第二回「芽生え」 (1月13日放送)
◇脚本:池端俊策
◇演出:佐藤幹夫 


◇アヴァン・タイトル◇

 鎌倉幕府の権力構造の解説。とにかくややこしい幕府末期の政治状況を説明してくれる。



◎出 演◎

真田広之(足利高氏)

沢口靖子(登子)

萩原健一(新田義貞)

大地康雄(一色右馬介)

高嶋政伸(足利直義)

辻萬長(高師重) 河原さぶ(南重長)
北見治一(蓮房) 丹治靖之(木斎)
六平直政(宍戸知家)  平吉佐千子(歌夜叉)
ストロング金剛(大男) Mr.オクレ(小男) 
高品剛(窪田光貞) 高尾一生(大平惟行) 佐藤信一(猿回し)
田口主将・若林哲行・長江英和(武士)
谷津勲・遠井みちのり・石黒正男(物売り)
三井善忠・鈴木九太郎・安藤圭一(小舎人)

柳葉敏郎(ましらの石)

宮沢りえ(藤夜叉)

榎木孝明(日野俊基)

樋口可南子(花夜叉)

西岡徳馬(長崎高資) 中島啓江(乙夜叉)
小池栄(時宗の僧) 長谷川弘(長崎家家臣) 新みのる(神社の武士)
関根由喜(尼) 石川佳代・高橋幸子・壬生まさみ(侍女)
楠野紋子(子夜叉) 

若駒 ジャパンアクションクラブ KRC 早川プロ
丹波道場 劇団東俳 劇団若草 栃木県足利市のみなさん 群馬県太田市のみなさん 栃木県田沼町のみなさん

フランキー堺(長崎円喜)

藤村志保(清子)

緒形拳(足利貞氏)



◎スタッフ◎

○制作:高橋康夫○美術:稲葉寿一○技術:小林稔○音響効果:加藤宏○撮影:細谷善昭○照明:大西純夫○音声:岩崎延雄○記録・編集:津崎昭子


◇本編内容◇
 
 高氏が留守の間に、高氏が闘犬場で笑い者にされた事実が足利館に伝えられる。憤る直義や家臣達。
 そのころ、高氏は赤橋守時の館でその妹・登子と面会していた。登子は「この古今六帖には写し間違いがある」と言いだし、高氏に意見を求める。しどろもどろになる高氏だったが、その歌を口ずさんでみて「ああ、これは恋の歌だな」と言う。登子も「はい、恋の歌です」と微笑む。やや舞い上がった高氏は返すはずだった古今六帖を自分も読んでみると言って借りてしまう。
 登子に見送られて赤橋邸を出たときになって、高氏はようやく悟った。自分の嫁にという話があるのは、あの登子だったのだ。母・清子はそれとなく高氏に「見合い」をさせていたのである。複雑な心境で高氏は赤橋邸を去った。

 勤め先の将軍御座所では同僚の宍戸知家は闘犬場での一件を「さすが足利の御曹司、ああでなくはやっていけぬわ」と評する。「お互い、美くしゅうはないの。つまらん世の中じゃ!」と知家はうっぷんをぶちまけるが、高氏は黙って聞くだけである。
 高氏が町に出ると、時宗(じしゅう)の聖(ひじり)に率いられた僧・尼の一団が念仏を唱えながら鎌倉に入ってくるのに出くわした。長崎家家臣の 武士達が彼らを鎌倉市中に入れまいとさえぎるが、聖は「念仏を伝えるだけで他意はない」と言って押し通ってしまう。怒った武士の一人が刀を抜いて一団の中 の僧や尼を斬り捨ててしまい、見かねた高氏は武士達に飛びかかっていく。多勢に無勢で苦しむ高氏に、先ほどから道のかたわらで様子を見ていた若い山伏が棒 を片手に応援に入り、武士達と乱闘になる。そこへ円喜の家臣がやってきて相手が足利の御曹司であることを認めて武士達を引き上げさせる。
 高氏は助けてくれた海岸で山伏に傷の手当をしてもらいながら、少年の日に見た腐った「木切れ」のご神体の話をして、「鎌倉は腐りきっている」と鬱憤を漏らす。山伏は「鎌倉は腐りきっているが、京の都はいささか違う。新しい良いものが花のように咲き始めている」と高氏に京へ行くよう勧め、「醍醐寺の源海」という名前を書き記して、機会があったらこの者を訪ねるようにと言い残して去っていく。
 山伏の去り際にこれとすれ違った一色右馬介は「あの顔は…」と気づいて密かにその跡を付ける。山伏は鎌倉の市中の貧民街に足を踏み入れ、そこでひそかに新田義貞と面会していた。山伏の正体は、後醍醐天皇の側近・日野俊基だったのだ。

 高氏が屋敷に帰ると、長崎家の武士達との乱闘の話が伝わっており、清子貞氏がいたく怒っていると高氏に伝える。高氏が貞氏のところへやってくると、貞氏は何やら手紙を書いている最中。高氏は乱闘の原因は長崎家の武士達にあると説明し、長崎らにへつらってまで鎌倉にはいたくない、と貞氏に言うが、貞氏は冷たく「では鎌倉を出て行け!」と言い放つ。呆然とする高氏を尻目に書いていた手紙を執事の高師重に渡し、京の上杉氏に届けるよう命じる。
 貞氏の思わぬ強硬姿勢に、妻の清子、家臣達、そして直義はうろたえるばかり。直義は高氏に「攻める時は攻める、引く時は引く。いくさには引き時というものがござるのじゃ」と父に謝罪するよう勧めるが、高氏は聞く耳を持たず、登子から借りた古今六帖に目を通している。高氏はむしろこれを鎌倉以外の世界を見る良い機会と考え始めていたのだ。
 結局高氏は足利家から伊勢神宮に物品を送る一行に加わる形で、鎌倉を離れた。貞氏は長崎円喜に会って息子の不始末を詫び、鎌倉から追い出したと伝える。「そこまでなさらずとも」と言う円喜だったが、貞氏が去ると「足利の稲穂はなかなか刈り取れぬわ…」とつぶやく。貞氏もまた侍所を出た時に「これでよい…」と安堵した表情でつぶやくのだった。

 鎌倉を右馬介とともに旅立った高氏は、伊勢ではなく京へと向かう。その途中、ある神社で旅芸人の一座が人々に芸を見せているところを通りかかる。それは花夜叉の一座で、成長したましらの石が その俊足を武器に一稼ぎしていた。石は武士と賭けをして、武士が矢を放つと同時に全速力で走り出して飛ぶ矢を追い、それをつかみとっては金を取っていた。 感心して見ていた高氏だったが、石は高氏の刀にある「二つ引両」の家紋を目に止める。石は高氏に弓と矢を押し付け、さきほどの武士と同じ勝負をするよう求 める。高氏は弓矢を受け取ると見事に矢を放ち、石は全速力で駆け出したものの一歩及ばず、矢は石の目の前の地面に突き刺さる。石にとって初めての敗北だっ た。石は立ち去った高氏を追い、もう一度勝負しようと呼びかけるが、高氏は応じない。石は高氏に弓を向け矢を放つが、右馬介が駆けつけてきて追い払われ る。石の異様な行動に高氏はとまどうばかりだった。
 石が一座に戻り小屋に入ると、そこで藤夜叉が眠っていた。目を覚ました藤夜叉は 子供時代の石と出会った日の夢をみた、と石に語る。石は「兄妹になるとはつまらん約束をしたものだ」とつぶやく。足利の紋を見るとすぐに親の仇とつっかか る石を心配する藤夜叉に、石は「大きな戦が起こって武士が全部滅びてしまえばよい」と言うのだった。

 元亨4年9月、高氏は初めて京に入った。鎌倉とまた違った通りのみやびな賑わいに、高氏は目を見張るのだった。



◇太平記のふるさと◇

 栃木県足利市。鑁阿(ばんな)寺とその隣の足利学校の紹介。



☆解 説☆

 前回のヒキを受けて、冒頭は高氏と登子の「お見合い」で幕を開ける。高氏が一目見て登子を気に入ってしまうところは原作にもある描写。完全に政略 結婚以外の何ものでもないわけだが、やはりそこはドラマなので打算だけではない両者の感情が描かれる。若い二人のいささか微笑ましい、それでいて教養高い やりとりが楽しめるところ。

 鎌倉に時宗の僧侶の一団が入ってきて騒ぎになる場面があるが、時宗というのは一遍が創始して当時流行していた「踊り念仏」を勧める念仏 系宗派である。鎌倉の町では禅宗が北条氏など上級武士の帰依を受けていたので、庶民受けしていた時宗の集団は目障りでもあったのだろう。時宗の踊り念仏に ついては第四回でも佐々木道誉と花夜叉の会話に登場している。
 この乱闘シーンなど、鎌倉の市街で展開する場面は、足利市に建設された鎌倉・京都の大オープンセットが多用されている。武家屋敷や庶民の町並 み、さらに貧民街までさまざまなセットが登場してリアリティを与えている。もちろんよく見ると同じ場所が何度も出てくるけど(笑)。同じ場所に建設された 京都のセットに比べると小さめでゴミゴミしているのが特徴である。 
 このオープンセット、それまで大河ドラマ史上最大規模とされた 「武田信玄」のための躑躅が崎館のオープンセットを数倍も上回る1万5718平方メートル、建物の数60戸(!)という、破格のスケール。1つのドラマの ために作られたものとしては、これを上回るオープンセットはいまだに作られてないんじゃないだろうか。総製作費は1億4000万円ということだが、地元・ 足利市が観光客誘致目的で費用の大半を出資、NHKがこれをレンタルするという形になっていて、NHKとしてはかなり安上がりなオープンセットだったとも 言える。

 乱闘シーンから、山伏姿の日野俊基が初登場。 「太平記」の一角を占める朝廷・公家集団のトップを切っての登場だ。日野俊基が山伏に変装し諸国を旅して情報収集していたという伝説は古典「太平記」に 載っている話で、俊基は朝廷の儀式でわざと文章を読み間違えて「謹慎」を装い、密かに旅に出たことになっている(『増鏡』では山伏に変装して東国めぐりをしたのは日野資朝ということにされ、俊基は紀伊への温泉旅行を装ったことになっている)。 この実に便利な伝説は各種の南北朝もの小説などで、実際の登場がもう少し後になる高氏や義貞を「正中の変」に絡ませる小道具としてよく使われている。山伏 というのは旅をしていても怪しまれない存在であるため、古典「太平記」では護良親王をはじめ、隠密旅行の変装スタイルにしばしば使われている。また、のち の「南朝」に繋がる勢力にはこの山伏らが深く関わっていた事実もあるようだ。

 高氏は鎌倉を出て京都へ。その途中で高氏と重要な関わりを持つことになる架空キャラ、柳葉敏郎のましらの石、宮沢りえの藤夜叉が初登 場。もっとも藤夜叉の方はニアミスで終わり、高氏との実際の出会いは次回へ持ち越し。柳葉敏郎が文字通り「矢よりも速い」俊足を披露するシーンだが、道に 土煙をあげるなどして無理矢理見せる「特撮」状態。
 石と藤夜叉の会話から、石が藤夜叉に「妹」以上の感情を持っていることがうかがえる。皮肉にも憎むべき足利の御曹司に藤夜叉が恋をしてしまう 展開になるので、石は高氏と女性をめぐってもライバルになってしまうわけだ。この矢と足の勝負のシーンを見ていると、つくづく石というキャラクターは高氏 に負けっぱなしで気の毒という印象を持ってしまう。あのままフェードアウトせずに最終回まで登場していたらどんな風に決着をつけたのだろうか…藤夜叉の 子・直冬と絡んだ可能性が濃厚。 石が藤夜叉に言うセリフの中で「親を殺したあの武士の顔は今でも忘れん」と言うのだが、ひょっとしたら終盤に石の仇の武士が再登場する展開が予定されてい たのではないだろうか。