阪神タイガースの正体

井上章一

太田出版 2001.4.20 第一版第一刷 \1700(税別)


 長年、タイガースを応援してきていますが、球場へ行くと、その応援風景の変節が気になることがあります。もちろん、プロ野球全体として応援方法が変わってきているのは確かですし、時代とともにそれが変わっていくことは当然なのですが、タイガースファン気質に対するイメージは明らかに変わってしまったと感じることがあります。
 ただ、それがいつから変わったのか、何故変わってしまったのか、がよくわからないんですよね。大きなきっかけは1985年の優勝だったことは確かでしょう。少なくとも、世間的には、あの年以降、単なる野球チームの領域を逸脱し始めた感があります。(「世間的に」と書いたのは、自分にとってのタイガースの存在は別に変わっていないから)

 この本の帯にも書かれているように、タイガースはある意味「象徴」なのですね。もちろん、私が小さい頃にも東京=ジャイアンツに対する「反体制的なもの」としての象徴という言われ方はされていましたし、対ジャイアンツの意識は強かった。ただ、いま、果たしてタイガースは「反体制的な象徴」であるかどうかは疑問のあるところです。それは、タイガースの最近の成績にも根ざしているだろうし、立ち位置も微妙に変わってきているからだと思います。

 この本は、プロ野球の歴史からタイガースの果たした役割、そしてマスコミの影響を(タイガースファンらしからぬ(^^;)とことん冷静な視点で解き明かしています。タイガースのみならず他の球団の親会社の社史や過去の新聞記事等々、あらゆる文献からプロ野球やタイガースの真実の歴史を読み解いています。

 全体の3/4(!)は、良くも悪くもジャイアンツ(=読売)中心に動いてきたプロ野球の歴史について書かれています。とは言え、タイガースの正体を読み解くためには重要な部分です。随所でタイガース自身の歴史も絡めていますが、決してタイガース寄りではなく、他球団からみた姿も書かれています。創設当時のタイガースのライバルはジャイアンツではなく阪急だったというのも、初めて知る事実。でも、冷静に考えれば、全国的な人気もなく、マスコミもそれほど発達していなかった時代、あくまでもプロ野球は「ローカルな興行」がメインだったと考えれば、そうかもなぁと納得でした。

 それ以外にも知らなかった事実がいくつか。
 プロ野球創設当初、「下賎な」職業野球に神聖な神宮球場は使わせられないということで後楽園球場ができた話。
 展覧試合は実はジャイアンツ×タイガースでなかった可能性があったという話。

 2リーグ分裂のくだりも興味深かったです。読売に対する毎日の加入に関して、毎日である必然性、毎日加入を後押ししていた関西私鉄チームの思惑、そして読売の思惑。そしてタイガースの果たした役割。今現在、プロ野球の組織は硬直してしまっていますが、最初は(当然のことながら)本当にダイナミックな動きがあったんですね。

 後半、いよいよタイガースの正体が明らかになります。
 特にマスコミの果たした役割がクローズアップされてきます。いまでこそ、関西のスポーツ紙はタイガース一色という認識が誰にもあるでしょうが、それもつい最近だったこと。そのキッカケが、サンテレビのタイガース完全中継であり、中村鋭一氏(鋭ちゃんと呼ぶ方が通りがいいな)の六甲おろしに始まるタイガース偏重放送だったという事実。ちょうど、サンテレビの中継と鋭ちゃんの六甲おろしの洗礼を受けた世代なので、えぇ〜そんな最近なの?という印象が強いです。
 六甲おろしも、今でこそ他球団ファンでさえ知っている曲ですが、昔はファンでさえ知らなかったらしい。毎朝ラジオで聴いていた関西人にとっては意外な感じですけどね。

(2003.5.4記)


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