第四回「帝、ご謀反」(1月27日放送)
◇脚本:池端俊策
◇演出:田中賢二


◇アヴァン・タイトル◇

 当時の天皇家が大覚寺統と持明院統の二派に分かれて争っていた状況の説明。後醍醐天皇の倒幕計画の動機の一端がここにあったことが解説される。



◎出 演◎

真田広之(足利高氏)

陣内孝則(佐々木道誉)

柳葉敏郎(ましらの石)

高嶋政伸(足利直義)

宮沢りえ(藤夜叉)

藤木悠(上杉憲房) 辻萬長(高師重)
河原さぶ(南重長) 北見治一(蓮房) 
中島啓江(乙夜叉) 丹治靖之(木斎) 
ストロング金剛(大男) Mr.オクレ(小男)  平吉佐千子(歌夜叉)
高品剛(窪田光貞) 高尾一生(大平惟行) 佐藤信一(猿回し)
荒川亮(花山院師賢) 新井量大(万里小路宣房) 渕野俊太(万里小路季房)
宮本充(二条道平) 押切英樹(北畠具行) 戸沢佑介(上杉家家臣)
高橋豊(洞院実泰) 安河内秀臣(洞院公賢) 猪野修(薬売り)
冴木彰至(鷹司冬教) 高松克也(近衛経忠) 松浦浩一(小串範行) 崎津隆介(三善宗信)

フランキー堺(長崎円喜)

樋口可南子(花夜叉)

大地康雄(一色右馬介)

榎木孝明(日野俊基)

片岡鶴太郎(北条高時)

西岡徳馬(長崎高資)

児玉清(金沢貞顕)

垂水悟郎(吉田定房) 井上倫宏(四条隆資)
鶴田忍(北条範貞) 田辺年秋(土岐頼兼) 下坂泰雄(山本時綱)
小俣賢司・村越保夫(奉行人)

若駒 ジャパンアクションクラブ KRC 
国際プロ 丹波道場 園田塾 劇団ひまわり 足利市のみなさん 太田市のみなさん
 
緒形拳(足利貞氏)

藤村志保(清子)

片岡孝夫(後醍醐天皇)



◎スタッフ◎

○制作:高橋康夫○美術:稲葉寿一○技術:小林稔○音響効果:藤野登○撮影:細谷善昭○照明:大西純夫○音声:岩崎延雄○記録・編集:津崎昭子



◇本編内容◇

 元亨4年(正中元年)9月19日、京の公家・武家を中心とする鎌倉幕府転覆の計画が発覚、六波羅探題は早朝に大軍を動かし、土岐頼兼邸・多治見国長邸を急襲してこれを討ち果たした。世に「正中の変」と呼ばれる事件である。
 騒動の中、高氏上杉憲房の館に帰着、気を揉んでいた右馬介はひとまず安堵する。右馬介から日野俊基がまだ捕縛されていないことを知った高氏は「日野殿には逃げてもらいたい。世の中は動くぞ」と言うのだった。

 一方、佐々木道誉は都の騒動を逃れて伊吹山の館に帰っていた。俊基に手紙を書いている花夜叉に道誉は「日野は目立ちすぎた」と漏らす。花夜叉が今度の六波羅の動きは道誉が情報を流したとしか考えられないと言うと、道誉はニヤリと笑うばかり。このやりとりを見ていたは高氏への手紙を書いている藤夜叉に、道誉のモノマネをしながら高氏と関わらぬよう忠告する。藤夜叉は「あれはたった一夜のこと」と言って諦める様子を見せつつ、高氏へのはかない恋慕も募らせていた。

 高氏が日野俊基と接触していたらしいと言う情報は六波羅探題の知るところとなり、高氏は呼び出されて詮議を受ける。知らぬ存ぜぬで通す高氏。一方鎌倉へも情報が伝わり、不安になった貞氏は幕府に出向いて円喜に会う。円喜の穏やかな態度にひとまず安心した貞氏は友人の金沢貞顕とも話し合う。貞顕は今回の反乱計画の中心は天皇本人にほかならないことを漏らし、「帝のご謀反じゃ」と貞氏に言う。

 朝廷では今回の事件を釈明するための勅書が作成されていた。ひとまず出来たその内容に後醍醐天皇「詫び状ではないか、かかる文を関東へ送るのか」と激怒しその文を破り捨てる。居並ぶ若い公家達も口々に幕府を難じるが、ひとり天皇の乳父である吉田定房は黙り込んでいた。天皇は公家達を立ち去らせ、定房だけを残して相談する。定房は将来のために天皇に自重するよう諫め、天皇は「朕には六波羅を抑える兵すらない…時いたらずか」と嘆息し、幕府に詫び状を出すこと、日野俊基らを引き渡すことをやむなく決意する。
 その日野俊基は京の貧民街の小屋に身をひそめていた。花夜叉に言われて俊基を逃がしに来た石に、俊基は自ら犠牲になって幕府に捕らえられようと言い出す。北条を倒す仕事はのちの者がやってくれるだろうと。「北条を倒せば、良い世の中になる。良い世の中とは武士に家を焼かれず安心して田畑を耕したり、糸を紡いだりできる世の中のことだ」との俊基の言葉に感動した石は「何か出来ることはないか」と俊基に申し出る。俊基は「これを河内の楠木正成どのに渡して欲しい。ただ渡すだけでよい。それだけでお分かりになる」と一振りの懐刀を石に託す。そして小屋を出るとただちに六波羅の忍びたちに取り囲まれる。

 六波羅での詮議も終わり、高氏はシラを切り通して放免された。去り際に日野俊基が捕縛されたことが高氏に告げられる。六波羅を出た高氏は、そのまま右馬介とともに京を離れ鎌倉への帰途につく。
 10月に間もなく鎌倉という藤沢に至った。鎌倉を前にして高氏は元の日常にとても戻れないと右馬介に嘆く。あまりにも様々な体験をした高氏にはとても耐えられないことだったのだ。「わしは都を見てしもうたぞ。いかが致せば良いのじゃ。右馬介、教えてくれ!」と馬上で叫ぶ高氏。そこへ前方から武装した武者の一団がやってきて高氏らを取り囲む。高氏を詮議のため侍所へ連行するというのだ。驚く高氏主従。
 一報は足利邸へももたらされ、安心していた貞氏は驚く。「北条は初めからそのつもりだったんです…我々は謀られたんです!」との直義の言葉に、貞氏は「しまった!」とつぶやく。
 朝廷のことも含めて面倒に事を荒立てたくないと考える執権・高時。しかし円喜は高時に「幕府が150年続いてきた理由は何とおぼしめす。大きな敵とは手を取り合い、あるいは大きくなる前に早めにつぶしてきたからでござる」と言ってにんまりと笑う。

 拘束された高氏は牢に押し込められた。篝火をたいた周辺のものものしい警戒ぶりが事態の大きさを示していた。



◇太平記のふるさと◇

 佐々木道誉の拠点だった滋賀県・伊吹山麓。清滝寺にある道誉の墓、道誉ゆかりの道誉桜、伝統的なもぐさ屋などの紹介。



☆解 説☆

 長い南北朝動乱の端緒となる事件「正中の変」の顛末を中心に描く回である。冒頭の土岐頼兼邸襲撃シーンは古典「太平記」の記述を参考にしており、頼兼が髪を整えているところへ武士達が乱入するところまで忠実に再現されている。 このドラマでは「土岐頼兼」とされたが、古典「太平記」では「頼貞」となっていて当時の記録でも若干混乱があるようだ。土岐邸を襲撃した山本時綱、多治見邸を襲撃した小串範行なんてここ以外では登場するわけのない武将二人が、出演リスト上のみとは言えちゃんと役名で出ているのはマニアには嬉しいところ(笑)。古典「太平記」によれば多治見邸では大合戦が繰り広げられたのだが、さすがに映像化はしておらず報告のみで済まされている。
 古典「太平記」、吉川英治の原作ともにこの陰謀発覚の原因を、一味に加わっていた土岐頼員(よりかず)(「私本」は「頼春」とし、その後長く登場させている)がその妻に陰謀を漏らしてしまったことに求めている。ドラマではその辺は描かれず、むしろ佐々木道誉が一枚噛んでいるように見せていた。その疑惑を口にする花夜叉は、ここで初めて単なる旅芸人ではなく一種の女スパイとしての性格を垣間見せている。

 朝廷シーンでは後醍醐側近のお公家サンたちが勢揃い。おかげで出演リストもその手の名前がズラリと並んでいるが、ほとんど没個性で誰が誰やら画面上ではほとんど見分けがつかない。その中で一人目立つ老臣・吉田定房。古典「太平記」でも正中の変後、鎌倉に対する詫び状を巡って後醍醐と定房が対話する場面がある。この場面でも表れているが、吉田定房は天皇の親代わりという立場ではあるものの、後醍醐の危なっかしいやり方に不安を覚えていた。これが後の「元弘の変」の際に幕府に陰謀を密告する展開に繋がるわけだ。

 高氏は正中の変の騒動に巻き込まれる形で六波羅で、そして鎌倉で厳しい詮議を受ける。この展開は当然ながら全くのフィクション。「私本太平記」でも類似する展開があるが、勝手に京都に出かけたこと、淀で変装した俊基と接触したこと、その途中で高時に献上される犬を蹴飛ばしたこと(これが原因で第一回で出てきた闘犬場の辱めを受けることになる)などを理由に足利庄に二年間も幽閉され、その後足利・新田両氏の紛争の件と合わせて取り調べを受けるという展開である。それも正中の変以前のこととなっていた。ドラマではこれを「正中の変」という大事件に絡めることで登場人物紹介と足利家危機という緊迫した展開に持っていくという、一石二鳥の効果をねらっていた。おかげで最初の五回はやたらに密度が濃い。

 古典「太平記」がそうだったからだが、鎌倉幕府末期の悪役はたいてい「暗君」北条高時が一手に引き受けている観がある。しかしこのドラマでは高時よりも長崎円喜・高資親子が権力を握っていて、ワルの役どころを一手に引き受けている形になっている。むしろ高時は揉め事を嫌う平和主義者で被害者であるようにすら見える。この回から次回に続く「足利潰し」の展開でそのへんが明確にされてゆく。