こみっくパーティー  

   Short Story#1  ガラス越しの真実

 注: これは、牧村南さんの12/1の夜に発生するイベントの時のお話です。
   おもいっきりネタバレになりますんで、未プレイの方は見ない方が賢明です。
   もしかしたら、南さんはこんな事を思っていたのかも、なんて考えて作っちゃいました。


 (本当にごめんなさい・・・)

 言葉には出せないけれど、ひたすらその寝顔に謝る。

 疲れ切った様子で、机に伏して目を閉じているその横顔。

 けれど、どことなく微笑みが浮かんで見えるのは、私の気のせいかしら?

 私の勝手な思いこみ?

 せっかくの日曜日、わざわざ私の仕事なんて手伝いに来てくれて・・・

 朝から始めた作業も、終電近くになってようやく終わった。

 既に疲れ切った人達は「お先に」と言ってその疲れた体を引っ張るかのようにして

家路へと向かっていた。

 そして、最後に残ったのは、私とこの子だけ・・・

 あまりにも気持ちよさそうに眠っていたので、起こすのもかわいそうだった。

 それに、もうすこしこのままこの子の寝顔を見ていたかった。

 (本当にこんな弟がいたら良かったな・・・)

 「・・・・すぅ・・・・すぅ・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 思えば今年の春、いままでは話にしか聞いたことの無かったこの子を、大志君に紹介された

所から、なにかが変わったような気がする。

 電話で、そして準備会のこの部屋で、この子はいつも明るく話しかけてきてくれた。

 設営でも嫌な顔一つしないで毎回手伝いに来てくれた。

 力仕事の後で、疲れていながらも微笑みながら話しかけてくる。

 (この子が実の弟だったら・・・)

 そんなことを思う事が時々あった。

 ずっと一人っ子だった私は、妹とか弟とかに憧れていた。

 いつからか、この子がこの仕事場に顔を出しに来るのを私は待っている。

 そんな寝顔を見ている私を、どこかで誰かが見ているような気がした。

 (・・・本当に弟でいいの・・・?)

 第三者ではなく、まぎれもない私の中で声がする。

 (・・・・いいの、よ)

 また別の私が答える。

 その言葉に、また別の、私の中の誰かが笑ったような気がした。

 (彼は、あなたをお姉さんとして見ている?

  ・・・本当はあなたのことをどう思ってるのかしらね)

 「・・・っ!」

 ずきん、と胸の奥に痛みが走る。

 今までずっと考えないようにしていた事。

 そのことを考えるのが恐くて、逃げ回っていた事。

 本当は、眠っているこの子の心に入り込んで知りたい真実。

 (あなたは・・・私のことをどう思っていますか?

  姉みたいな存在? それとも・・・・・・・・)

 尋ねたい、けれど、尋ねたらもう今までの関係は続けられない。

 今までの関係が、すべてその一瞬で崩れ去ってしまう。

 それが恐かった。

 この二人でいられる時間を失いたくはなかった。

 「・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 目の前のこの子の寝息だけが響く。

 ピピピピピ・・・・・・・

 腕時計が、終電までの時間が迫っていることを告げる。

 (もうちょっと、このままでいたかったけど)




 「でも、いいんですか?」

 帰り道、会話が途切れたこともあってついこの言葉を言ってしまった。

 内心、「いけないっ!」って思ったんだけど、いまさら変に会話をずらして

変な風に見られたくなかったので、できるだけ冷静を装って言葉を続けた。

 「今日みたいなお休みの日は彼女と一緒に過ごしたり。何処かへ遊びに行ったりしなくても

  良かったんですか?」

 ドキドキドキドキ・・・・

 鼓動がものすごく早くなっているのがはっきりと判る。

 正直、よくどもらずに言えた、と思う。

 もし、これで「今日は彼女の予定が合わなくって暇だったから」とか言われたら、私は

どういう表情をすればいいのかしら?

 弟に対してだから「ごめんね」っていうのが一番なんだろうけれど、正直、その場で泣き出して

しまうような気がする。

 実際には3メートルも歩かない間の時間が、とてつもなく長く、まるで実家に帰るまでの電車の中のように

感じられた。
  
 早鐘のように打つ鼓動が、この子に聞こえるんじゃないかと心配になる。

 「・・・俺、彼女とか・・・いませんよ」

 「え・・・」

 すぅっ、とたった今まで激しく体中を駆けめぐっていた血液が一瞬の内にどこか別の次元へ飛んでいったかの様に、

体の力が抜けていった。

 (そっか、彼女さんはいないんだ・・・)

 このときになって初めて、何故か安心したのと同時にこの弟みたいな男の子に「もっとがんばりなさいな」という

気持ちを持てるだけの余裕ができた。

 「それなら、好きな人と何処かへ行くとか・・・」

 「好きな人は・・・いるよ」

 “やっぱり・・・そういう女の子はちゃんといるんだ・・・”

 (彼女さんではないけれど、“好きな人”か・・・)

 脳裏に、コミパで良くこの子と話をしている由宇さんや詠美さん、そして、いつもこの子の横で

売り子をしている大きなリボンの女の子が現れた。

 (このなかの・・・だれかなのかしら?)

 それを考えると、やはりとても辛く苦い気持ちになる。

 “あなたは、お姉さんなんだから・・・”

 自分にそう言い聞かせる。

 さっきの、自分の中からの疑問の声に対抗するかのように。

 だから、私が何とかしてあげようと思ったんだけれど、何故か怒られてしまった。

 そして、ちょっと強引にショーウインドーの前に立たせられた。

 「今度は・・・へんなボケ方しないで下さいよ。

 俺が好きなのは、そこに映っている人です」

 一瞬、何を言われたのか判らなかった。

 心の奥底でずっと期待していた言葉。

 街灯のせいでガラス越しには彼の顔は見えなかったけれど、両肩に置かれた手が、

とても大きくて暖かく感じられた。

 “あなたは、お姉さんなんだから・・・”

 さっきの言葉が蘇る。

 (ねぇ、私はどうしたらいいの?

  何て言ったらいいの?)

 もう、自分の中に問いかけても返事は戻ってこなかった。

 「俺のこと、嫌いですか?」

 (そんなことは絶対にないの。

  ただ、ただ、私はどうして良いか判らないの・・・)

 「す・・・少しだけ・・・時間を下さい・・・・」

 この一言を言うのが精一杯だった。

 実際、そのあとどうやって家に帰ったか記憶がなかった。

 そのままの服で、ベットに倒れ込んでずっと考えていた。

 あの、駅で別れるときに見たあの子の顔。

 嫌われたとか、振られたとか思っている表情だった。

 (ちがうんです。

  嫌いなわけ無いじゃないですか)

 ただ、今は頭の中が真っ白で何を言って良いか判らないから・・・・・

 「けど、私はお姉さん失格かもしれないわね」

 誰も居ない部屋で、独りつぶやく。

 それでも、悲しい気持ちではなかった。

 それが、本当の気持ち。

 それが、真実。

 そして、あの子、いや、あの人が出てくる夢を見る。

  〜〜〜 終 〜〜〜


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