「室町太平記」
参考文献一覧

☆『細川頼之』(小川信著、1972年、吉川弘文館・人物叢書)

 問答無用で「ムロタイ」最大のタネ本。細川頼之を扱ったほぼ唯一の伝記本である。これ以前に猪熊信男氏よる「細川清氏と細川頼之」(昭和34年)という、「ムロタイ」的に大喜びの評伝があったそうだが、入手困難とのこと。幸いその要点はこの本の中で紹介されているので、頼之および清氏の総合伝記として読むことができる。
 結構重要人物であるはずだが知名度的にはイマイチの宰相の生涯を、その誕生から死去まで膨大な史料引用と慎重な検証・考察によってまとめあげた、かなりの好著である。父・頼春の死、四国統治、従兄弟・清氏との対決、幕府管領であると同時に義満の父親代わりを務めた政治家時代、失脚から復活、そして南北朝の最後を見届けるかのような最期、となかなかに劇的な生涯をダイナミックにつづり、読み終えたときこの人物の存在の大きさに感嘆させられてしまった。「タネ本」という以前に僕に「南北朝後半戦物語」の主役に頼之を持ってこようと決意させた一冊だ。「ムロタイ」執筆時には常にパソコンの脇にあり、出先でも読みまくっていたため、もうボロボロ(笑)。それだけ濃い内容であり、その内容のほとんどが「ムロタイ」に採用されているといっても過言ではない。頼之の趣味・教養・信仰そして家族関係にまで話が及んでいて、とにかく行き届きまくった内容だ。
 ただし「人物叢書」シリーズの常でもあるが、内容はかなり専門的で、どちらかといえばストレートには読みにくい論文調なので、初めて読む人は注意してかかること。


☆『足利義満』(臼井信義著、1960年、吉川弘文館・人物叢書)

 「ムロタイ」後半部分のタネ本となった、足利義満の伝記本。義満は超有名人ではあるもののまとまった評伝となるとこの本ぐらいしかないみたい。これも義満の誕生から死去までをまとめているが、全体的に簡潔な記述でエピソードなどは「触れる」程度にとどまっていて詳しく紹介してくれないところが多く、ドラマネタを求める僕としてはもどかしいところがあった。
 圧巻だったのは義満の家族関係の紹介部分だろう。とくに義満の女性関係の華やかさは百花繚乱の列挙状態で、これを元ネタに「義満版源氏物語」をやってみたいという気にさせたぐらい(実現できなかったのが悔やまれるが)


☆『今川了俊』(川添昭二著、1964年、吉川弘文館・人物叢書)

 「ムロタイ」の隠れ主人公的存在である歌人武将・今川了俊の伝記本。武将・政治家の側面とともに優れた歌人としての面も大きく取り上げた評伝で、文化史の読み物としてもお薦めできる。


☆『佐々木導誉』(森茂暁著、1994年、吉川弘文館・人物叢書)

 「太平記大全」に続き、「ムロタイ」でも重要な脇役をつとめてくれた南北朝の怪物・佐々木道誉(この本では「導誉」で統一してる) の伝記本。鎌倉幕府末期以来の彼の生涯を追っているが、史料が乏しいせいか南北朝前半戦での活躍についてはあまり詳しくは書かれてない。やはり彼の本領発揮は尊氏死後で、その政治的活動については詳しく考察されている。だがこの本の見所はむしろ他の本ではまず触れられない、彼の家族関係や家臣、領国経営、そして文化人としての活動に関する記述だ。本書に掲載されている晩年の道誉が書いた「ミま」なる女性への手紙なんかはなかなか泣かせるものがある。


☆『南北朝の動乱』(佐藤進一著、1974年、中公文庫「日本の歴史」)

 「太平記大全」でもさんざんお世話になった南北朝史概説書の名作。守護大名研究の第一人者であった著者ならではの、義詮〜義満時代の幕府内政治闘争の分析は、「ムロタイ」執筆においておおいに参考にさせていただいている。


☆『室町の王権』(今谷明著、1990年、中公新書)

 「義満の王権簒奪計画」と題された、この問題を扱う際にはもはや定番ともいえる著作。当時の皇室の機能を分析、それをいかに義満が突き崩し権力を奪取していったのか、細かいエピソードもつらねつつ検証する、一般向けにもお薦めできる一冊。義満の問題だけにとどまらず、その後どうして皇室が現在まで存在し続けるのかの考察にも及んでいる。


☆『太平記の時代』(新田一郎著、2001年、講談社「日本の歴史11」)

 講談社の「日本の歴史」シリーズの南北朝時代担当の一冊。正直なところ一般向けの本にしては難しく読みにくい叙述という気がするが、南北朝時代の論点などは要領よくまとまっていると思う。「ムロタイ」では義満時代の部分でお世話になってます。


☆『海賊たちの中世』(金谷匡人著、1998年、吉川弘文館「歴史文化ライブラリー」56)

 「ムロタイ」の要素の一つでもあった、瀬戸内海などの海賊衆については本書の内容を参考にさせていただいた。どちらかというと戦国時代の海賊衆に関する考察が多いのだが、その前史部分、海賊衆の発生過程などがドラマ内の架空キャラたちの設定にある程度混入させている(つもり)。


☆『中世後期における東アジアの国際関係』(大隈和雄・村井章介編、1997年、山川出版社)

 研究者らを集めたシンポジウムの内容をまとめたもので、講演と論文から成り、はっきり言って専門的内容だが、「外」からの視点による日本史像がさまざまな分野から提起され、好きな人には非常に興味深い内容。とくに村井章介氏の「倭寇」関係の講演は原典資料がかなり引用されており、「ムロタイ」執筆時にとても便利でした(^^;)。


☆『中世日本の内と外』(村井章介著、1999年、筑摩書房)

 中世日本、とくにその国際関係史を専門とされている村井氏が、東大の一般教養での日本史講義で使ったノートをもとに一冊の本に仕立てたもの。そのため歴史学専攻以外の人にもかなり分かりやすく、平易な語り口で入門者にもお奨めの一冊。義満の「簒奪計画」を国際関係もからめて論じた部分など、大いに参考にしてます。


☆『倭寇・海の歴史』(田中健夫著、1982年、教育社歴史新書66)

 倭寇関係の著作としてはもはや古典的存在。前期・後期もとりまぜて「倭寇史」を概観する内容で、簡潔にまとめながらもかなり詳細な事例に言及し、「倭寇」の実態を描き出していく。「ムロタイ」ではとくにその前期倭寇部分、李成桂と「アキバツ」の戦いの部分などを参考にしている。


☆『再現日本史・鎌倉・室町5〜8(77〜80号)(講談社、2002)

 近ごろなぜか流行の週刊百科事典の一つ。週刊誌的ジャーナリズム調で日本史を語るシリーズで、図版も豊富でなかなか面白い。記事が少なく、考察も甘いのが気になるが、毎号に載る詳細な年表は大いに役立つ。


☆『マンガ日本の歴史』(石ノ森章太郎著、中公文庫、1997)

 意外に思われるかもしれないが、これも結構参考にしていた。このシリーズのうち17〜20巻が南北朝時代を扱っており、「ムロタイ」においては19巻、20巻の内容を横目に見つつ書いていた。特に目新しい話があるわけではないのだが、頼之や義満がマンガの中で登場し、「王権簒奪」の過程なども詳しく出てくる(「上皇乱心」の場面もちゃんとある)。村井章介氏の解説も大いに参考になった。



☆『明の太祖・朱元璋』(檀上寛著、1994年、白帝社「中国歴史人物選」第9巻)

 「ムロタイ」の重要要素の一つだった、海外部分の主役の一人・朱元璋の評伝。明史の専門研究者による執筆だが、意外に小説的で面白いエピソード満載で読みやすい。貧農から皇帝へと昇りつめ、「聖賢にして盗賊」、理想主義的かつ恐怖的な両面を併せ持つ特異な建国者の人生をかなり客観的に眺め渡している。「ムロタイ」では直接的には参考にしなかったが同じ著者による「永楽帝」の伝記本もお奨め。


☆『朝鮮王朝実録』(朴永圭著、1997年、新潮社)

 500年に及ぶ朝鮮王朝の実録の膨大な内容を、大ダイジェストで一冊にまとめてくれた、実にありがたい本(さすがに凄く分厚いけど)。原典から読める人はそうそういないだろうから(僕も「太祖実録」ぐらいアタックしてみようかと思ったが量が大変なんでやめた(笑))非常に便利な一冊である。通史の簡単な叙述だけでなく、現代の学者の説や議論なども併記してくれている。「ムロタイ」では李成桂関係のタネ本にさせていただいている。


☆『朝鮮史』(武田幸男編、2000年、山川出版社「世界各国史」シリーズ)

 古代から現在まで、朝鮮半島の歴史を一気に概観するコンパクトな一冊。「ムロタイ」においては上記の「実録」本と一緒に高麗末期〜朝鮮初期時代の事実関係の確認に利用させていただいた。





◎原典史料

☆『太平記』

 「太平記大全」に続き、お世話になりっぱなし。特に観応の擾乱、義詮時代の幕府内権力闘争などでは大いに参考になった。細川清氏が「ムロタイ」前半戦の「事実上の主役」なのも本書のせいと言ってよく、道誉の清氏失脚の謀略から清氏の南朝への帰参、清氏と楠木正儀の都入り、そして清氏と頼之の決戦までの過程はほとんど『太平記』の記述に拠った。利用したのは新潮古典文学大系の書き下し版で、詳細な注釈は事実関係の考証にもかなり役立った。


☆『難太平記』(今川了俊著)

 本書も「ムロタイ」の相当なタネ本となっていた。なんといっても登場人物ご本人の手による「暴露本」ですから(笑)。タイトルは当初違うものだったと言われているが、「太平記」に難癖をつけていることからこのタイトルが定着した。清氏と親しかった了俊にしか書けない清氏失脚裏事情や、大内義弘のこと、さらには義満への恨み言(笑)など、内容は豊富。


☆『明徳記』

 山名一族が義満と戦った「明徳の乱」を描く軍記物語。執筆者は不明だが内容から義満近辺の人物だろうと推測されている。ことさらに義満の栄光を称える記述で、客観性はおよそ欠いているようにも思うが、山名一族の人々の悲劇にも同情の涙を隠さず、軍記物としてのお約束は見事にぶちこまれている。執筆時期は乱の直後であると思われ、資料的価値も高い。乱の直後の頼之の死で物語をしめくくっており(ドラマの「三島三郎」のモデルもここで出てくる)、頼之の存在の大きさがうかがわれる。


☆『応永記』

 大内義弘が義満に挑戦した「応永の乱」を描いた軍記物語。「ムロタイ」では最終盤ということもあってチラッと参考にした程度だけど。


☆『明実録』

 その名のとおり、明帝国の実録。歴代皇帝ごとに編集され、日記のように皇帝の日常行事や政治報告、事件、処置が記録された明史研究の根本資料である。正史「明史」などもこれを元に編纂されている。「ムロタイ」では朱元璋時代の『太祖実録』における日明交渉史(懐良親王から義満にいたる)の記事を参考にしている。


☆『老松堂日本行録』(宋希m著、村井章介校注、岩波文庫)

 「ムロタイ」の時代よりあとの義持時代、対馬問題で日本にやって来た朝鮮使節による日本旅行記。この中にドラマ中にも重要人物として出てきた「魏天」に関する記述がある。また瀬戸内海を航行中に海賊とでくわすくだりなど、非常に興味深い内容を含んでいる。
 
 
 

 



 


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