法律コーナー

 このコーナーは一般生活の中で、ふと気がついた事柄について法律上でいかに解決した、またどういう判例であったか、などを集めたコーナーです。


車を無断拝借し、元の所に戻したが「窃盗罪」に?

 銀行強盗などではたいがいの場合、「盗難車」が足として使われ、乗り捨てられる。車を自分の物にする意志はないが、その行為は窃盗罪になる。盗んだ場所と乗り捨てられた場所が違うし、その間の時間的間隔も結構あるから「窃盗罪」もうなずけるが、こんなケースはどうか。山岸(32)は銀行強盗を思いついた。彼は競輪、競馬、競艇などギャンブルと名の付くものなら何でも手を出し、サラ金相手に作った借金が1千万円。そこで“一獲千金”の思いにとりつかれたのだ。ターゲットは*信用金庫。前にも強盗が入ったが犯人が未検挙であることが狙い目だった。下見もした。凶器も変装用の小道具もととのえた。(アシがつかないためには人の車がいい)というので次のような実行計画を練った。まず自分の車で国道筋にあるPパチンコ店へ。そこの駐車場で誰かの車を“拝借”し、銀行へ乗り付けて“ひと仕事”。直ちにPパチンコ店の駐車場へとって返して“獲物”を自分の車に積み替え逃走。ざっとこんな具合だ。さて当日−銀行に入って行員を脅かすまでは筋書き通りに行った。だが、脅かされた行員が恐怖の余り非常ベルのボタンに手をふれたのだ。警報音に驚いた山岸が何も盗らずに店外へ、パチンコ店の駐車場に引っ返し、人の車を元の場所に返して自分の車で逃走。車を“拝借”してから“もとに戻す”まで時間にして30分、走行距離にして15キロ。やがて捕まって「強盗未遂」と車の「窃盗」で裁判にかけられた山岸−「「強盗未遂」の方はしゃあないけど、車の件は納得がいきまへん。ワテは最初から、ちょっと借りる積もりでしたし、実際にも元に戻してまっしゃろ。これが何で「窃盗」になりまんねん」言われて見れば一応ごもっとも。これは昔から「使用窃盗」として論じられて来た問題。なるほど一時的な無断持ち出しかも知れないが、この程度使ったら「不法領得の意志」(権利者を排除し他人の物を自分の支配下に置く意志)があるといえるから「窃盗罪だ」。これが裁判所の見解。だが「じゃあ、どの程度なら窃盗罪にあたらないの?」こう問われたらちょっと困るのだ。パチンコ店の駐車場の中で乗り回したぐらいなら大丈夫かな。いや、それもヤバイぞ。“一時使用”が窃盗罪にあたらないと判断されたケースもあるが、まずは「さわらぬ神にたたりなし」としておこう。(高松高裁 昭和61.7.9判決)

無免許運転で名乗った通称が、私文書偽造という大罪に?

 「えらいすんまへん。急いでて免許証を忘れてしまいきしてん」検問にひっかかり免許証の提示を求められたその男はえらく低姿勢だった。忘年会シーズン、しかも“ハナキン”(花の金曜日)とあって、その夜は大がかりな検問が各所で実施されていた。幸いに飲酒をしていなかったが、「無免許運転」という“大罪”を犯していたのです。だからとっさに(忘れたと言えば見逃してくれるだろう)と考え、「免許証不携帯」と申し出たのだが、「名前は?」「生年月日は?」「本籍地は?」とたて続けに質問が返ってきた。「名前はええと...、山川一郎。生年月日は昭和18年7月*日、本籍はA市B町1234番地」男は間髪入れずこう答えたが警察官はこの答えをもとにさっそく、運転免許照会。「無免許じゃないか。デタラメを言ってはいかんね」言われるもなく警察官が受話器をとった時から観念していたこの男、現場で作成を求められた書類(交通事故原票)の供述者欄に素直に「山川一郎」と署名した。(バレたらしゃあないわ。無免許は事実やから「罰金」は致し方ないやろな)男はこう思った。が...「キミイ、本籍地に照合しても、山川一郎の名前は見当たらんのだがね。偽名を使っとるんと違うんかね」その後の調べの時に男は警察官からこう指摘された。男はこのこともいつかはバレると予期していたのか、事実を認めてその事情を話し出した。「実は、私A市内で事業をしていたんですが、多額の借金を抱えて倒産し、いったんよそへ逃げていたんです。半年前にA市に舞い戻ってホテルで働いているんですが、債権者に知られるのが怖くて偽名を名乗っていたんです」本名山田二郎というその男は、こんな事情で今回の違反事件では、通称の山川一郎の名前で書類に署名し、生年月日や本籍地も少しずつ違えていたのだった。この山川こと山田は、結局「無免許運転」という“大罪”の他に「私文書偽造」という新たな“大罪”に問われることになった。「私は別に人の名前をかたったというわけではなく、自分の通称を書いただけですから私文書偽造にはならないはずでは?」山田はこのように言うのだが、裁判官は文書偽造についても有罪と認め、執行猶予はつけたものの山田に懲役1年というキツーイ刑を宣告した。通称を用いたからと言っても必ずしも「偽造」になねわけではないが、それが短期間でしかも限られた範囲でしか使われていなかった等の場合には「偽造」になるというのがその理由。コワイですね、恐ろしいですね。アナタもうっかり“大罪”を犯さないようご注意を。(福岡高裁宮崎支部 昭和62.7.16判決)


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