『大宇宙の屍・完全復刻版』 狂沢 瞬 書肆幻象

祖父 有沢柚木次郎 は平成11年2月4日の午前3時ごろ、長野市郊外の森田総合病院にて肝臓ガンのため他界いたしました。享年 81歳でした。

この作品は祖父が家業の造り酒屋を継ぐのを嫌い、作家を志して上京した時代に書いたものだそうです。結局、太平洋戦争が始まって徴兵されたのをきっかけに祖父は家に戻って家業をついだのですが、実家の倉から桐箱に入れて大切に保存されていた未発表の原稿(『大深海の屍』)をみつけたときに、祖父の創作意欲は戦争を経てなお消え去ってはいなかったのだと感じました。

祖父がなぜ作家を志したのか、しかも空想科学冒険物という当時では珍しいジャンルのものを書き始めたのかさだかではありませんが、祖父の父である曾祖父が私財を投げ打って村に電気をひいたという逸話があり、山間部ではまだまだ珍しい電灯の光を見て、「科学技術とは人を幸福にすべきものなのだ」と祖父がその頃の日記に書きのこしております。

作品中でも主人公である神藤が犯人(敢えて名を伏せさせていただきます)「人のしあわせのために科学は生まれたのだ」と語っていますが、それは祖父の偽らざる本心であったと思います。

正直言って祖父の初期の作品はこういったテーマが強く出過ぎ、あまり編集者には受けがよくなく掲載は見送られる事が多かったようです。その頃の苦悩は日記の端々ににじみ出ています。

ある時、上京中の記述に平井太郎なる人との親交の記述が増え、その人の影響で推理小説仕立ての小説に体裁を整えたところ、ようやく編集者に認められ、いくつかの作品が掲載されたとの事です。

重力爆弾による惑星破壊、超音波兵器による海洋動物の絶滅など、荒唐無稽な描写も入念な下調べを行い、その当時の第一人者にお話をうかがった上でできる限りのリアリティを持たせようと努力いたしました。その当時ほとんど知られていなかった「シュバルツシルト半径」などの用語や相対論による双子のパラドクスなどその当時では画期的な発想をいち早く取り入れた事にもそれはみうけられます。なお「浦島効果」という用語が使われたのは多分この作品が初めてではないかと思います。

このように歴史に埋もれた作品の復刻がなされたことはよろこばしく、また祖父も草葉の陰できっと喜んでいるでしょう。書肆幻象 社の担当者、またこの本を手に取られた読者の方々に厚く御礼申し上げます。

(有沢 元成)


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