ヴィーナスの誕生

 資料のない方はアーカイブ・コムにある画像を見てください。

 作者のボッティチェリは,初期にレオナルド・ダ・ヴィンチと同じフィレンツェのヴェロッキオ工房で制作に励んでいた。その点ではレオナルドの兄弟子である。ルネサンス時の美術工房は,町の通りに居を構え,依頼主の注文に応じて,絵画や彫刻,墓石なども作っていた。町の通りにあるので,人々は制作中の様子を見ることもできたらしい。いいなあ。

 ボッティチェリは人物画の絵描きとしては,とんでもなくずば抜けていた。女性の肌の質感,憂う表情,とてもなまめかしく描くことができた。

 でも,当時はキリスト教が強権をふるっていた時代,セクシーな絵はいけない,ましてキリスト教から見たら「異端」(辞書で調べてね)のギリシャ神話の絵なんてもってのほか!のはず・・「ヴィーナスの誕生」って,明らかにギリシャ神話だよ・・

 この絵は,フィレンツェの大実力一家,メディチ家の注文で制作された。だからこんな題材でも構わなかった。その理由は

1. 個人が楽しむための絵なので,教会に飾られ人々に見られることがない。

2. 実質的に町をしきっているメディチ家が所有するので,教会も非難しづらい。

3. 誕生したばかりの無垢なヴィーナスが,キリスト教の洗礼を受けている,
  という雰囲気の構図にした。(非難されたとき,言い逃れできる)

 まあ,いろいろな意味でうまく描いたこと。
彼の作品の欠点?は,背景の処理。水辺の処理はいただけない,という人もいる。でもそのおかげで,人物は引き立っている。彼は背景を手抜きしたわけではない。彼のもう一つの傑作「春」では,人々の足下に草花を描いているが,あれは全て当時のフィレンツェ近郊で咲いていた花を観察し,丹念に描いているのだ。

 ボッティチェリは,絵柄と違い(?),実は超真面目人間なのだ。

     戻る        ホームページへ戻る

工房の制作風景
たとえば旅行に行ってガラス工芸の工場などを訪れると,制作の様子を見せてくれるでしょ?あんな感じで当時の偉大な作家たちは見られながら制作していた。今でもその名残なのか,フィレンツェでは銀細工などの制作風景を見せてくれる。

異端

ルネサンス以降になると反宗教改革の影響から「異端審問」という恐ろしい裁判というか拷問がでてきたぐらい,「異端」と呼ばれるのはまずい。「魔女裁判」とか聞いたことある?映画「薔薇の名前」でもそんなシーンがあったし,ミラノに行くと魔女裁判博物館なる,とっても恐ろしい博物館がある。痛そうなところだった!ところで異端の者は火あぶりとか・・・

ボッティチェリの人生
若い頃から絵が上手。さらに権力者と仲良しになるのも上手。メディチ家大集合の豪華な宗教画を描いたり,当時流行のギリシャ哲学をおしゃれに画面へ取り入れたり・・
彼の転機は豪華王ロレンツォ・デ・メディチの死と禁欲主義の僧サヴォナローラの台頭からである。彼は宗教的に「真面目」になり,いままでの才あふれる作品を燃やし,コテコテの真面目宗教絵画を制作するようになった。それと同時に人々は彼を忘れていった。悲惨な最期だったという。

「春」で描かれた花
少し前まで,ボッティチェリの絵は想像だけで観察力に乏しいといわれてきた。ところが「ヴィーナスの誕生」「春」の修復後,元の絵には丹念な観察の結果が反映されていることが証明された。「春」の花は植物学的に見ても正しく描かれている。(現在は絶滅した花もあるが)