第二十四回「新政」(6月16日放送) 
◇脚本:仲倉重郎
◇演出:榎戸崇泰


◇アヴァン・タイトル◇

 新政府の抱える火種の解説。高氏打倒をもくろむ護良親王一派は赤松円心、北畠親房を抱え、新田義貞も加えようとしている。一方これと対立する阿野廉子一派には千種忠顕、名和長年、佐々木道誉らが名を連ねている。権力抗争の渦の中に高氏も巻き込まれていく。


◎出 演◎

真田広之(足利高氏)

沢口靖子(登子)

柳葉敏郎(ましらの石)

堤大二郎(護良親王)

高嶋政伸(足利直義)

本木雅弘(千種忠顕)

宮沢りえ(藤夜叉)

渡辺哲(赤松則村=円心) 井上倫宏(四条隆資)
あめくみちこ(義貞の正室) 大林丈史(殿の法印)
森山潤久(細川和氏) 花王おさむ(船田入道) 齋藤志郎(赤松則祐) 
田嶋基吉(大法師) 真鍋敏宏(奉行) 新藤奈々子・曽我部夫佐子(女)
伊達大輔・渡辺高志(近習) 山崎雄一郎(不知哉丸) 森田祐介(千寿王)

大地康雄(一色右馬介)

柄本明(高師直)

石原良純(脇屋義助)

赤井英和(楠木正季)

笠原志ずか(妙) 土屋久美子(棗) 青木雪絵(房)
都築宏一郎・河原崎洋央・末次眞三郎(足利家の武士)
小美濃実・伊藤秀・藤森大樹(新田家の武士)

朝永桐世(京言葉指導)
若駒スタントグループ ジャパンアクションクラブ クサマライディングクラブ 
鳳プロ 丹波道場 劇団若草 足利市のみなさん 太田市のみなさん

根津甚八(新田義貞)

片岡孝夫(後醍醐天皇)



◎スタッフ◎

○制作:一柳邦久○美術:稲葉寿一○技術:小林稔○音響効果:石川恭男○撮影:久野博○照明:大西純夫○音声:坂本好和○記録・編集:津崎昭子 



◇本編内容◇
 
 六波羅の高氏は庭で弓を引いていた。「お珍しい」と声をかける高師直に、高氏は「毎日文書とにらめっこでは体がなまる」と答える。師直が登子を都に呼んでは、と勧めるが高氏にはその気はなかった。また征夷大将軍として都に入ってくる護良親王を出迎えるか、との師直の問いに、高氏は「わしの顔を見て宮の馬が驚かれてもいかん」などと言い、自らも出迎えず、家中の者にも軽はずみなことはしないように言い渡した。

 一方。鎌倉では高氏の子・千寿王の人気が日に日に高まり、その輿が通るだけで「足利の若御料」と道行く人も騒ぎ立てる有様だった。これを新田の家臣達が面白く思うはずもなく、町の各所で足利・新田両家の武士によるケンカ沙汰が絶えなかった。この日もまた悪口を言った言わないで双方の武士のケンカが起こり、そこへ登子細川和氏の一行が通りかかってこれを制止する。「我らと新田殿はともに手を携えていかねばならぬ同志ではないか」と登子は家臣達を叱りつける。
 新田義貞が陣を置いている勝長寿院では、先ほどのケンカの報復をしようと家臣達が騒いでいた。義貞は船田入道を呼んで騒ぎを静めるように命じ、「おろかな…!」とつぶやく。そこへ弟の脇屋義助がやってきて足利家の家臣達がこちらの気持ちを逆なですると兄に訴え、「足利殿はなにゆえ嫡子・千寿王どのを参陣させたのでござりましょうな」と言い出す。「鎌倉攻めの功を掠めとらんとして…」と言う義助を、「浅ましき事を考えるでない!」と義貞は叱りつけた。義貞はあくまで高氏を信じていると言い、また自分の鎌倉攻めの功もすでに帝の奏聞に達しており、心配することはないと義助を諭す。しかし義助は細川和氏というのがなかなかのやり手であること、また武士達が次々と足利のもとに集まっていることに警戒するよう兄に言うのだった。

 里内裏では後醍醐天皇が自ら綸旨をしたため、独裁的に様々な決済を行っていた。そこへ護良親王が参内してくる。「都の風には親しんだか」との問いに「親しむ風はもはや都にはございませぬ。目に映るは右も左も田舎武士…」と答える護良。「東夷(あずまえびす)は嫌いにござります」と断言し、高氏の討伐を求める息子を、後醍醐は「高氏の力も護良の力も共に大切」と言ってなだめた。

 二条河原では魚を売る藤夜叉に、がしつこく和泉へ一緒に行こうと誘っていた。しかし藤夜叉はいっこうに聞かず、商売に熱心になるばかり。藤夜叉に頼まれて石は不知哉丸の遊び相手をすることになる。団子などを買ってやって都を歩いているうちに「駆け比べをしよう」ということになり、石と不知哉丸は一緒に走り始める。ところが石はちょうど逃げてきた強盗一味にぶつかってしまい、しかもそれを捕らえようと追ってきた足利家の武士達との乱闘に巻き込まれてしまう。ようやく騒ぎから逃れた石だったが、不知哉丸はそのまま走っていってしまったらしく、どこにも見あたらない。石は大いに焦る。

 捕らえられた強盗一味は奉行所に連行され、直義が直々に立ち会って詮議を行った。直義が一味の首領の荒法師に「寺の名を言え」「主は誰ぞ」と尋問するが、荒法師は笑うだけで答えようとしない。どうやら護良親王の関係者であるらしいと分かったが、直義はとりあえず六条の獄に入れるよう命じる。
 奉行所からの帰り道、直義は足をくじいて道端で泣いていた不知哉丸を見つけ、抱え上げて館に連れて行き、治療をしたうえ飯も食わせてやる。不知哉丸は事情を話して飯を食いながら、近くの鎧入れに足利の「二つ引き両」の紋があるのを見つけ、「あの印、知っとるぞ。大将の印じゃ」と指さす。直義が面白がって足利の紋を説明してやると、不知哉丸は「われは大将になる!」と大声で宣言。直義は大笑いしてその頭を撫でてやる。
 二条河原では藤夜叉が、いつまでたっても戻らない不知哉丸と石を心配していた。そこへ直義に連れられて不知哉丸が帰ってくる。「足利の大将だぞ、こいつ」と不知哉丸が直義を紹介すると、藤夜叉はハッと驚く。直義は「女手一つで苦労も多かろうが、しっかりわっぱを育てられよ」と藤夜叉に言い、「腹が減ったらまた来い。たっぷり食わせてやるぞ」と不知哉丸の頭を撫でて去っていった。

 直義が捕らえた土蔵破りの強盗一味は護良親王の腹心・殿の法印の部下だった。殿の法印から犯人達の身柄の引き渡しを要求され、高氏自身は処置にいささか迷いを見せていたが、直義は「市中の警備は直義に任すと仰せられた」と言って断固拒否の姿勢を示す。直義は立ち去り際に「先ほど市中で面白いわっぱを拾いましたぞ」と不知哉丸の話を高氏にする。「これが元気なわっぱでございましてな。まるで我が幼き時を思い出すが如し」と楽しげに話す弟の様子に高氏は「そなたの口からわっぱの話を聞くとは思わなんだの…こりゃそろそろ嫁をめとらねばならぬかのう」と口にする。直義が慌てて、町の子供にまで足利の人気が高まっていることを言おうとしただけだ、と言うと、「何をそうムキになっておる」と高氏。「そうでござりまするな」と兄弟は顔を見合わせて大いに笑った。

 二条河原には済まなそうな表情で石が帰ってきてきた。不知哉丸が先に帰ってきていたことを知り、「心配したんだぞ」と不知哉丸に怒る石。藤夜叉はそんな石を止めて「一緒に和泉へ行く」と突然言い出す。藤夜叉は足利直義が訪ねてきたことを話し、「ここにいること、足利の殿様に知られとうない」と石に言う。石は藤夜叉の態度の急変にやや複雑な表情を見せながらも、一緒に和泉へ行くことにする。

 足利が殿の法印の配下の者達を引き渡そうとしないことで、護良一派は怒りの酒をあおっていた。護良は北畠親房の「東夷には頭が二つある」という言葉を引いて、義貞をすみやかに上洛させて自分達の陣営に取り込み、高氏と対抗させようとの考えを示す。同席していた赤松円心は「鎌倉を制する者が武士を制する」と言って義貞がそう簡単に鎌倉を捨てて上洛するだろうかと疑問を述べるが、四条隆資は「上洛せねば恩賞にありつけぬと脅かせばよい」と言う。
 殿の法印が護良に近づき「義貞の上洛を待つばかりでは気が治まらぬ。それまでに高氏の命を…」とささやいているところへ、楠木正季が現れる。「正季どの、良き所へ参られた。例の話じゃが…」と法印が切り出すと「心得ております。日時はいつ」と正季。高氏暗殺の計画と悟った護良らは性急なと言うが、法印は正季と共に勝手に動くと言いきる。「正成は存じおるのか」との護良の問いに正季は「兄は兄。それがしと思いは別」と答え、「帝の新しき世に足利は必ず害となりましょう。害は一刻も早く除くが肝心」と言う。

 鎌倉では義貞の正室が上野から夫を訪ねてきていた。正室は義貞に戦勝の祝いを述べ、持参してきた新しい直垂(ひたたれ)を「さっそくお試しを」と自ら夫に着せながら、恩賞について「将軍ともなればさぞたいそうなもので」「では執権でござりまするな」「帝は何をしているのでございましょ、殿を放って置いて」など次々とまくしたてる。 義貞は着せられた妙に大きめの直垂に半ば呆れつつそっけない返事をする。そして護良親王から上洛するよう要請があったことを妻に打ち明けると、正室は「新田義貞ここにあり、とハッキリ申されませ」と上洛を勧め、「足利殿に後れをとってはなりませぬぞ!」と夫を叱咤するのだった。

 鎌倉陥落の後、世の空しさを覚えた一色右馬介は山伏姿に身をやつして京に入っていた。京では各地から集まった武士たちがあちこちで女を追い回している。数人の武士に追いかけられていた女を見て、右馬介は思わず棒をとって武士達を叩きのめし追い払うが、女から「ようも商いの邪魔をしてくれよったな!」と怒鳴られてしまう。

 新田義貞上洛の噂が高氏の耳にも入ってきた。師直は義貞が功を奪われはせぬかと焦っているらしい、護良親王派に与するとなるとややこしくなる、などと高氏に言うが、高氏は「離れていると思いはまっすぐに伝わらぬもの…良い折りじゃ、新田殿と会う日を楽しみに待つとしよう」と言うのだった。



◇太平記のふるさと◇
 
  群馬県新田町。義貞の住んだ反町館跡、照明寺、鳴かずの池、生品神社、大通寺の冠かけの松などを紹介。


☆解 説☆
 
 「凱旋」に続き「新政」というタイトルなのだが、政治と言うよりも激しい権力暗闘が描かれる回。主役の高氏または登子、さらには義貞もちっとも対立する気は無いのに、周囲が勝手に対立構造を築いていくという形に描いているが、これはNHK大河には結構ありがちな描き方。主役は悪意を持って動いちゃいけないんだよなぁ。

 鎌倉の町で新田と足利がことごとに反目しあい、ケンカ沙汰になる話は「私本太平記」にも出てくるが、実際両者の間に「武士の都・鎌倉」をどちらが握るかという確執はあったようだ。世間が新田をまるで問題にしていなかったとしても、新田自身はかなり高いプライドを持っていたはずで、これを機会に新田の地位を足利と逆転させようというぐらいは思っていたかも知れない。佐藤進一「南北朝の動乱」(中公文庫。南北朝概説書としては最高傑作といわれる)によるとこのとき新田側が足利側を挑発し衝突寸前までいったが、形勢不利とみた義貞が和解を申し入れ、彼自身は上洛して形勢の挽回をはかろうとしたとされている。これによって足利氏は鎌倉の主となり、その後の天下取りにいたる基盤を築いたとの見解だ。そう考えるとこのドラマでの義貞はちといい人過ぎるような…。
 この場面で、義貞の側に「船田入道」が登場している。古典「太平記」では義貞の執事として常に側にいる存在で戦場でも大いに活躍している。高氏でいえば高師直のような存在だ。

 この回でドラマの展開上重要なのは不知哉丸と直義の出会いだろう。もちろんこの時点では直義は不知哉丸が実は自分の甥であることを全く知らず、偶然に拾ってしまうだけである。のちにこの不知哉丸を直義が自分の養子として引き取り「直冬」と名乗らせることになるのだが、この出会いはそれへの伏線というわけである。全体的にこのドラマは早め、早めに伏線を張る傾向があるな。

 笠置山で正成に挨拶するシーンで出てきていた円心の息子・赤松則祐が俳優を変えてこの回から再登場している。僕はこの再登場、不覚にもまるで覚えていなかった。「護良一派」で会合する場合、四条隆資がいて殿の法印がいて赤松円心がいて…となると何となく一角が欠けてしまうので則祐を入れてみた、という印象。一緒に飲み食いしているだけでセリフもほとんどない。そういえばこの回から楠木正季役の赤井英和が「一枚」扱いに昇格している。

 「義貞の正室」なる女性がこの回だけ唐突に登場している。正室役のあめくみちこさんの演技ははとてもコミカルで、この回限りの登場にも関わらずかなり印象に残る。この奥さん、妙に田舎くさく、口うるさく、世間知らずで、しかもどうやら完全に義貞を尻に敷いているらしい(笑)。勝手にまくしたてられつつ似合わない直垂を着せられ辟易している義貞の姿が見ていて可笑しい。
 ところで役名に「義貞の正室」と出ているが、セリフ中では「やすこ」と義貞が呼びかけている。この「やすこ」さんがどういう家の人なのか全く説明がないが、「さとの父も喜んでおります」というセリフからするとどうも上野方面の人という設定になっているのではないだろうか。「鎌倉炎上」の回でも書いたが、古典「太平記」は義貞の妻の伯父に安東入道聖秀がいて彼女が救おうとしたにも関わらず聖秀が自害してしまったとするが、このドラマの雰囲気からはそんな悲劇があった様子は微塵もうかがえない。
 実のところ、この場面では史実はどうでも良かったんじゃないかと思われる。重要なのは義貞の妻が口うるさい世間知らずで義貞が内心そんな妻に辟易している様子を描くことにあったのだ。なんでそんな描写を入れる必要があったのかといえば、義貞にこのあと宮廷の美女との甘いラブロマンスが用意されているからだなのだ(笑)。つまりこの奥さんは夫と勾当内侍との浮気を正当化(?)するためだけに、いわば引き立て役として登場してくれたわけだ。これも一種の伏線と言って良いだろう。

 殿の法印の部下が直義に囚われたこと、はたまた護良一派による高氏暗殺計画については次の回の解説で。