10番打者 小説・プロ野球(1)

佐野 洋

角川文庫 1982. 1.30 初版発行 \340


 この物語は小説なのでしょうが、プロ野球史上の事件と見事なまでにリンクしていて、本当にありうる話なんじゃないか?と錯覚してしまいます。
 自らの体験を語るという立場に立つこの物語の主人公は、桜機関という組織のメンバー。この桜機関こそ、プロ野球の裏で様々な策謀を巡らせて野球人気拡大を図ってきた組織なのです。いや、本当にそういう組織が存在していた、いや、今も問題になっている、あの事件やこの事件も、裏で桜機関が動いているのではないかと妙な感覚に囚われてしまっています。(笑)
 この本で語られるプロ野球史上の出来事は3つ。まず非常に有名な巨人の別所引きぬき事件、昭和30年の巨人×南海の日本シリーズのウィニングボールにまつわる話、そして昭和34年の日本シリーズに向けた巨人水原監督のサイン解読に関する話。

 この本も完全試合同様、20年程前に読んだ本をもう一度読み返してみたのですが、ちょうど3話目にあたるサイン解読の話に入ったところで、例のダイエースパイ疑惑が話題になり、ちょっと不思議な気持ちでした。ま、まさか今回の件も桜機関の影が・・・?(^^;

 桜機関の目的はプロ野球の人気拡大、プロ野球に関心を持つ人を増やすということのようです。そのために、まず別所引きぬきを画策します。名づけて「不均衡計画」。
 当時は南海が強かったのですが、やはり巨人の人気が圧倒的でした。その巨人が南海の別所を引きぬくとどういうことが起こるか。当然、巨人が強くなり、南海の戦力ダウンは否めません。
 本来なら戦力を均等化して、優勝争いをおもしろくするのが理想的であるはずなのですが、当時は全体の選手層も薄く、戦力の均等化は全体のレベルを下げることになり、結局人気拡大に至らない。それなら、巨人を圧倒的に強くすることで、いわゆるアンチ巨人的なファンを増やそうという作戦です。別所引きぬきが非合法的に、あくまで庶民感情として反感を持つような方法であればあるほど、それは効果的なわけです。そう、巨人を強くするだけでなく、憎まれるようにしなければいけなかったわけですね。
 う〜ん、最近も聞いたようなことがある話ですねぇ。妙にリアリティが感じられてしまう。(^^;
 この話にさらにリアリティを与えているのが、当時同じような問題であった(私は知らなかったのですが)巨人とは無関係の「本堂問題」、「小林問題」に比べて「別所問題」に対する連盟の裁定が巨人に有利であったこと、別所移籍後の巨人×南海戦でことごとく巨人有利な判定が見られたこと、そういう歴史的出来事が、不均衡計画をより完全なものにしているという事実。まさに事実と小説の出来事がリアリティを持って融合しているかのようです。
 さらに、このとき生まれた「反巨人」の気運が、2リーグ分裂のきっかけとなった理由としてきっちり組み込まれているのも、なかなか凄い!ホントにそうだったかもしれないと思わせる迫力です。

 水原監督のサイン解読の話も妙に説得力がありました。
 その年のセリーグは巨人は独走、パリーグは南海と東映が優勝を争っていました。しかし、別所事件で一時的に落ちた巨人人気も回復し、パリーグは人気不振に陥っていました。
 そこで桜機関は日本シリーズの巨人優勝を阻止するために、水原監督のサインを解読し、南海に情報を流そうとするのですが・・・。
 これも本当にそういう組織が動いたわけではないでしょう。でも、妙にリアリティがあるんですよねぇ。実はこのサイン解読のノートがシーズン中に広島で紛失した(?)という事件まで起きて・・・。
 広島は南海の鶴岡監督の出身地、そして日本シリーズでは南海が巨人に3連勝、さらには翌年、広島カープが巨人に大きく勝ち越して巨人は優勝を逃します。(そう、その年は大洋の優勝した年ですね)
 巨人の優勝を阻止することで、水原監督を巨人から追い出し、パリーグの監督に据える。実際に水原氏が東映の監督に就任してパリーグの人気が上がっていくという後日談までフォローされているわけです。
 ほら、本当に桜機関があるような気がしてきませんか?(笑)


目次に戻る