Piaキャロットへようこそ!2  

   Short Story#2  嵐の下見旅行っ!?

  注1:これは、葵さんとのEDから1年後の夏休みという設定です。
     現在別に創作している「GoGoウェイトレス!」とは全く
     別のお話です。
     ちなみに、主人公の耕治は大学へと進学し、葵さんは引き続き
     Piaキャロット2号店に勤めています。



 最終話 瞬きもせず


 ぱしぱしぱし・・・・・

 どこかで布団を叩くような音がしている。

 あ、どこかで布団を干してるんだったら、今日は良い天気なんだ。

 そっかぁ、そういえば最近干してないような気もするから、今日は

ちゃんと干そうかな・・・そうすればふかふかの布団でまた眠れるな。

 どこかぼんやりする頭の中で、そんなことを考えた。

 ぱしぱし・・・バシバシバシ・・・

 「ほら、とっとと起きるっ!」

 溌剌とした声が聞こえてくると同時に、背中に痛みが襲ってきた。

 「っ?、いてててて・・・・」

 あわてて辺りを見回すと、隣に葵さんが座っていて、こっちを見て笑っていた。

 寝間着姿ではなく、もう既に普段着に着替えている。

 「ふぅ、ようやく起きたわね。

 まったく、いくら呼んでも起きないんだから」

 「あ、葵さん。おはよ。

 ・・・って、僕より早く起きるなんて珍しいですね」

 ようやくはっきりとしてきた意識の中で、昨日の出来事が蘇ってくる。

 急に様子のおかしくなって、そのまま倒れてしまって・・・

 (でも、今はそんな昨日の様子なんて全然残ってないみたいだけど)

 にこにこと微笑んでいる葵さんには、ちょっと深刻そうに考え込んでいる

こちらを見て“?”という疑問詞が浮かんでいる。

 「葵さん、昨日は一体どうしたんですか?」

 今更遠回しに言っても仕方がないと考えて、単刀直入に尋ねてみた。

 「え?昨日って・・・

 昨日は、こっちに来て、海で泳いで、それから・・・・・あら?」

 口元に人差し指を充て、天井を見上げながら考え込む。

 「う〜んと、それから・・・えっと・・・

 ごめんなさい、その後どうしたのかどうしても思い出せないのよねぇ」

 たはは、と力無く苦笑いする。

 「え゛?」

 「夕べのこともですか?」   

 「夕べ?

 ごめん、海で泳いでいた事までは覚えてるんだけど、その後がさっぱり

思い出せないの。

 どう思い返そうとしても、頭の中にもやもやしたのが広がっていて・・・・・」 

 乾いた笑みを顔の表面に張り付かせたまま凍ってしまった。

 (もしかして、全然覚えてない?)

 昨日、あれだけの事を話し合ったというのに、まさか覚えてないとは。

 かなり恥ずかしい想いまでして、それで、お互いの気持ちを確かめたというのに・・・

 なにかずっしりと重い物が両肩にのしかかってきたような疲労感が襲ってきた。

 さっきまで清々しいと思っていた窓から見える青空が今となっては恨めしい。

 「でも、ね、何か夢を見ていたみたいで・・・」

 葵さんは、口元を隠して急にしおらしい態度になった。

 「夢、ですか?」

 葵さんの変化に戸惑いながら尋ねる。

 「う〜ん、多分夢だと思う。

 だって、何かあのときの耕治君、なんかいつもと違ってたし」

 「え、夢の中に僕が出てきたんですか?」

 不思議そうに尋ねる僕に対して、葵さんは視線をずらした。

 「え、あ、うん・・・ちょっと、ね。

 でも、もうちょっとの所で目が・・・ごにょごにょ」

 「?」

 何故か葵さんは視線を合わせようとはせず、あさっての方を向きながら赤くなっている。

 (どうしよう、昨日の事について説明しょうか・・・)

 葵さんに、昨日のことを正直に話そうかどうか迷った。

 ただ、もし説明するとしたら、昨日のものすごく恥ずかしい思いをしなければならないし、

話したとしても、あの気持ちが今の葵さんの本心かどうか正直言って判らない。

 結局、昨日のことについては曖昧にごまかしてしまった。

 ただ、葵さんは泳いでる途中で具合が悪くなってすぐに旅館に戻って休んだ、と言うことに

した。

 今となっては、あのときの葵さんの気持ちが本当であることを祈るだけだった。

  〜〜〜〜〜〜〜

 「・・・・・・・・・・・・」

 「あ、あははははは・・・・」

 「でもね、涼子。本当にすっごくいい所だったのよぉ〜」

 「・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・」

 気まずい雰囲気が部屋に流れている。

 閉店後のPiaキャロットで、僕と葵さん、そして涼子さんだけが残っていた。

 というのも、本来頼まれていた「下見」の件について、涼子さんが尋ねてきたのだが・・・

 あの葵さんの騒動で、涼子さんに頼まれたことを全部すっぽかしてしまったのだ。

 「私は、旅館の部屋とか設備、宿までの交通、海水浴場やその周りの様子についても

 ちゃんと調べてきてね、ってお願いしたと思ったんですけどね」

 あ、涼子さんの顔がちょっと引きつっている。

 「まぁ、過ぎたことをとやかく言っても仕方がないわね」

 そこまで言うと、涼子さんは大きくため息をひとつついて、疲れた、というように

肩をすくめた。

 (ほっ、助かった)

 その涼子さんの一言に、ほっと安堵して葵さんと眼が合う。

 その行動を予想してか、涼子さんはちょっと冷たい笑顔でこちらを見つめている。

 「・・・ただし、耕治くんはこれから一週間の間、倉庫を担当して貰います。

 そして、葵、あなたはこれから一週間、閉店前の最後の掃除を一人でお願いするわ」

 「「えぇ〜っ!?」」

 悲鳴が見事にハモる。

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 「よっこい・・しょっと」

 入り口に積まれていたダンボール箱の最後の一個を片づけ終わって、ようやく今日の

Piaキャロットで仕事が終わった。

 「お疲れさま。はい、差し入れよ」

 ちょうどそこに、最後の掃除が終わった葵さんが缶ビールを2本持って入ってきた。 

 「あ、どうもありがとう」

 そのまま2人並んで壁際に座り込む。

 カシュ、とフタを空けて一気に半分くらい飲む。

 「くぅ〜っ、やっぱり仕事の後のコレはホントにいいわねぇ〜」

 ホントに気持ちよさそうに葵さんが目を細めながら言う。

 それを見て、僕は数日前から考えてた事を葵さんに打ち明けようと決めた。

 「葵さん」

 「ん? 何?」

 「さ来週あたりに、二人でお休み取って旅行に行きませんか?」

 「えっ・・・・」

 突然の台詞に硬直する葵さん。

 あ、ちょっと可愛いかも。

 「・・・この間の下見旅行は、なんかドタバタしていてあんまりゆっくり出来なかったでしょ?

 だから、今度はもっとゆっくり出来る旅行を葵さんと・・・したいと思ってね」

 何秒かの間動きを止めていた葵さんは、ビール缶を抱えている指先をもじもじと動かしている。

 「・・・・・・・・・・ありがとう」

 「じゃ、OKですね」

 「う〜んと、一つだけ条件が有るんだけど、いいかしら?」

 「?」

 まさか、すっごく高級なところ、とか言うのかな?

 どきどきしながら葵さんの言葉を待つ。

 「・・・露天風呂があって、その中でビールが飲める旅館にしてね」

 「・・・・・」

 葵さんと僕の視線が絡み合う。

 「ぷっ・・・あはははははは」

 「なによ〜、そこまで笑うこと無いじゃない」

 葵さん自身、笑いながらもビールの缶を床に置き、口を尖らせて抗議する。 

 「いや、葵さんらしくって。

 多分そう言うだろうと思って、もう場所は探してありますよ、そういう宿」

 その答えに嬉しそうに頷いた後で、葵さんは空を見上げるように天井を見つめる。

 「・・・“私らしく”、かぁ・・・」

 なにかを思い出すような仕草で呟く。

 その様子は、どこか幸せそうだった。 

 何となく暖かい気分のまま、二人並んでじっとしている。

 あの下見旅行以来、なにかちょっとだけ変わったような気がする。

 面と向かって尋ねて確認したわけではないけれど、雰囲気というか、どことなく

今までと違うんじゃないかな、って感じたのは恋人として当然・・・なんて自惚れかな。

 お互いに視線を合わせないまま、どちらからともなくそっと手をつないだ。

 葵さんのぬくもりが指先を通して伝わってくる。

 この暖かさを感じる為だったら、どんなに辛いことがあっても頑張っていける。

 これからも、ずっと。

 葵さんが葵さんらしくいられるように、そして、自分自身がその側にずっと・・・・・

 そのままお互いに体を寄せ合って顔を向かい合わす。

 目を閉じて・・・、あと10センチ、5センチ・・・

 カタン・・・

 「「?」」

 入り口のドアの方から何か物音が聞こえた。

 閉じていた目をぱちりと二人同時に開く。

 「ん、何・・・?」

 「しぃ〜っ・・・」

 驚いて声を上げようとする僕の口を葵さんが人差し指で制した。

 そして、そのままドアの横まで足音を立てずに歩き、そぉっとドアノブに手をかけたかと思うと、

一気にそのノブを回してガチャリとドアを開け放つ。

 「きゃぁ〜」

 「あっ・・・」

 「あん、みつかっちゃったぁ〜」

 「・・・・・・・」

 いきなり人影の塊が倉庫部屋になだれ込んできた。

 「あずさに美奈ちゃん、つかさちゃん・・・涼子さんまで・・・」

 「いや、誰か居るのかと思って・・・」とあさっての方に視線を向けて呟くあずさ。

 「ごめんなさぁ〜い」とは素直な美奈ちゃん。

 「う〜ん、今後のさんこうになるかな〜って・・・」と何故かにこにこしてるつかさちゃん。

 「で、涼子はどうしてココに?」

 葵さんが意地悪そうな笑みを浮かべながら腕を組んで尋ねる。

 「あ、ほら、いやね、やっぱり最後の戸締まりはちゃんと確認していかないといけないから、

 それで、あちこちの部屋を回って、最後にココに来たら、なんかみんな集まってて・・・」

 顔を赤くしながら必死で説明する涼子さん。

 「う〜ん、まぁいいわ。

 とりあえず、もう遅い時間だし、はやく帰りましょ」

 「でも葵。なんか最近何かあったんじゃない?」

 「あ、それは美奈も思いました。

 一緒にお仕事してても、ちかごろは妙に明るいし・・・」

 「うん、間違いなく何かあったと思う。

 ねぇねぇ葵さん、何があったのぉ?」

 涼子さん、美奈ちゃん、つかさちゃんに同じ事を質問され、さすがに困った顔になる。

 「や、やぁねぇ、変わってなんか無いわよ。

 みんなの気のせいだってば・・・

 ねぇ、耕治くん?」

 「う〜ん、そういえばちょっと太りまし・ぐぇっ・・」

 最後まで言い終えない内に強烈なエルボードロップが脇腹に炸裂した。

 その光景をみて笑う涼子さん達。

 (なんとか話を逸らそうとしただけなのに、思いっきりすること無いじゃないですか)

 無言の抗議の視線に当の葵さんは知らん顔をしている。 
 
 「さ、レディーに対して失礼な事を言う馬鹿はほっといて帰りましょ」

 そのまま涼子さんの背中を押して更衣室へと向かう葵さん。
 
 「耕治さん、お疲れさまでしたぁ〜」

 「じゃぁねぇ」

 美奈ちゃんとつかさちゃんも後に続く。

 脇腹を押さえたまま壁により掛かっている僕だけが残された。

 ふぅ、と大きく息をつく。

 遠くの方から、葵さん達の笑い声が聞こえてくる。
  
 葵さんは、部屋を出る時にこっそり腰のあたりでこちらに向けてVサインを出していた。

 結局、あの時の様子の変わった葵さんの原因については判らなかったけれど、旅行以来

確かに何かが変わったのかも知れない。

 そう言う意味では、今回の出来事は凄く大きな意味を持っていたのかもしれない。

 あの公園で約束してから1年。

 また、今年も暑い夏がやってきた。

 今年の夏は、まだ始まったばかりだ。

 この夏、いったいどれだけの出来事が起こるんだろうか?

 そして、来年はどんな風になっているんだろうか・・・・・

 ただ、一つだけ言えることは、今日も葵さんとアパートでビールを一緒に

飲むに違いないと言うことだった。


  Piaキャロットへようこそ!2 Short Story#2

        嵐の下見旅行っ!?  END
 


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