月の無い闇夜。S藩邸の塀上を掛ける影があった。
そして、それを迎え討つ巨大な影。
「待てぃ。・・・M藩のくの一か」
「お前は・・・根来衆。S藩の手の者か」
「女、話を聞かれたからには生かして返さん」
「我が姫をかどわかし、M藩の士気を下げて攻め込む計略か。
 それが武勇を以って成るS藩の戦略とは・・・落ちたものだ」
「黙れ女」
 男が言い終わらないうちに空気が震えた。
 男が毒針を吹き付けたのだ。だが、彼女の動きが一瞬早かった。
 月明かりがあれば、それは幻想的な夜鶴の舞いに見えただろう。
 男の背後に回り込み、同時に脇腹に小太刀を差し込んでいた。
「小太刀鳳統流 一の舞」
「な・・・に・・・鳳統流? では、お前が・・・」
「相手が悪かったな。冥土の土産にするが良い。私は霧那。
 M藩朧姫番衆であるMの里の長だ」


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