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☆ 漫画にみる怪盗ルパン

那須辰造・保永貞夫訳/横山まさみち挿絵
「怪盗紳士ルパン」
「決闘!ルパン対ホームズ」
「奇岩城」

(あかね書房「推理・探偵傑作シリーズ」、1974年)




 これは漫画作品ではなく、多少分かりやすくは変えますがそこそこ原文に忠実な訳をこころがけた児童向けミステリ小説シリーズです。小学中級〜上級を主な 対象としており、全25巻でポー、ドイル、アイリッシュ、クリスティー、ルルー、カー、チェスタトン、クイーンなど名だたる欧米推理作家たちの名作を納め ています。スティーブンスンの「ジキル博士とハイド氏」まで入っているのはちょっと意外ですが。
 このシリーズの大きな特徴がご覧の通り、表紙から挿絵まで、子どもに親しみやすい「漫画」が使われていることです。巻頭にこの作品の「見せ場」 が6ページほどの漫画で再現されており、本文中の挿絵もコマ割と吹き出しがついた漫画表現になっていました。僕自身も小学校時代に読んだ覚えがあります が、南洋一郎のポプラ社版以上にとっつきやすい本だったのは確かです。

 シリーズすべての挿絵漫画を担当したのが横山まさみちと横山プロダク ションでした。故・横山まさみち氏といいますと「オットセイ」を思い浮かべちゃう人が多いと思うのですが(笑)、児童向けから大人向けま で、実に幅広い作品を描いていた人でもあります。たとえば僕の趣味の一つに日本の南北朝時代研究があるのですけど、この方面でも横山氏は漫画版「太平記」 を執筆しておられ、その縁でゲーム「太平記」のキャラデザインまで務めているという妙なご縁があったりします。その絵のスタイルは「漫画」と「劇画」の境 界線上といったところで、それが作風の幅広さの理由だったと思われます。

 さてこのあかね書房「推理・探偵傑作シリーズ」の うちルパンシリーズは3冊あり、第10巻が『奇岩城』、 第13巻が『怪盗紳士ルパン』、第17巻が『決闘!ルパン対ホームズ』でした。ちなみにライバルのホーム ズの方はこのシリーズのうち4冊を占めており、ルパンとしてはちょっと遅れをとってしまいました(笑)。

  このうち第10巻『奇岩城』は僕がほとんど最初に読んだ といっていい「ルパン」本の一つなんですね。巻頭の 「見せ場」では、新聞記者に変装したボートルレがつけひげをとるシーン、マシバン氏をルパンと見破ったボートルレが銃を発射するシーンがそれぞれ2ページ 見開きの漫画で表現されていたのをよく覚えています。2つ目の場面の漫画では、左図のとおりマシバン老人が一瞬にしてあの紳士服を着た「怪盗ルパン」のユニフォームになっ てしまうと いうかなりムチャな表現がありました…(^^;)。

 この本ではルパンが潜水艦で逃げるところで終わってラストの悲劇はなかったように記憶して たんですが、ホームズが変装して出てくる場面も記憶にあり、確信がもてないでいました。このたび入手して確認したところ、やはり記憶のとおりでした。同じ あかね書房から出た「少年少女世界名作推理全集」の那須辰造氏の訳文がベースになっているためと思われます。
 実際、児童 向けにはきつい悲劇である上にホームズがひどい扱いになってるこの部分は無い方がいいのかも…と思うこともあるんですね。あと、同シリーズにホームズも収 録されているので配慮したということもあるかもしれません。

  第13巻『怪盗紳士ルパン』はあの第一短編集を原作としていますが、収録作は「つかまったルパン」「ルパンの予告脱獄」「にせルパンを追え」「うろつく死 神」の4話です。意外にも「獄中のルパン」はカットされてるんですね。ほんらい「ルパンの告白」収録作の「うろつく死神」が入っているのは 現在創元推理文庫で読めるものと同じ底本を使ったためと思われますが、内容的に子ども向けサスペンスとしてちょうどいい(ついでに言えばルパンが一切悪事をしない)からという判断で 選ばれたとも思えます。

 挿絵を紹介していくときりがないので、巻頭の「見せ場」紹介ページにしぼって紹介しましょう。右図、すぐお分かりですね。「ルパンの予告脱獄」のあの名場面。前回の好美のぼる氏の作品 でも同じ場面を紹介してますので比較してみてください。というか、比較の必要もなく、そのまんまおんなじですね。ただこちらのほうが「ルパンに微妙に似てるけどしょぼくれた別人に見える」という 原作の描写をうまく再現していると思います。そしてその正体が明かされると、急に生き生きした顔になる、という描写も見事です。そこにいわゆる「スタン ダードなルパン・スタイル」がかぶさるあたりは漫画的表現というものですが…

 「これが!怪盗紳士ルパン(2)」も「ルパンの予告脱獄」の場面が2ページ見開き漫画になっており、ルパンが護送車を抜け 出してパリ市内を散策、カフェで支配人を呼んで「財布を忘れてきた。ぼくはラ・サンテ刑務所に収監中のルパンだ」と名乗る場面が描かれています。「粋で カッコいいルパン」の代表シーンということですね。

 そして「これが!怪盗紳士ルパン(3)」は「うろつく死神」の 一場面(左図)。ジャーヌが毒殺されかかるのをルパンが発見するあのシーンですね。ルパンが「予告脱獄」のときより老けた感じがありますが、「変装」で毎 回違う顔で登場します、ということなのかも。ジャーヌがまさに「絵に描いたような美少女」になってますが、間もなく21歳にしちゃ幼すぎる気もします (笑)。ともかく、この場面は「ルパンが美少女を助ける名探偵」として活躍するキャラでもあることを説明するために「見せ場」に選ばれたようです。

 漫画シーンがないので画面での紹介は省きますが、収録作の一つ「に せルパンを追え!」とは『ふしぎな旅行者』のこと。「にせルパン」って、本物のルパンが勝手に相手を「ルパン」に仕立てる話じゃねぇか、と ツッコミを入れたくなる題名ではありますが、内容自体はほぼ全訳といっていいほど原文に忠実です。南洋一郎版では改変されている、ルパンがしっかり「商売 は商売」と盗みを働くところやエコー・ド・フランス紙で宣伝につとめるところもちゃんと本文中にあります(その絵がないのがちょっと残念かな…)

 第17巻『決闘!ルパン対ホームズ』はもちろん 『金髪の美女』が原作です。これも本文じたいはほぼ全訳と言っていい内容です。名場面ではしっかり漫画挿絵がついており、巻頭にはホームズがルパンを(一時的ではありますが)逮捕するあの場面が「見せ場」として 漫画化されています。

巻頭の「見せ場」紹介部分。
ルパンの隠れ家にホームズが突然姿を現し、ルパンがビックリ、という場面ですね。奥にいるのがルパンで、手前にいるのがホームズですが…う〜ん、説明され ないとどっちがどっちかワカランです(汗)。
このあとホームズが銃を上に向けて撃ち、ルパンがホームズのみぞおちにパンチを入れ、暖炉が動き出し、ガニマールが駆け込んできて、「どうなる?ルパ ン!」というところで、後は本文を読んでね、という形になってます。


 右図は本文における漫画挿絵。1コマのイラストだけの場合がほとんどなのですが、このように面白い場面ではコマ割&吹き出しのついた漫画で表現されま す。この場面、もちろんお分かりですね?「金髪の美女」をとらえて意気あがるホームズの乗りこんだタクシーの運転手が実は…という名場面。この顔のホーム ズはもちろん変装した状態です。

 この調子でラストのルパンの脱走、ホームズの前にルパンが赤帽に化けて出てくる場面などが漫画で再現されるかと思ったのですが、これらはあっさりイラス トのみでした。
 こうなるとこのシリーズのホームズ作品で、横山プロの手によるホームズがどんな風に描かれていたのか興味のあるところなんですが、現時点では未確認で す。



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