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「ル パンの大財産」(長 編)
LES MILLIARDS D'ARSÈNE LUPIN
初出:1939年1〜3月「ロート」紙連載 1941年11月単行本化
他の邦題:「ルパン最後の事件」(偕成社) 
紹介訳題として「アルセーヌ・ルパンの数十億」「アルセーヌ・ルパンの巨万の富」


◎内容◎

 アメリカの犯罪新聞「アロー・ポリス」の社長マッカラミーと顧問弁護士フィールズが殺害される。同新聞の女性記者パトリシアは事件を調べるうちに浮かび上がった 「ポール・シ ナー(Paule Sinner)」という言葉の謎を追ってフランス、そしてイギリスに渡るが、行く先でまた殺人事件が起こる。
 「ポール・シナー」とは「アルセーヌ・ルパン」のアナグラムであり、事件の背後にはアルセーヌ=ルパンの蓄えた数十億フランもの 莫大な財産を狙うマフィア一味の暗躍があった。50歳が間近に迫り引退も考えるルパンだったが、自らの財産を守るために果敢にマフィア一味に戦いを挑む。



◎登場人物◎(アイウエオ順)

☆ アマルティ=ディ=アマルト伯爵
レパント人風の美青年貴族。

☆ アルセーヌ=ルパン
怪盗紳士。50歳間近で落ち着いた暮らしを求め始めている。

☆ アルバート
マフィアノの子分。

☆ アンゲルマン
「アンゲルマン銀行」を経営する銀行家富豪。男爵。

☆ アンジェリク
健康的な美しさを持つ農家の娘。オラース=ベルモンの館の女中になる。

☆ エティエンヌ
ルパンの部下。

☆エドガー=ベッカー

イギリス人。ポーツマスの宿で殺害される。

☆ オラース=ベルモン
南アフリカで財を築いた富豪。オートゥイユ・ロンシャン公爵を称する。

☆ ガニマール
パリ警視庁主任警部。ルパンの長年の宿敵。

☆ 「議長」
マフィア一味の会議議長。まだ青白い顔の若者でロベスピエール風。

☆ サイダ
移動動物園から逃げ出したメスのトラ。

☆ ジェームズ=マッカラミー
アメリカの犯罪新聞「アロー・ポリス」の創始者にして社長。

☆ テオドール=ベシュ
パリ警視庁刑事。かつてルパンと深い因縁があった。

☆ 「眠れる森の美女」
コルネーユの城館で一世紀も眠りについていると噂される貴婦人。

☆ パトリシア=ジョンストン
「アロー・ポリス」紙の女性記者兼秘書。ヘンリー=マッカラミーとの間に子供がいる。

☆ババスールおばさん
パトリシアが子供をあずけた女性。

☆ ビクトワール
ルパンの乳母。

☆ フレデリック=フィールズ
ジェームズ=マッカラミーの友人で顧問弁護士。

☆ ヘンリー=マッカラミー
ジェームズ=マッカラミーの息子。遊び人でパトリシアとの間に子供を作っている。

☆ マフィアノ
マッカラミーの秘書をつとめ、<ザ・ラフ>の異名を持つマフィア一味。

☆ マリー=テレーズ
アンゲルマンの美貌の妻。

☆ ロドルフ
パトリシアとヘンリー=マッカラミーの間に生まれた子供。


◎盗品一覧◎

◇アンゲルマン銀行の金 庫の中身
大半はルパン自身の資産とみられるが、一部アンゲルマン銀行の金も含まれていた模様。

◇現金1500ドル
「アロー・ポリス」編集部の金庫からちょうだいしたもの。船の予約をするために一時拝借、あとで返すと言っているが守ったかどうかは定かではない。


<ネ タばれ雑談>

☆ルブラン最後の発表作品

 この小説はルパン・シリーズとしては最後に発表されたものである。ほぼ毎年一冊のペースで新作を発表していたモーリス=ルブランだが、ルパン・シリーズを事実上し めくくった『カリオストロの復讐』の 発表から本作の発表までおよそ四年の間を空けている。ルブランもすでに70歳を過ぎ、作家としてはさすがにそのまま現役続行というわけにもいかなくなった らしい。それでも創作活動自体は続けており、1930年代後半に執筆、改変、推敲を進めていた小説がいくつかある。そのうち新聞紙上に発表され、単行本刊 行までこぎつけたのがこの『ルパンの大 財産』である。

 晩年のルブランの創作活動は一人の女性に支えられていた。息子ク ロード=ルブランの妻、ドゥーニーズで ある。彼女がどのようにルブランの創作活動を手伝ったのかは分からないが、単に校正やタイプ清書をするだけにはとどまらないものではなかったかと推測され る。なぜなら彼女の助けを受けて仕上がった、この『ルパンの大財産』は確かにルパンも登場するし、ルパン・シリーズ的な要素は多々見られるものの、それま でのルブラン作品らしからぬ物語作りが目につき、そもそも小説としての完成度が非常に低い。ルブラン自身の老いと衰えによるところも大きいのだろうが、そ れにしてもこの内容は、他人の手が大きく入ったものと考える方が自然という気がする。読んでいて「ルパンファンのアマチュアが書いたパスティシュ」の ような印象を受けてしまうのだ。この点、訳者であると同時に勝手な創作・改作も行った保 篠龍緒の書いたものと似た「におい」を感じてしまう(なお、保篠自身は戦争の混乱もあってかこの「大財産」 の存在に全く気付いていない)

 一応きちんと発表され、一度は単行本にもなった本作だが、後年クロード=ルブランはこの作品を「父の思い出に傷をつけるもの」と して嫌い、その再刊を絶対に認めなかった。内容の出来不出来だけでそこまでするとは考えにくく、どうも妻のドゥーニーズが創作に関与していると思しいこと がかくも感情的な反応をした原因だったように思える(あ くまで勝手な推測だが)
 フランスではそういった事情で『大財産』は現在に至るまで再刊されたことがない。唯一、1986年から刊行されたブカン版「ルパン全集」(「完全版」を期し、ルブラン作品を全網羅しただけでな くボワロ=ナルスジャック版まで収録した凄いもの)のみがルブラン遺族を説得して『大財産』収録を実現させている。このためル パンの母国フランスでも本作を読んでいる人は決して多くはない。

  さらに困ったことに、この小説は1941年にアシェット社の「エニグム(謎)叢書」の一冊として単行本化されたが、編集者がミスをしてしまったらしく新聞 連載時の2月3日掲載分が抜けたまま出版されてしまった。ブカン版全集および日本の偕成社「アルセーヌ=ルパン全集」の最終巻『ルパン最後の事件』(榊原晃三訳)もそのままの 翻訳となっている。
 抜けてしまったのは第9章「金庫室」をおよそ4分割してそのうち2番目にあたる部分で、『ルパン最後の事件』訳文ではちょうど214ページと215ペー ジの間、「…ラテンの文化の精神を擁護 していたのだった」「わ たしはこのような開会にはっきりと反対する!」の 二つのセリフの間にはさまっている。抜けた部分はネット上でも公開されているのでそれで確認してみると、この部分ではマフィアグループの「議長」がマッカ ラミーやフィールズがどのように一味に関わっているのか、そしてアルセーヌ=ルパンの大財産を狙う計画が説明され、認識票の番号を「No.1」から順番に 読み上げて出席者の確認をしてゆく描写がある。確かになくても話は通っているので単行本や全集の編集者も翻訳者もとくに疑問を感じなかったのだろうが、こ の描写があるとマフィアがどういう動機でルパンの財産を狙っているのかがより分かるし、ナンバーが読み上げられてゆくサスペンスも加わる。
 
  この部分も含めた完全な『ルパンの大財産』を最初に刊行したのは、おとなり韓国である。同国でルブランの著作権が切れた2002年から刊行されたルパン全集では 最終巻にこの『大財産』を収録したが、フランスのルパン研究家の協力を得て欠落部分を補充、あとがきで「世界初の完全版」を韓国で出したことを高らかに宣 言しているという(ついでに戯曲『アル セーヌ・ルパンのある冒険』も収録)

 
☆ルブラン最期の日々

 当初この小説は「プチ・パリジャン」紙に連載される予定で執筆されたというが、結局「ロート」紙上に連載された。連載された1939年1月から3月と言 えば、前年の「ミュンヘン会談」を受けてヒトラー率 いるナチス・ドイツがチェコスロバキアへの侵攻を進め、とうとう全土を占領してしまった時期にあたる。そしてヒトラーはさらにポーランド征服への野心を表 し、ソ連と不可侵条約を結んだ上で9月1日に大挙ポーランドへと侵攻した。これに対して英仏両国がドイツに宣戦布告、ここに「第二次世界大戦」が勃発す る。ヨーロッパは再び戦雲に覆われたのだ。

  翌1940年5月にはドイツ軍がフランスへ電撃的に侵攻、6月14日にパリも占領された。こうした情勢のなかルブランは毎年夏を過ごしていたエトルタにも 1938年を最後に行かなくなり、ドイツ占領地域を避けて流浪を余儀なくされる。とくにルブランの妻はユダヤ人であったため、ナチスの占領地域にとどまる ことは絶対にできなかったのだ(実際に ナチス占領地域では多くのユダヤ人が迫害され、約6万人が強制収容所送りになり帰って来なかった)。最終的に息子のクロードが 所属する部隊のいるフランス南部、スペイン国境に近いペ ルピニャンに移ってその地のホテルに住まうようになる。
 ルパンシリーズ、とくに第1次大戦前後に書かれたものにはドイツに対する激しい敵意が現れているものがある。とくに『オルヌカン城の謎(砲弾の破片)』に おいてそれが著しく、ドイツ占領下のフランスでは発禁処分を受けたと伝えられる。

 1941年10月27日に妹で女優のジョルジオット=ルブランが 世を去った。そしてモーリス=ルブランも風邪をこじらせ、まるで妹を追うように11月6日にペルピニャンの地でこの世を去った。76歳だった。
 ルブランが死の数週間前に「私の周り にアルセーヌ・ルパンが夜な夜な徘徊して困っている」と 警察署に届け出て、警察署では粋な計らいとしてルブランの周囲に警官を配置し、ルパン生みの親の最期の日々の安穏を守った、との逸話がしばしば紹介されて いる。ただこの話、出典がよく分からず、しかも警官を配置したのが「エトルタの警察署長」となっていることがあり、ペルピニャンで死去した事実とかみ合わ ない。少々出来過ぎた話という気もするので「ルパン伝説」の一つとも考えられるのだが、NHKで製作したドキュメンタリー「ルパンの食われた男・モーリス・ルブラン」で、出演したルブラン研究者が「晩年のルブランがルパンの侵入を恐れてベッドにナイフやピストルをしのばせ、周囲からまともじゃないと中傷されていた」という話をしていたので、そういうたぐいの事実はあったのだろう。もっとも本当にアルセーヌ=ルパンが実在していて、伝記作家で友人のルブラ ンの周囲に夜な夜な出没していた、なんて考えるのも楽しいではないか。

 ルブランが亡くなると、その訃報記事は小さいものではあったが「アルセーヌ・ルパンの父逝く」と題されていたという。この月に動乱のために遅れていた 『ルパンの大財産』の単行本がようやく出版されている。
  フランスがナチス・ドイツから解放されるのは1944年後半のこと。残念ながらルブランはその日を見ることなく死去しており、晩年はいろいろと先行きの不安を抱え た日々だったと思われる。もしアルセーヌ=ルパンが実在したなら、それこそ老骨に鞭打ってレジスタンス運動に加わっていそうなものだが…前にも書 いたがヒッチコックの映画『泥棒成金』が本当にそんな 設定だし、未読ながらアンソニー=バウチャー(Anthony Boucher、1911-1968)がまだ戦中の1944年に発表したパスティシュ「Arsene Lupin vs Colonel Linnaus」はドイツ軍占領下のパリを舞台にルパンがドイツ軍人相手に活躍する話らしい。


☆「最初の事件」との不思議なつながり

 この『ルパンの大財産』は日本でも偕成社の全集版しか翻訳が出ていないので、存在自体を知らなかった、という人も少なくないと思う。しかも邦題が「ルパ ン最後の事件」となっているためポプラ社の南洋一郎版『ル パン最後の冒険』(カリオストロの復讐)と同内容と思っている人も結構いるんじゃないかと。

 この物語が『特捜班ビクトール』そして『カリオストロの復讐』より後の話であることは、ルパン自身が「もう冒険はたくさんだ!ビクトールとの冒険やカリオストロとの対決が最後ということになるだろうな」と語っていることから明らかだ。ビクトワールがルパンのことを「五十まぢかな年」と言っているのでまだ五十歳の誕生日は過ぎていない。一応1924年の出来事と推測され、作中でルパンも引退をほのめかしている(前作でも「これが最後」と言ってはいた)ので、これこそが「ルパン最後の物語」と考えられたので我が国唯一の翻訳である偕成社版は『ルパン最後の事件』とタイトルを打ったのだ。
 ただし、その後フランスの研究者の手によりルブランの遺稿の中から『ルパン最後の恋(Le Dernier Amour d'Arsène Lupin )』と題する、未発表ながら一応完成したタイプ原稿が見つかり、こちらこそが本当の「最後」の内容であることが明らかになっている。このためここではあくまで「大財産」の題名で扱うことにしている。
 ともあれ、読んでない人は多そうな本作、なるべくネタばれなし で書こうとは思うのだが…

 それでも先に言ってしまうと、この作品を未読の方は間違っても期待をしてはいけない。すでに上述したように、本作はルパンシリーズの中でもとりわけ出来 の悪い作品と言わざるをえない出来で、衰えたりとはいえルブランはまともな神経で書いたのかしら、とまで思ってしまう部分があるほど。正直なところ『カリ オストロの復讐』で終わっていれば綺麗にまとまってよかったのに…とまで思ってしまう。一言で言って「珍作」、あるいは「バカミス」であろう。

 思いつき自体は悪くないのだ。これまで長い泥棒人生で財産をためにためたルパンだったが、今度は自分自身の財産が犯罪組織のターゲットにされてしまう。 いつもと逆の立場に置かれ、自分の財産を守るための戦いをすることになるのだが、そこはルパン、守りに入るのではなく積極果敢に攻めてゆく。泥棒人生の晩 年の話としてはうまくやればそれなりに盛り上げる設定ではある。
 しかし残念ながら物語の展開はまさに行き当たりバッタリ。この僕も中学以来何度か本作を読んだはずだがストーリーが頭に入ってくれない。今回この文を書 くために改めて詳細に読んだが、何がどうしてこうなるのか、というストーリー展開の必然性が感じられないのだ。個々に思いついた場面場面を適当にくっつけ てみて話を作ったような、そんな印象を受けてしまう。敵もルパンの大財産を狙うにしてはちっとも強くない連中だし。
 きわめつけは中盤から終盤にかけて大活躍してしまうのが、こともあろうに「トラ」と いう点。移動動物園から逃げて来てなついてしまうというのもかなりヘンだが、クライマックスでルパンが絶体絶命のピンチに陥ると、このトラが乱入してルパ ンを背に乗せ(!)救出してしまうのには呆れかえる(アニメにしたら楽しそうではあるが)。新聞連載時も困惑した人が多かったんじゃないかなぁ。一度だけ出た『大財産』の単行本でも表紙にトラが描かれていた(右図)

 それでも読む価値がある点を探すとすれば、作者にそのつもりがあったかどうかはともかく、不思議とシリーズ最初の作品『ルパン逮捕される』に似た ところが見出せるということがある。
 この物語のヒロインはアメリカの女性パトリシア=ジョンストンで、 これは『逮捕』に出てきたネリー=アンダダウンと 共通する。米仏ハーフであるらしいところも共通だ。もっともパトリシアは果敢に活動する女性記者、しかも私生児の子供を育てるシングルマザーでもあり、こ れはかなり時代の変遷を感じさせる。深読みだが、これもルブランの息子の嫁さんが関わっているからではなかろうか。
 この物語でルパンが使う偽名はオラース=ベルモン。 『逮捕』ではないがその続きとなっていてネリーと再会する『お そかりしシャーロック・ホームズ』でルパンが使っていた偽名と同じだ。この偽名はルブランもお気に入りだったのか、『結婚指輪』『緑の目の令嬢』で も出てくる。ただし正体がバレて以後は使わなくしていたはずなのだが…まぁ本作での「オラース=ベルモン」は、南アフリカのトランスバールで成功したれっ きとした貴族、「オートゥイユ・ロンシャン公爵」だから同姓同名の別人と言い張ることもできるのかも。

 さらにあの宿敵、ガニマール警部が かなり久々に再登場、『逮捕』のとき同様に、大西洋を渡るルパンを先回りしてアメリカで待ち受けている。今回はてんでダメな結末になってしまうのだけど、 再登場に大喜びしたシリーズ読者も多いはずだ。もっとも出番らしい出番はなく、伝聞で登場するのみだが…。コケにされ度では過去に類をみないほどになって るんだけどね。
 ガニマールの再登場は作品順では『白 鳥の首のエディス』以来、物語の年代順では『奇岩城』以来であり、物語 中の時間でも実に16年ぶりの登場ということになる。シリーズ初期の段階で「老ガニマール」と呼ばれてるぐらいなのでとっくに定年退職していたとしか思え ないのだが、ファンサービスのために無理やり再登場してしまった、という感じがする(これにも息子の嫁さんの意図を感じなくもない)
 新聞記事のなかで「四半世紀以上まえに初めて相まみえて以来の宿敵」という記述があるが、『ルパン逮捕される』が1899年と推定されるから、この物語の1924年だとちょうど四半世紀、25年ということにことになり、つじつまは合っている(原文だと「以上」にあたる部分が見当たらない)

 『逮捕』とは無関係だが、ガニマールと並ぶシリーズのレギュラー、乳母ビ クトワールと刑事ベシュま でが再登場してくれる。
 ビクトワールは作品順では『謎の家』以 来、物語年代順では『813』以 来の再登場だ。もう50歳になろうというルパンを相変わらず子供のようにいとおしんでいるし、今回は自らも危険な目に会う大活躍(?)。ルパンにとって唯 一の肉親的存在である彼女とのやりとりはここでも健在で、これまでしばらくまともに登場してくれなかった分を埋め合わせてくれるほど出番は多い。
 ルパンに「おまえの年齢を言ってやろ うか」と言われるように常識的に考えれば70歳は過ぎているはず。しかし「いいよっている街角の豚肉屋」なる者が実在するとす ると、見た目には結構若づくりなのかもしれない。ルパン譚によって彼女も有名になってしまっているようで、アメリカ暮らしのパトリシアも「忠実なビクト ワールね」と、その名前を良く知ってる様子。

 ベシュは『バール・イ・ヴァ荘』以 来の再登場。あれは『813』より前のことだから、ベシュはその後ルパンがよりビッグネームになっていくのを横目に見ていたことになる。こちらもかれこれ 13年ぶりぐらいの登場になるわけだが、ますます情けない活躍(?)ぶり。ま、相手がトラじゃあ…
 『バーネット探偵社』の 最後でルパンに巡査部長(ブリガディ エ)に昇進させてもらい、『謎の家』『バール・イ・ヴァ荘』でもそのままだったはずだが、本作ではなぜか平の刑事(アンスペクチュール)に降 格させられている。それでルパンがまた巡査部長に昇格させてやることになるのだが、「お前を刑事にしてやったのだ誰だっけな」「あなたで す。それには私も感謝しています」というやりとりもあるので、単に作者の記憶違いで一階級ずつ話がずれているのではないかとい う気もする。
 もともとベシュはガニマールの直弟子という設定で、ガニマールが年を取って出て来れないのでその代わりに登場したキャラだったと思われる。本作では師匠 のガニマールも登場してしまい、ルパンのセリフの中で「ガ ニマールがベシュを黙らせてくれる」と言っているように師弟関係というか上司と部下の関係であることが改めて確認できる。

 彼らの再登場も多分にファンサービスの意図を感じるのだが、結果的にルパンの「最後の花道」をレギュラー陣総登場で見送ってくれている感もある。その意 味では「ルパン最後の事件」としてもふさわしいとは思えるのだ。

「その 2」へ 続く

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