Kanon

Short Story#1  雪の辿り着く場所

 注: これは、名雪とのED後まもなくという設定です。
    ただ、何故か全キャラとの面識を主人公は持っています(笑)
    そこらへんの細かいツッコミは勘弁して下さい。(^^;


  第13話 白銀は驚くよ!?


 人気の無い雪道を歩くふたつの姿があった。

 本当はじっとしていた方が良かったのかも知れないが、雪那の様子からするとかれこれ

2,3時間は誰も通りかからなかったらしいので、それでは歩いて自分から探しに行った方が

良いと名雪は判断した。

 念の為、雪那にも確認したが、名雪と一緒なら独りよりも多少安心出来るのか、名雪と一緒に

帰り道を探すことに賛成した。

 名雪と雪那は、より多くの轍の跡が残っている道を選んで歩きだしていた。

 本当は、“なんとなく”名雪がそうした方がいいと思っただけだったが、さすがにそれは雪那には

告げずに、にっこり微笑んでごまかしてしまっていた。

 「ねぇ、雪那ちゃんはどこから来たの?」

 「・・・・・・・・」

 もしこの場に祐一がいたら、“それが判らないから迷子になったんだろうが”と言いながら

名雪の頭をぺし、と叩いたに違いない。

 さすがに今現在名雪の側にいる雪那は、そんな突っ込みなど入れるはずもなく、どう答えて良いのか

判らずに困ったような表情で名雪を見上げていた。

 「じゃあ、もしかしたら私と同じ所から来たのかな。

  温泉とかがたくさんあった町なんだけど?」

 その問いには、申し訳なさそうに雪那は首を横に振った。

 ちょっとだけ残念そうな表情をその反応に見せた名雪だが、また明るい表情に戻った。

 「ね、それじゃ雪那ちゃんはどんな場所に住んでるの?」

 また投げかけられた名雪の質問に、雪那は今度はすこし視線を宙に泳がせて考える。

 しばらく間をおいてから、

 「・・・・・雪。雪がいっぱいある場所」

 「う〜ん・・・」

 今度は名雪が困った表情になる。

 今二人がいる場所もその表現通りの場所なのだから、さすがに名雪にもこれでは想像がつかない。

 「えっと、他に何か目印になるものは無いの?

  建物とか、景色とかで」

 今度は困った表情にはならないでに考え込む雪那。 

 「・・・・・・・・・・・山」

 「・・・え?」

 「山がたくさんあって、樹がたくさんあって・・・」

 「あはははは・・・」

 名雪が首をがくっと傾けながら乾いた声で小さく笑った。

 「ねぇ雪那ちゃん。近所のお家とか、知り合いの人とかは?」

 苦笑しながらの名雪の言葉に、雪那はぴくっと体を震わせた。

 そして、歩みを止めて俯いて悲しそうな顔になった。

 「いないの、誰も。・・・・・おかあさん、だけ」

 「あ・・・ごめんなさい」

 名雪も尋ねてはいけなかった事に気付いて、慌てて雪那の正面から視線の高さを合わせるように

屈み込んで謝った。

 「ほんとにごめんなさい」

 真っ正面から大きく名雪に頭を下げられた雪那は、一瞬驚いた様に名雪を見た後でゆっくりと首を

横に軽く振った。

 「いい。名雪さんに悪気が有ったわけじゃないから・・・」

 その言葉を聞いてから、名雪は下げていた顔を戻す。

 「ありがとう。でも、実は私もおかあさんだけしかいないんだ。 
 
  おとうさんの事は全然覚えてないんだよ」

 「え・・・そうなんですか?」

 雪那は今度は驚いた表情のままで名雪を見ていた。

 「うん、本当だよ。

  名前も“雪”が付くし、なんかほんとに私たちって似てるんだね」

 にっこり笑顔で雪那を見る名雪。

 「・・・・」

 一方、見られている雪那は何か言いたそうな表情を少し垣間見せたが、結局言葉は出さなかった。



 「えっと、さっきはここからスタートしたんだよな」

 その頃、名雪を捜し始めた祐一はさっき二人で競争をしようと言い出した地点まで戻っていた。

 リフトで登ってくる時に上から見回していたが、やはり名雪らしい姿は見えなかった。

 そうなると、途中でどこか別のコースに行ったのではないかと考えた。

 そして、今度は非常にゆっくりと周りを見回しながら滑り始めた。

 それほど多くないスキーヤーの中で、名雪の姿を見落とす可能性はきわめて低い。

 さらに、どこかに分かれ道が無いかとコースの両端にも気を配って祐一は滑っていた。

 途中、いくつかコース中に分岐点は見つかったものの、よく見るとそれらは難易度が違うだけのコースで、

下の方でさっき祐一がいた場所へと集まっていた。

 「まいったなぁ・・・どこではぐれちまったのかな・・・」

 コースもあと残り少しという地点まで来て、祐一は一度立ち止まった。

 さっきの記憶を辿れば、確かにこのあたりで最後に名雪の姿をちらっと見たような気がする。

 そして、一度立ち止まって周りを見回すと、コースの隅に見覚えのあるウェア姿が立ち止まっていた。

 「あれ、佐祐理さん?」

 ゆっくりと滑って近づいていくと、佐祐理さんはじっと何かを見つめるように動かなかった。

 次第に近づいて、佐祐理さんが見ている視線の先を追うと、比較的小さな道がそこから続いていた。

 その道はあまり利用されていないのか、それほど人の通っていないらしく、スキー板の跡も数えるほどしか

残っていなかった。

 「佐祐理・・・さん?」

 自分が直ぐ近くまで近寄ったのに何の反応もない事を疑問に思ってそっと後ろから声を掛ける。

 「はい?・・・・わぁっ!?」

 「おわっ!?」

 一瞬、 どこか上の空のような返事があったと思った次の瞬間、大きな声を佐祐理さんはあげて飛び上がった。

 思わず声を掛けた祐一自身もびっくりする。

 くるっと振り返って祐一の姿を見た佐祐理さんは、大きく見開いた目を直ぐに細めてにっこりと微笑んだ。

 「あ、祐一さんだったんですか。いきなり声を掛けられたんでびっくりしてしまいました」

 そういって舌を少し出して照れたように微笑む。

 その様子がどことなく疲れたような感じに祐一には見えた。



 第13話 終わり



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