月姫 Short Story

  料理の鉄人!?


  第3話


 注:これは、基本的には「シエルグッドED」後として考えはいますが、
   あまり厳密ではなかったりします。(おい
   「月姫PLUSDISC」をプレイされた方は判ると思いますが、
   アレ(閑話2話)と同じようなことと思ってください。



 「これで、みなさんお揃いになられましたね」

 弓塚とあきらちゃんをみんなの前まで招き、そのまま琥珀さんは全員の前に立つ形でぺこりと一礼した。

 「これで、って琥珀、どういう事なの?」

 真っ先に質問を琥珀さんにぶつけたのは、やはり秋葉だった。

 「ええ、先程からお話されていたことです。

  秋葉さまの言われる通り、やはり私達も良く知っている方にこう言った事はお願いしたほうがよろしいかと

 思いまして、志貴さまに食事をお作りになられたいのでは、という方をお呼びいたしました。

  もちろん、そちらのアルクェイド様とシエル様も含めてですが」

 その琥珀の言葉を聞いた瞬間、秋葉の視線が琥珀さんからあきらちゃんへと移動した。

 「・・・・・あら、瀬尾。あなたは私の兄に食事を作りたいのですか。

  一体どういった理由があるのか、できれば教えてくださらないかしら?」

 表情的には笑みがあるんだけれど、秋葉の目だけは何故か笑っていないような気はするのは自分だけの

気のせいなんだろうか。

 「え、え、、えっと、えっとですね、遠野先輩。

  いつも遠野先輩、あ、それだとややこしいから・・・し、志貴さん(ぽっ)にですね、お世話に

 なってるんで、こう言うときにはやはり何かお役に立てないかと思ってたんですっ」

 あきらちゃんはまた再び小さくなって上目使いに秋葉のほうを見る。

 「そう、瀬尾はやさしいのね。

  じゃぁ、瀬尾は”恩返し”で来てくれたのね。ありがとう」

 「えっと、えっと、それだけじゃ・・・あ、あう」

 なにやら部分的に言葉を強調した秋葉に反論しようとしたあきらちゃんだったけど、その秋葉の視線の

圧力に屈して何も言なかった。

 学校でもあんな感じで秋葉に押されているのかと思うと、かなり可哀相だった。

 「まぁまぁ、後輩に焼餅を妬くのはそれくらいにしたらどうですか、秋葉さん」

 何か助け舟を出そうかと思った先にあきらちゃんを援護したのはシエル先輩だった。

 「そんな、私は焼餅なんて焼いてませんっ!

  ただ、世間を良く知らない無垢な中学生が、兄さんみたいな酷い男性に騙されているんじゃ無いかと・・・」

 「・・・学食のパンの食べ方も知らない高校生も十分に世間知らずなんだけどねぇ」

 「なっ、なんであなたがそれを・・・!?」

 ボソッとしたアルクェイドの突っ込みに絶句する秋葉。

 「ん〜? この間志貴が教えくれたんだ。

  ”ウチの妹も可愛いところがあるんだよな〜”って笑ってたけど?」

 ア、アルクェイド・・・できればそれは黙っておいて欲しかったんだけど・・・

 秋葉のほうに視線を向けると、じっと眼を細めてこっち睨んでいた。

 「・・・・・・・兄さん」

 「・・・・・・・はい、なんでしょう、秋葉さん?」

 あ、なんか秋葉の髪が一気に赤くなってるんだけど。

 「私、兄さんのだらしないところかを全部学校とかで話してもよろしいかしら?」

 「ごめんなさいすいません。これからはしませんのでそれだけは勘弁してください」

 秋葉が暴露話を始めた場合、それこそお嬢様学校の内部に始まり、さらにはそこから伝わってこの近所

一帯に”あの遠野家の長男が・・・”なんて後ろ指を指されかねない。

 まだこれから長くここでの生活をしたいだけに、ここは穏便に済ませたい。

 しかも、嘘八百ならともかく、自分がいかに普段からだらしないかは十分に自覚しているだけに何とも

言えないのはさすがにちょっと情けない気もする。

 ”もぅ、2人だけの大切な想い出を誰かに話すなんて・・・”

 どこからか、そんな言葉が聞こえてきたような気がした。

 「では、説明を続けさせていただきますね」

 あくまでマイペースな琥珀さんが、頃合をみはからっていたかのように、途切れた会話の間に入ってきた。

 「えっとですね、お恥ずかしい事ですが、ちょっとこの様な有様で」

 と言って、その包帯に巻かれた右腕を軽く前に出して見せる琥珀さん。

 「それでですね、しばらくの間、この遠野家の台所が・・・」

 そこまで言うと、アルクェイドをはじめ、弓塚やあきらちゃんまでもが秋葉と翡翠のほうをじっと見た。

 「うっ・・・・」

 「・・・・・・」

 その無言の問いかけに(というよりは哀れみ?)、苦しげな表情で息を詰まらせた秋葉と、恥ずかしそうに

赤くなって俯く翡翠。

 「そういう訳ですので、ここは普段から親交のあるどなたかに、誠に申し訳無いんですがピンチヒッターと

 いうことで志貴さまや秋葉さまのお食事をお作りして頂けないかと・・・」

 「まぁそういうことだったら引き受けるわ。いつもなんだかんだで世話になってるしね。

  あ、シエルもさっちんもそこの妹の後輩もそういことだから、もう帰っていいわよ」

 琥珀さんの言葉を最後まで聞かず、アルクェイドが割り込んできて、シエル先輩に手で”しっしっ”などと

し始めた。

 「な、何をいうんですかこのアーパー吸血鬼が。あなたごとき人外の生物が人様の食事を作ろうとするなんて、

 たとえ神が見過ごそうとしてもこの私は決して許すことはできません。

  ・・・ということですから、ここは私がお引き受けいたします。他の方々はお帰りください」

 ジャキン、とシエル先輩の制服のポケットの中から妙な金属音が聞こえてきた。

 「・・・アルクェイドさんもシエルさんも遠野くんと知り合ってからまだ間が無いじゃないですか。

  ここは、普段の学校からも素顔の遠野くんを知っている、私にまかせてもらえれば・・・」

 アルクェイドやシエル先輩に負けないようなどこか迫力を持って、弓塚がにらみ合っている2人に近づく。

 しかし、弓塚はいったいどんな姿を見ていたというのだろうか?

 そのあたりについては後でじっくり聞いておきたいような気がする。

 「やはり料理は実力だと思います。

  この間の家庭科実習でもばっちり作れたんで、私にまかせてください・・・」

 やはり迫力という点では先輩達に引けをとるあきらちゃんは、かなり小声で一応主張する。

 ・・・が、もはや先輩達3人は聞いておらず、論戦の真っ最中だったりする。


 「はいはいはい〜」

 それほど大きな声ではなかったが、琥珀さんが無事なほうの左手を軽く振ると、それまで激しく言い合っていた

3人(ほとんどはアルクェイドとシエル先輩だが)がぴたりと止まった。

 もし僕が同じような状況で割って入ろうとしても、おそらくはなかなか相手にしてもらえないような気がする。

 そう考えると、琥珀さんはひょっとしたら僕らよりも強い存在じゃないんだろうか・・・

 「最後までお話をしっかりと聞いてくださいよ〜、みなさん」

 めっ、といつもの指を立てる癖はその肝心の指が包帯で巻かれているためにできなかったので、左手でいつもの

ポーズを作った。

 「・・・食事をお作りしていただきたいのですが、多分希望者が多数になるということが予想されますので、

 ここはやはり厳正なる選考を行ってみたい、ということを申し上げたかったのです」

 「厳正なる・・・?」

 「・・・・・選考?」

 にらみ合っていたアルクェイドとシエル先輩が、同時に顔を琥珀さんの方へと向けた。

 「はい。選考です。まぁ、手っ取り早く言えば料理対決ですね。

  で、当の志貴さんに、一番おいしいと思わせる食事を作られたかたに、この役目をお願いいたします」

 端で小さく、「やった」というあきらちゃんの嬉しそうな声が聞こえた。

 「しかもっ!」

 さらにそこで琥珀さんはごそごそと左手で和服の袂から”賞品”と書かれた水引きの付いた豪華な紅白の封筒を

取り出した。

 「先程商店街で福引をした際に、なぜが1泊2日の温泉旅行が当たってしまったんです。

  2名用のチケットですが、先程秋葉様に”自由に使って良いわよ”と言われましたので、ここでこの際だから

 これも賞品として付けちゃいます☆」

 「な−−−!」

 秋葉が絶句している。

 まさかこんな事に使われるとは思っていなかったらしい。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 ふとなにやら妖しい気配がしたので横を見ると、アルクェイド達はともかく、あきらちゃんまでもを含め、全員の

目つきが変わってた。

 (女の子にとって温泉って・・・そんなに行きたいものなんだろうか?)

 それだったら今度みんなでのツアーでも計画しようかな・・・


 「ということで明日、この場所にて”第1回 遠野家シェフ(代理)決定戦”を行います。

  みなさん、ふるってご参加くださいませ☆」

 それが解散の合図になったのか、次の瞬間にはアルクェイドもシエル先輩も、無言で足早に部屋を出ていって

しまった。

 「・・・あ、あれ?」

 気がつくと、もはや琥珀さんを除いてだれも居なくなっていた。

 「志貴さん、明日は頑張ってくださいね」

 そう言ってにこりと微笑む琥珀さんの笑顔の奥に何があるのかは・・・僕には判らなかった。



 第3話 終わり



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