Kanon

Short Story#1  雪の辿り着く場所

 注: これは、名雪とのED後まもなくという設定です。
    ただ、何故か全キャラとの面識を主人公は持っています(笑)
    そこらへんの細かいツッコミは勘弁して下さい。(^^;


 
   第5話 白銀はきれいだよ!?


 次の日の朝。

 目覚ましも何もしていなかったのに、普段起きている時間よりもかなり早く目が覚めてしまった。

 今から寝直すと今度はちゃんと起きられる自信がなかったので、仕方無しにベッドから降りて

窓にかかっている分厚いカーテンを思いっきり開ける。

 「おお〜っ」

 シャー・・という音と共に目の前に広がる一面の白、白、白。

 ちょうどゲレンデを見上げる格好の位置にあるこの窓からは、ちょうど快晴の空から朝の光が

金色に雪の斜面を染めている光景が飛び込んできた。

 まだリフトも動いていないのか、コースにも人気が全くなく、本当にどこか秘境にでも来たかの

様な錯覚を感じてしまうほどだった。

 しばらく、柄にもなく景色に見とれてしまった。

 普段送っている慌ただしい学生生活がまるで夢だったんじゃないかと思ってしまうような、

そんな時間の流れが感じられないような場所で、一人、景色を眺めている。

 ひとり・・・

 (・・・名雪がこの景色を見たら、なんて言うかな・・・?)

 雪景色が好きな名雪のことだから、きっと満面の笑みで見てくれるんじゃないかと思ってしまう。

 そう考えると同時に、名雪の寝ている部屋へと向かった。

 ある意味貸し切り状態なので部屋が有り余っていたこともあり、全員が個別の部屋に別れて

泊まっていたのだが、まだ誰の部屋からも物音一つ聞こえず、誰も起き出していないみたいだった。

 ただ、階下のほうからは物音がしているので、すでに宿の人たちが朝の準備をしているらしい。

 微かに美味しそうな香りがしてくる。

 夕べの食事も秋子さんのそれと負けず劣らずの美味しさだったので、つい期待してしまう。

 そんな廊下を歩いて、名雪の寝てる部屋の前まで行く。

 トントン・・・

 軽いノックくらいで起きる名雪ではない事は百も承知だが、さすがに一応(というと「ひどいよ〜」と

怒られるが)女の子の部屋にはいるのだから、念に為にドアを叩いてみた。

 普段ならドカンドカンとドアを叩くのだが、さすがにここでは控えめに叩いた・・・

 毎日のあの激しいノックでも起きない名雪だから、もちろん反応は無かった。

 「・・・入るぞ〜」

 一声かけてドアノブを捻ると、カギはかかっておらず、すんなりとドアが開いた。

 「名雪〜、朝だぞ〜」

 「・・・く〜」

 カーテン越しに薄日の差し込んでいる部屋の奥のベッドから、返事の代わりに妙に間延びした寝息だけが聞こえてきた。

 ベッドに近づくと、いつも使っているお気に入りのパジャマを着込んだ名雪が丸くなって寝ている。

 さすがに“けろぴー”は持ってきてはいない様だ。

 どこか幸せそうな表情を浮かべながら眠っている名雪を見ていると、こちらまで妙に落ち着いてくる。

 ・・・その寝顔をぼーっとみて起こすのが遅れってしまって遅刻した、なんて事も実際にやってしまった事もあった。

 「どうして起こすの遅れたの?」

 という名雪の質問に正直に答えるのがやたら恥ずかしかったこともあって、そのときは「俺も寝坊した」と言って

ごまかして逃げたことも・・・実はあったりする。

 (この幸せそうな寝顔見てるとホントに起こすの躊躇っちゃうんだよなぁ・・・)

 まだみんなが起き出していないし、さてどうしようかな


 すると、どこかでカチッと音がしたかと思うと、急に男の声が聞こえてきた。

 それもどこかで聞いたような声が。

 「名雪・・・俺には、奇跡は起こせないけど・・・」

 一瞬頭の中が真っ白になり、思考が停止した。

 「でも、な・・・」

 ガチィッ!、と音がするほど激しく叩いてそれ以上の台詞が出てくるのを止めた。

 「はぁ、はぁ・・」

 運動をしたわけでもないのに、動機が激しくなっている。

 さっきまでの清々しい気分がどこかに一瞬で消し去ってしまった。

 自分の告白シーンの声なんて聞いて気持ちいい男なんてまずいない。

 けど、まさかこの旅行にまであの目覚ましを持ってくるとは思わなかった。

 あれから何度も「使うのはやめろ」と言ってるが、どうにも止めてくれる気配はないらしい。

 前に半分以上本気で中身を消そうとしたのだが、そのときは名雪に

 「消そうとするなんて・・・・私に言ってくれたこの言葉は嘘だったの?」

 と上目遣いに迫られてしまい、結局こちらが折れる羽目になってしまった。

 「・・・ん〜・・・・あ、おはよ、祐一」

 こちらが呼吸を整えようとしているうちについ今まで気持ちよく寝ていた名雪がむっくりと起き出した。

 「おはよ」

 ちょっとぶっきらぼうに言った。

 「・・・?」

 名雪は不思議そうにまわりをきょろきょろと見回す。

 「名雪? どうした?」

 「えっと・・・目覚ましは?」

 「止めた」

 すると、不機嫌そうに口元をちょっと尖らせた。

 「え〜何で止めたの〜?」

 「何でって別に良いだろ、起こしに来たんだから」
 
 「だって・・・朝、あの目覚まし聞かないと、すっきり起きられないんだもん」

 言われて、内心かなり恥ずかしかったのだが、それを出さないようにしながら答える。

 「いいじゃないか、起きたんだから」

 「すっきり起きてないもん・・・・・あ、祐一が言ってよ」

 良いこと思いついた、というにこりとした笑顔に一変して名雪がとんでも無いことを言い出す。

 「・・・?」

 「目覚ましと同じ事、言ってよ」

 「い、言えるかよそんな事」

 いきなり予想もしない事を言いだした名雪にかなり焦る。

 (ホントに・・・まだ目が覚めてないのかな?)

 寝ぼけながら会話の成り立つ名雪のことだ、これくらいも寝ながら言っているという可能性もある。

 ちょっと名雪のほっぺたをつねってみようかと手を出そうとしたときに、後ろから声が聞こえてきた

 「・・・朝からお熱いみたいね・・・」

 いつの間にか、腕を組んでドアの枠に背中を預けながら立っていた香里があきれた声で言う。

 「うらやましいです〜」

 と脇からひょっこりと顔を出す栞。

 「あ、香里、それと栞ちゃん、おはよ〜」

 何事もなかったように名雪が言った。

 こっちはびっくりして思いっきりのけぞっているというのに・・・

 「・・・ん?、祐一、何してるの?」

 名雪は、こっちの気持ちなんて全く分からないかのようにキョトンとして俺の様子を見ていた。

 そんな、はじまりの朝だった・・・



 第5話 終わり


  <NOVEL PAGEへ戻る>  <第6話へ続く>