消えたエース

西村京太郎

角川文庫 1985.5.25 初版 \580(税別)


 西村京太郎の作品リストを見ていると、「消えた巨人軍」をはじめ、「消えたタンカー」、「消えた乗組員」、「消えたドライバー」と「消えた○○」というタイトルのものがいくつかあるのに気づきます。この「消えたエース」も、そのうちの一編。

 ある殺人事件をきっかけに、18年ぶりの優勝を目指す京神ハンターズのリリーフエース江島が、天王山の巨人4連戦を前にして失踪してしまいます。殺されたのが、江島の愛人であったことから、江島に殺人の疑惑がかけられますが、実際には誘拐事件であり、ハンターズに身代金の要求がきます。
 優勝には絶対に欠かせないリリーフエースということで、ハンターズは要求に応じますが、結局、江島は帰ってきません。その間に第二、第三の殺人が起こったり、身代金受け渡しのトリックがあったりと、物語は進行します。
 それと平行して、天王山のハンターズ対巨人の試合も展開していきます。絶対的リリーフエース江島を欠いて、苦戦するハンターズ。当然、監督の立てる作戦も変わり、それが敗戦に繋がっていきます。実際に主力を怪我で欠いたりしたチームが陥る勝負のアヤみたいなものが、リリーフエースの誘拐という事件で起こるところは、なかなかリアルです。

 この小説の舞台となる京神ハンターズは、阪神タイガースをモデルにしていることは明らか。甲子園を本拠地としていること、18年ぶりの優勝を争っていること(昭和56年から57年にかけて書かれたそうです)、そして熱狂的なファンに支えられていること。
 さらに、面白いのは、ハンターズ以外のチームは、巨人を初めとして全て実在のチーム名、選手が登場しているところです。(当然、タイガースは登場してきません)
 ハンターズの選手も、あぁこれはあの選手がモデルだなというのが、名前から想像できるようになっているので、脳内補完して読むのも面白いかも・・・。
 もちろん、20年ほど前の時代(ジャイアンツ側で言うと江川、西本、定岡の時代)ですから、当時を知らないとなかなか難しい楽しみ方ですけど、古くからのタイガースファンには、是非チャレンジして欲しいです。
 実際に試合のシーンを読むときは、頭の中で、あの投手やあの打者が登場してきました。

 文庫化されたのが、昭和60年というのも、何か面白い因縁を感じますね。
 結局、この物語の中で優勝の行方は明白にはなっていませんが、雰囲気的には決まったなという余韻を残して終わっています。この小説が文庫化された年に現実のタイガースは優勝しました。話の内容自体は、殺人やら誘拐やらと殺伐としていますが、こと野球の部分に関しては前祝いくらいにはなったかもしれません。

(2003.3.2記)


目次に戻る