消えた甲子園

大野優凛子

実業之日本社 ジョイ・ノベルス 2003.3.25 初版 \838(税別)


 「消えた・・・」とくれば、ミステリー。と言っても、「甲子園球場」が消えてしまうわけではありません。(^^;
 この小説で消えてしまうのは、選抜高校野球の決勝戦で戦うことになったリベルテ学園と愛媛商業の監督、コーチ、そして選手全員。両チームが、宿舎から決勝のために甲子園へと向かう途中で、行方不明になってしまいます。

 普通、推理小説だとまずどうやって選手がいなくなったのか、という点を推理するという形になるのが常道なのでしょうが、いきなり序盤から犯人グループの誘拐の手際が描写されています。犯人グループは、《金龍》、《銀龍》、《黒龍》・・・と愛称で呼ばれるため、正体だけは明らかになっていません。
 誘拐の手口は鮮やかそのもの。と言うより、かなりご都合主義というか、強引な感じがしましたけどね。かなりプロの仕業という手口で、全てが計算されつくされ、警察の動きの先手先手を打っていきます。

 警察が犯人を追う中で、高校野球の実態が明らかにされていきます。犯人グループの共通点が、そのまま誘拐の目的=身代金の使い道に繋がっています。そして、読み進むにつれて、犯人側の目的やその背景が明らかになっていき、どうしても犯人グループに感情移入していく形になってしまいます。

 誘拐された一方のチーム、リベルテ学園のモデルは、どう見てもPL学園でしょうね。このリベルテ学園側の事情に、やたらリアリティがあるなぁと思って読んでいたのですが、著者の大野氏は、まさにPL学園出身とのこと。(さらに言えば、愛媛県出身ということで、対戦相手として愛媛商業ってのが出てきたんでしょう。)
 かなり、ここに書かれているのに近い状況が、実際にあるんでしょうね。そういう意味では、結構危ない話も暴露されているのでは?

 主犯は高校時代、リベルテ学園の野球部選手だった男でした。高校時代の同期で、阪神タイガースのクリーンアップを打つ原崎という選手が出てきます。(同期としては中日ドラゴンズの浪岡選手ってのもいるという設定、OBに現役のプロ野球のスター選手の名前(もちろん架空選手)が出てきますし、タイガースのコーチにも井出というコーチがいたりします。さすがPL・・・じゃなくてリベルテ!)
 原崎に関しては、大学を出てドラフト1位でタイガース入団ということで、実際のモデルの選手はいなさそうです。地元(甲子園)の選手ということでの登場だと思うのですが、ストーリー的には重要な役割を担っています。
 そして、この同期の結びつき、厳しい高校時代の3年間をともに戦ってきたという結びつきの描写は、高校3年の甲子園決勝の試合前練習の出来事の「回想部分」を含めて、ちょっと感動的ですし、非常に共感してしまいました。

 結末は、こうしたミステリーとしては、ちょっと異色ですね。詳しくは書きませんが、こうなるのかぁ!という展開です。立場によっては、ハッピーエンドともバッドエンドとも言える結末。個人的にはハッピーエンドでしたが。

(2004.4.25記)


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