完全試合

佐野 洋

角川文庫 1974. 4.10 初版発行 \220


 野球に興味を持った頃に初めて手にした野球小説がこの本です。
 懐かしいですね。押し入れに片付けてあったのを、掘り出して改めて読んでみました。

 架空のプロ野球リーグが舞台の推理小説なんですが、いかにも日本的な人間関係が描かれていて、現実のプロ野球とオーバーラップする部分も多い感じがしました。ちょっと無理があるなぁと思う設定もなきにしもあらず・・・なのですが、そこはお話を面白くするためと理解しながら、読みました。
 ユニヴァーサル・リーグの優勝をかけた2チーム、天馬ペガサスと明星プレヤデスによる最後の3連戦を前にして、プレヤデスのエース有川投手の娘が誘拐されます。犯人の要求は、「3連戦で1試合でも有川が投げれば、子供を殺す」というもの。
 プレヤデスにとっては、有川は先発、リリーフに大活躍していた投手です。この人が投げないということは、ペガサスの優勝の可能性が極めて高くなってしまうという状況で、果たして犯人の目的は何か?と同時に、有川がこの天王山に投げるのかどうか?という興味も持って読み進めました。
 事件が展開するにつれて、いろいろな人間関係が明かされていきます。
 有川個人の人間関係だけでなく、プレヤデス監督がどうしても優勝しなければいけない事情、プレヤデス内での派閥の問題、以前プレヤデスをクビにされた選手の親、ペガサスの本拠地球場の経営権を持った人物・・・。
 結局、真犯人はストーリー上は捕まりません。ある記者がその犯人を見つけ出しますが、犯人の事情を考慮し記事にすることはなく、事件の真相は闇の中(のはず)です。

 犯人の動機も、よくよく考えれば理解し難いのですが、それ以上におやっ?と思ったのは、この誘拐事件、マスコミを通じて全ての人が知っているんですよね。試合を観にきた観客も、果たしてこの状況下で有川が登板するか否かを注目している。もし有川が投げたら、果たしてどうなってしまうのか・・・ということが、日本中の注目の的であったということ。
 今なら、誘拐報道協定でもあって、こういうことはないんでしょうけどねぇ。ま、犯人の要求が通常とは違うということはあるでしょうし、注目を浴びている有名人ということもあるんでしょうが、それならなおさら報道できないと思うんだけど。当然、監督辺りには事情は話されるとは思いますけどね。
 ただ、この設定により、話が盛り上がったのは確か。有川の子供は3試合目の途中、すでにペガサスの優勝が確実になった時点で帰ってきますが、そのニュースが球場内に流れた場面は、ちょっと感動的でした。(笑)

 さて、一応、紹介させていただきましたが、この本、果たして今も書店に並んでいるのでしょうか?気になって、本屋さんでも眺めてみているのですが、全く見かけません。私が買ったのも、20年ほど前ですからねぇ。ひょっとしたら、古本屋さんを探さないとないかもしれません・・・。


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