月姫 Short Story #2

  タイトル未定(おい)


 能書き、もとい、前書き。

 これは別に誰のED後、というものでは無かったりします。
 ・・・単に「誰とも結ばれなかった」結末なんてのがあったり
したとでも思っていただければ幸いです。(汗)


 #4 裏事情

 ほぼ同時刻、志貴の教室では。

 「よう遠野。今日も朝から疲れきったツラしてるなぁ」

 「・・・・・疲れたというか、憑かれているというか」

 「? 何か人生悟ったみたいな表情だな。
  この歳でそんな達観しちまったらあとはどうするんだか・・・」

 わざわざ志貴の前で腕を組み、首を傾げながら大きく息をついて見せる。

 「・・・この1ヶ月で何度も死ぬような目にあったり、過去の思い出したくないこと
 無理やり思い出させられたり、なんか人生を3倍速以上で生きてる気がするよ」

 「でもまぁそれだけ良いことも3倍くらい楽しめるんだったら良いじゃねぇか」

 「・・・だったら死ぬような痛みとか精神的苦痛とかも全部3倍でも、それでも良いのか?」

 「ま、当然のコトながら状況によるがな。
  どうせおまえのことだから秋葉ちゃんも関係してると思うが、特にそれだったら痛みも
 ツラさも3倍でも幸せ度はそのうえの12倍くらいは行くと思うのだがね、お義兄様」

 頭の中だけはかなり可変速のドライブでも搭載しているようだ、と志貴は目の前で台詞の最後に
とんでもない単語を付け足した有彦を睨みつけながら思った。

 実際、その苦しさを倍増させている悩みのタネがその秋は本人だったりするのだが、そんな事を
有彦に言って秋葉にバレたら、これ以上にチクチクといぢめられるに違いない。

 (まぁ、”それはそれで幸せじゃないか”と有彦なら言うかもしれないが・・・)
  
 「・・・ところでだな遠野君。例のものはまだ匿ってくれているかな?」

 そんなことを考えてると、頭を低くしながら揉み手までしながら有彦が上目遣いに志貴を見ていた。

 「ん? 例のものって、あのゲームかなんかのCDだっけ?
  ・・・開けて見た事が無いからよくわからないが、ちゃんと持ってるぞ」

 「おお、そうか。あんなもの家においてあって、姉貴にでも見られたらただじゃ済まないだろうからなぁ」

 そのただじゃ済まない、というのはそれこそ馬鹿笑いされて晒し者にされる、という意味であるのは
有彦も志貴もよくわかっている。

 「・・・・・そんなものだったら捨てれば良いのに」

 呆れた様子で有彦を見る志貴。
 しかし、そんな志貴に対し、当の有彦は大げさに手を大きく振って見せる。

 「いやいやいや。そんな物を粗末にするなんて勿体無い。
  お百姓さんに対してそんなんじゃあまりに申し訳がないですぞ」

 「いや、お百姓さんは関係無いとは思うが・・・」

 むしろこの際、百姓はメーカーで、食い物はこういうゲームやグッズに手を出す購入者のような気もする。
 
 「というわけで、物を粗末にしたくない乾クンとしましては、どなたか有効に使ってくれるお方を
 捜し歩いていたわけなのです」

 「・・・まぁ、だれか買ってくれる相手を探してたんだな、要するに」

 ようやく納得がいった、という表情の志貴。

 「まぁな。中古屋に売ると買い叩かれるから、知り合いでだれか買いそうな奴を探してたんだ。
  未開封の単品じゃそれほど価値が無いから、おまけとしてあるひとの写真までつけたんだが、
 その写真自体に物凄い人気が出ちまってな、えらい騒ぎになったんだぞ」

 「・・・・・写真?」

 「おう。そういえばあれをゲットしたゲーセンにいっしょにいた人が言ったんだぞ?
  UFOキャッチャーの景品ででてきたんだが、”こんなのいるかぁ〜!”って叫んだら
  ”お家で持っているのが大変なのでしたら、志貴さんにお預けしたらいかがでしょうか”って」

 最後の部分は妙に高い声色でさらに妙に体をくねらせる有彦に、周囲の視線がとてつもなく冷ややかなになった。

 ドカァっ!

 気色悪いんだよテメェはぁっ!、と志貴が周囲の意見を代弁しながら側頭部に鋭い拳をヒットさせる。
 おお〜っ、とその見事な志貴の拳に周囲が驚きの声をあげる。

 「うが、朝から強烈な一発ですな、遠野君は」

 さしたるダメージを受けたようにも感じない様子の有彦。
 何事も無かったかのように話を続けたりする。
 
 「・・・・で、そのゲーセンでいっしょにいた人って?」

 「そう、割烹着を着て買い物篭に食材入れたまま対戦台で格ゲーやってた 女の子なんだけどさ・・・」

 そのまで聞いた瞬間、志貴の額に一筋の汗が流れ落ちた。
 この界隈で、そんな姿が思い当たる人物は残念ながら一人しか浮かばなかった。

 「”よろしければご協力します”って言ってくれたんだぜ・・・おまえのとこの琥珀さん。
  ”わたくしのでよければ写真をつけますよ”とか”志貴さまなら預かっていただけますよ”って
 いろいろ手伝ってくれたおかげで、気がついたら新品のソフト単体よりも値段が競りあがっちまった」

 志貴の頭の中では、その人物が妖しい笑みを浮かべながらお尻にある黒い尻尾を振っている光景が
はっきりと見えていた。

 これで今週はお昼に豪華カツ丼コースが毎日食べられるぜっ!、とガッツポーズまで決めて有彦は
力強く叫んでいるが、志貴にはもうそれはあまり耳に入ってこなかった。
 有彦から預かったときに経緯や中身をよく確認しなかったのをつくづく悔やんだ。

 「有彦・・・ちなみに、あのゲームってどんな内容のものなんだ?」

 突然真剣みを帯びた口調で志貴が問いかけて来たことに驚く。

 「ん? ゲームの内容か?
  ある日突然12人の可愛い妹達が出来たお金持ちの男の子が、その女の子達とイチャイチャ
 ラブラブ甘々な毎日を過ごすゲーム」

 志貴の頭の中では、その人物が妖しい笑みを浮かべながらお尻にある黒い尻尾を振っている光景が
はっきりと見えていた。

 ゲームの内容そのものが危険球のような気がする。
 そんな妖しげなモノを黙って琥珀さんが見過ごすとはとても思えなかった。

 琥珀さんは言うに及ばず、秋葉などに見つかったらそれこそただでは済まない。

 今すぐにでも早退して回収しに戻ろうかとも志貴は思ったが、戻ったところで”どうして戻ってきたのか”
という問いにどうやって答えて言いか判らなかったから、とにかく放課後が来るまで待つしかなかった。

 ・・・帰宅するまでの一日が、とても志貴には長く感じられた

 第4話 終わり



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