Piaキャロットへようこそ!2  

   Short Story#2  嵐の下見旅行っ!?

  注1:これは、葵さんとのEDから1年後の夏休みという設定です。
     現在別に創作している「GoGoウェイトレス!」とは全く
     別のお話です。
     ちなみに、主人公の耕治は大学へと進学し、葵さんは引き続き
     Piaキャロット2号店に勤めています。

  注2:第3話にも書きましたが、ここから先はLeafさんの「痕」を
     プレイされていないと話が判りにくいかも知れません。
     しかし、プレイされてない方も、このままとりあえず読んでみて下さい。
     元ネタが判らない方のために、最後に今回は説明を付けました。



 第4話 嵐の始まり


 「暑い夏、青い海、白い砂浜・・・う〜ん、たまらないわねぇ〜」

 キノコアイスを食べながら、ビーチパラソルの下で座っている葵さんが、

本当に嬉しそうに呟く。

 パラソルの日陰からはみ出した葵さんの白い足に付いている水滴が、照りつける

日差しを反射して輝いている。

 こうして見てると、まるで週刊誌のモデルやレースクイーンくらいは十分に

務まりそうな気がする。

 「これでビールでもあれば最高なんだけど、って言うんでしょ?」

 「あら、よく判ってるじゃないの。

  やっぱり、夏は暑い場所でつめたいビールを飲むのが最高の贅沢なのよね☆」

さすがに今までつきあってくると、葵さんの言いたいことはすぐ判ってくる。

 「でも、駄目ですよ。

  こんな時にアルコールなんか飲んだら、あっというまに酔いがまわって大変な

 事になるからね」

 念の為、釘をさしておいた。

 実は、葵さんはアルコールは確かに好きだけれど、それほど強くはない。

 前にも、出かけたときにたまたまサウナのあるプールに行って、飲みたいからと

ビールをちょっと飲んでからサウナに入ってしまった事があって、そのときは大騒ぎに

なってしまった。

 一人でサウナに入ってた葵さんは、そのまま中で目を回してぶっ倒れたらしい。

 たまたま、一緒に行ってたつかさちゃんにさんに発見されて助かったのだが、そのまま

誰にも発見されなかったら、かなり危ないことになっていた。

 救急車のお世話にはならなかったけれど、丸一日葵さんは起きあがれず、結局タクシーで

帰宅した挙げ句、一晩中僕と涼子さんで看病する羽目になった。

 もちろん、回復した後で涼子さんにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
   
 「わかってるわよ。言ってみただけ」

 葵さんは苦笑いで手を軽く振った。

 まぁ、その一件以来さすがに気を付けるようになったらしい。

 ・・・ザバザバザバ・・・

 砂浜にうち寄せる小さい波の音だけが、涼しげに響いている。

 僕も葵さんの横に座り、見るともなく、海の方へと視線を走らせていた。

 普段、こんな時間は大学で授業を受けているかPiaキャロットで忙しく

働いているかしているだけなので、こうやってのんびりと葵さんと二人だけで

いられるという事に、くすぐったいような幸せな気持ちがこみ上げてくる。

 1年前のちょうど今頃、夏の始まりに、僕はPiaキャロットで葵さんに出会った。

 そして、その夏のバイトや、寮での生活。

 葵さんとの接点がしだいに増え、やがて知らず知らずの内に惹かれて行った。

 決定的だったのは、橋の上で思い詰めた表情を見た時。

 この人の、葵さんの笑顔が側に欲しい。同じ時を過ごしていきたい。

 結局、あっという間だったバイトの最終日、葵さんに告白した。

 そのときは既に想いは重ねていたけれど、本当に来てくれるかどうか不安だった。

 葵さんが公園に来てくれた時は、僕は、知らない人も含めて、全ての人に感謝したく

なるような、とてつもない嬉しい気持ちで一杯だった。

 それから1年。

 この夏は、葵さんと二人で過ごしている。

 しかも、ふたりっきり宿泊旅行。

 「・・・・・」

 僕は、さりげなく、砂の上に置かれた葵さんの手に、自分の手を重ねた。

 「・・・・・」

 「あ・・・・」

 ぱっ、と葵さんはその白い手を引っ込めてしまった。

 「え?」

 いつもなら、何も言わずに差し出された手を握り返したり、彼女の方から

その手を出して来たりしていたので、全く予想外の行動に戸惑ってしまった。

 「葵さん・・・」

 驚いて視線を海から移すと、そこには顔を真っ赤にしながら、僕の触れた部分の手を

反対側の手で隠している葵さんと眼が合った。

 赤くしている、といってもどうやら怒っているのではなさそうで、今にも泣き出しそうに

しながら震えてる。 

 「こ、耕治さん・・・」

 「・・・“さん”???」

 葵さんの声が、何故か妙に震えていて、しかも弱々しい。

 ただ、それ以上に驚いたのが、僕を「さん」付けで呼んだことだ。そんなことは、

今までに一度だって無い。

 (ど、どうしたっていうんだ、葵さん・・・)

 「葵さん、ど、どうしたの?」

 「な、なんでも・・・ないです・・・」

 「・・・“です”???」

 既に、言葉遣い自体まで普段の葵さんとは違っている。

 葵さんの今までの行動を冷静に振り返ってみる。

 (えっと、今日は朝、出発予定の時間に葵さんの部屋に行ったら、物の見事に

 ベットの上で爆睡してたんで、あわてて起こして、電車に乗った。

  二日酔いで頭が痛いと唸る葵さんを急かしながら、駅のホームを走った。

  で、4時間位電車の中で眠って、旅館のある駅で降りて、旅館に着いた。

  そして、旅館で水着に着替えて、海辺に来て、ちょっと泳いで・・・)

 どう考えても、原因が思いつかない。

 葵さんを見ると、視線を逸らして、両手を前で合わせてもじもじとしている。

 (か、可愛い。)

 周りと、僕の視線を気にしているのか、時々上目遣いにちらちらと視線を動かす。

 普段の葵さんからは想像の付かないような仕草。

 (・・・これはこれで結構良いかも・・・)

 一瞬、そんな考えが頭をよぎる。

 確かになにか恥じらう葵さんというのも実は可愛らしいという発見はあったが、

普段の、あの葵さんが自分は好きになったんだということを思い返した。

 ビールを片手に僕の背中を叩く葵さん

 倉庫整理の時に、励ましに来てくれる葵さん

 そして、あの夏の終わりに、公園で待ち合わせたときの葵さん・・・

 どれも全てが、僕にとってかけがえのない、大切な「葵さん」だ。

 やはり、葵さんにはいつもの「葵さん」でいて欲しかった。

 「ねぇ、葵さん・・・」

 はっきりと眼を見ようと、彼女の肩に手をかける。

 「・・・っ!」

 びくっ!、と激しく電気でも流されたかの様に、葵さんが震えた。

 「ど、どうしたんですか」

 ・・・・・ぱたっ

 葵さんは、次の瞬間、急に力を失ったかの様に、倒れ込んできた。

 「葵さん! 葵さん!」

 ・・・・・気を失っている。

 一体、何がどうなったのか判らず、呆然とするしかなかった。

 ゆっくりと、葵さんと旅行を楽しむはずだったのに。

 (何が起こったっていうんだ、一体)
    
 ざざぁん、ざざ・・・

 聞こえてくる波の音が、このときばかりは妙に苛立たしく思えた。


 〜〜第4話 終わり〜〜


 注3:元ネタについて
    Leafさんの「痕」というゲームでは、「セイカクハンテンタケ」という
    毒(?)キノコの一種が登場します。
    で、これを食べた人は、普段の性格とは180゜変わった行動をとってしまいます。
    例えば、非常におとなしい人は、やたらと凶暴になり暴れ回ったり、あるいは、
    普段荒っぽい人は凄くおとなしく気弱になったり、といった具合です。
    ちなみに、3話で登場したアイス売りの女性が、その「痕」でこのキノコを使って
   (悪気は無かったんですが)騒動を起こしてしまうのです。
   (ちなみに、柏木千鶴「かしわぎちづる」さんといいます)
    もし興味の有る方は、是非このゲームもプレイなさって下さい。
    あ、このゲームは18歳未満の方はプレイできません、念の為。


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