青春の神話

森村誠一

講談社文庫 1999.3.15 第1刷発行 \590(税別)


 森村誠一というと、こういうタイプの小説を書くイメージがなかったので、ちょっと面食らったのですが、こりゃ文句なしに面白いです!
 いろいろな要素が詰まったストーリーの冒頭の舞台は、江戸時代です。主人公は甲賀流忍者の少年、小平太。すでに本当の意味での忍者の役目はなくなってしまい、その能力を発揮する機会がなくなってしまった時代に、厳しい訓練をただただ繰り返すという生活に虚しさを感じた小平太は許婚のこまきと一緒に江戸へ逃げ出す道中で事件が起こります。
 竜巻に巻き込まれた小平太はタイムスリップで現代にやってきてしまいます。こまきはどこへ行ったのか・・・結局、この後こまきは出てきませんが、こまきの生き写しである美里と出会い、美里の家に居候することになります。
 美里の父親は、次期市長候補。しかし、現市長は暴力団と結託して長期政権を握っているわけです。いわゆる暴力で市民を抑えつけていた現市長に対抗して、それに対抗するために戦っているのですが、現市長や暴力団としては、目の上のたんこぶである美里の父親を何とかしたいと思っています。
 で、小平太が、忍者としての能力を存分に発揮して、この現市長&暴力団と対抗していくのですが、その間に高校に入り、そして野球をするというストーリーです。

 野球の場面で、妙にリアリティ(って、こういう奇想天外な話にリアリティってのも変なんだけど)を感じたのが、小平太が試合で初めて打席に立ったところ。
 小平太は忍者の訓練を通じて、野球にも見事に対応し、投げては手裏剣を投げる要領でスピードもコントロールもある投手、打っても、その精神集中力で豪打爆発なのですが、必ずしも「万能選手」として描かれていない点に注目しました。
 試合での初打席、小平太は球場全体に注目されている状況に戸惑います。元来、忍者は影の存在であり、球場全体から注目されるという場面とは相容れないものがあるわけです。その状況に対応できなかった小平太はいいところなく三振に終わってしまうのです。
 忍者の長所による野球(技術)への対応に対して、その特質による実戦での脆さは、読んでいて、なるほどなぁと感じました。普通、こういうお話ってのは、主人公がチームを引っ張って大活躍するってパターンになってしまいがちだと思うのですが、それをしないところに妙にリアリティを感じてしまいました。

 結局、小平太の高校の野球部は廃部寸前から甲子園で優勝までしてしまいます。全体のイメージとしては、小平太に負けまいと頑張る他の選手たちの活躍で勝ち進むわけです。
 小平太の活躍ももちろんあったのですが、その期待度からすれば、ちょっと肩透かしの感があります。とはいえ、美里の父親を狙う狙撃手をホームランの打球でやっつけるというとんでもないこともやってくれるんですけどね。(^^;

 野球をしている間にも、現市長の魔の手が迫ってくるのですが、それに対して、様々な忍法で対抗する小平太。その攻防も目が離せません。一気に読ませてくれること、間違いなしです。


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