日本シリーズ殺人事件

西村京太郎

講談社文庫 1986.10.15 第1刷 \460


 この物語の主人公は、かつて九州にフランチャイズをもつ西日本ジャガーズでエースとして活躍していた梶大介。プロ野球を襲った黒い霧事件で疑惑をかけられ永久追放になり、いまは新宿歌舞伎町のクラブ「ナンバー24」のマスターをしています。
 そして、事件の舞台は東京エレファンツと東京に本社をもつ鉄道会社に買収された「東日本」ジャガーズの日本シリーズです。

 事件の背後には野球賭博が絡んできます。そして、いろいろな人間関係が複雑に入り混じってきます。日本シリーズ直前に起こったジャガーズの今井コーチの死から、日本シリーズの最中に起こるいくつかの事件、そしてシリーズの中での「疑惑」の数々。犯人の推理と同時に、本当に八百長が行われているのかどうかにも興味が注がれます。
 そして、全ての事件は(かつての黒い霧事件も含めて)、野球賭博を画策する陰の存在に通じていきます。

 OBであり、かつての疑惑の渦中にいた梶を主人公に据えることで、いろいろな意味でストーリーが違和感なく進んでいるように感じます。ちなみに、梶自身は実際には八百長はしていなかったというのが、本作の設定。今回の八百長疑惑にも登場する暴力団員、春日三郎から金を受け取ったのは確かなことですが、それはあくまでも八百長とは関係ないお金でした。ところが、捕まった春日は梶が八百長をしたと証言し、そのために永久追放になってしまったわけです。どこでどういう落とし穴が待ち受けているかわからないという典型ですね。

 今井コーチの死が当初女性関係のトラブルと見られたことから、スキャンダルの前に解雇したと発表するジャガーズの狡猾さや、かつての黒い霧や今井コーチのスキャンダルを大々的に報じて相手チームにダメージを与えようとするエレファンツの親会社の東京新報の嫌らしさなど、実際にありそうなプロ野球の負の部分も描かれていて、よりリアル感を感じます。
 一方で、かなりご都合主義の無理な展開の部分もありますが・・・。

 「消えたエース」ではタイガースをモデルにした京神ハンターズというチームを舞台に設定した西村氏ですが、この物語に登場する2つのチームも実在のチームをモデルにしています。
 東日本ジャガーズは、すでにおわかりの通りライオンズですね。本拠地球場は「西部」球場。そして、マスコミを親会社に持つ常勝チーム、後楽園球場をフランチャイズにする東京エレファンツは当然のことながらジャイアンツということになります。
 登場する監督、選手も一文字違いで出てきますから、補完して読めば、さらに臨場感を持って読むことができます。例えば、ジャガーズの監督の広田、エレファンツの監督の藤森は、その性格や采配は、そのまま、かの広岡監督と藤田監督に通じます。そうなると、第1戦で疑惑の投球をして、シリーズ後に謎の引退をしたジャガーズのエース東田のモデルは、ひょっとしてあの投手?

 プロ野球の闇の部分をテーマにしていて、しかもリアリティがしっかりあるだけに、是非読んで欲しい作品のひとつです。

(2003.3.16記)


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