマは父なる頼之、子なる義満、という『義理父子ドラマ』という側面があるんですが、その上でも採用したくもあったエピソードですね。でも、僕が考える頼之の性格にあいませんので、この話はカット」
世「だいいちウソっぽいですよね(笑)。なんか中国の故事とかに元ネタがありそう」
徹「あと、同じ『細川頼之記』には租税のことで佐々木道誉を屈服させたという話もありましたが、これもカット」
長「道誉が頼之と対立していたという事実はないどころか、頼之を管領職につけたのが道誉と言われているぐらいだからな」
徹「道誉が頼之と示し合わせてわざと悪役まわりを…なんてことも考えましたが、やめました。あと、『細川頼之記』以外でも迷ったあげく使わなかった逸話に、少年時代以来鷹狩りを好んだ頼之が管領になるにあたって鷹と犬を放ち、狩りを一切やめたというのもありました。その代わりに鷹と犬の絵を描かせて寺に奉納した、という話なんです」
小「結構いい話じゃないですか」
徹「いい話なんだけど、鷹狩りを好む頼之、っていうのがイメージできなくてカットしました。カットといえば、面白いんだけどどうしてもドラマ中に組み込めなかった今川了俊さんの逸話があります」

世「ほう、実は最初から最後まで出てくる隠れ主役の了俊さんに。それはどのような?」
徹「九州平定時代の話なんですけど、歌人武将である了俊は各地の武将らに和歌の指導をやってるんですね。歌の指導を通して武将達と関係を深めておくという政治的側面も大きかったわけですが。で、了俊は流派の“秘伝”とされる歌の技術も惜しむことなくポンポンと人に教えていたそうです。それをあるとき命松丸に注意されるんです」
小「命松丸…ああ、吉田兼好さんとこにいて、了俊さんと一緒に『徒然草』作成に携わったという人ですね」
徹「命松丸は了俊に“秘伝をそのように軽々しく人に教えるのはもったいない”、と忠告するんですが、了俊は“もっともではあるが、歌の道を志している人々にあえて秘すべきではなかろう”と逆に命松丸を諭したというエピソードがあったんですよ」
長「ほほう、詩人ながらもリアリスト政治家の了俊らしい逸話ではあるな」
徹「この話も惜しかったんだけどなぁ…そこまで彼の九州統治を描いてる暇がなくて」
世「高麗焼酎で酔っ払うシーンはしっかり入れたくせに(笑)」


◆誰も知らない製作現場

徹「酔っ払う、といえばこの連載は日曜日に書くことが多かったんで、アルコール入りほろ酔い状態でキーボード叩いていることが多かったなぁ(笑)」
世「酒の勢いを借りて書いてたわけですか(笑)」
徹「酒とBGM。僕は漫画とか小説とか書き物をするとき、それにあった「テーマ音楽」のCDをかける習慣があるんですが、実は『ムロタイ』にも「テーマ音楽」がありました」
幸「へえ?なんのCDかけてたんです?」
徹「なぜか当時ハマっていたアニメ作品のサントラでして…『星界の紋章』のアニメのサントラ(服部克久作曲)です」
小「それってSF作品ですよね?宇宙戦争ものの…」
徹「はっきり言いますが、内容的には全く相似性はありません(当たり前だ)。なぜかわかりませんが、大宇宙をイメージした一連のサントラ曲がドンピシャに僕の中の「ムロタイ」のイメージにハマりまして。頼之vs清氏の宿命の対決のときなんか、もうガンガンにこのCDをかけまくって場面をイメージして書いてました。興味のある方はこのCDかけながら『ムロタイ』読んでみてください(笑)」
世「南北朝時代と大宇宙…意外な結びつきでありますな」
徹「『ガンダム』のサントラも時々使ってましたね。とくに映画版第三部のやつ。それと、あんまり意外ではないけど『ゴッドファーザー』のサントラもよくかけてました(笑)」
幸「ああ、ドロドロの抗争劇のあたりは合いますよねぇ」
世「さて、この『ムロタイ』は2002年1月にスタート、本家大河ドラマ『利○とま○』に対抗して週刊ペースで連載されましたが…」
徹「当初は夜8時に合わせてアップとか言ってたんですけど(笑)、しだいに日曜に間に合わなくなり、止まったり進んだり…11月にとうとうストップしてしまいました。まぁ思い返すと他にも週刊連載やってたくせによく書けたもんだと思います」
世「で、再開してなんとか終わったのが4月1日…四月バカですか(笑)」
長「暴露大会はさらに一年も遅れたし」
徹「言い訳がましく言えば、「太平記大全」のラスト同様、次回作品の予告をぶちあげておきたいと思ってましたからね。それの準備が全く進まなかった。そして昨年一年間は論文と仕事で結構多忙でした。それでついつい手が出ず、結局一年…」
世「こうしてアップしたということは、次回作の準備が出来ている、ということですな?」
徹「うーん、準備ばっかしててもキリが無い、もう始めちまえ、ということです。『ムロタイ』同様に退路を断っておくと(笑)。一応最終回で次回作への“つながり”は暗示されてるんですがね」
世「ほほう、そういや私も解説で言及してますね。義満が言う「鳳凰」のことですな」
徹「はい、次期連載作は前々から伝言板ではやるぞ、やるぞと言っていた企画…この時代から150年ばかりの後の、アジアの海を舞台にした海洋冒険歴史ピカレスク小説(笑)であります…では、予告編 をどうぞ!」


制作・著作:MHK・徹夜城