とらいあんぐるハート2

Short Story#1  神咲薫SS

 日曜日、晴れた空と今川焼きと・・・ (エピローグ)


  注:これはJANIS/ivoryさんの「とらいあんぐるハート2」の
   あるイベントを基に作成しております。
    未プレイの方、若しくはこれからプレイされる方はネタバレな要素を
   含んでおりますのでご注意下さい。


 ・・・・・ストン・・・・・・

 夕暮れの中、静かに一人ベンチに座る影。

 「・・・耕ちゃん・・・」

 長い髪を風に吹かれるに任せ、その黒い服と同じように暗い影を横顔に落とす・・・瞳。

 薫の想い人を見てみよう、と尾崎と相談してこっそり様子を見に来たけれども、そこで見たのは、

紛れもない初恋の相手、耕介だった。

 その時は出来るだけ平静を装っていたので尾崎には気付かれないようだった。

 ただ、「ちょっと用事があるから」といって先に帰って貰って、その尾崎の姿が

見えなくなった途端、倒れ込むかのようにベンチに崩れ落ちるように座り込んだ。

 もう会わなくなって何年も経つけれど、あの姿は間違えようがない。

 またいつか逢えるから、そうずっと思っていた。

 そして、確かに今日、耕介さんに会えた。

 ・・・・・薫の恋人として。
 
 そう、もうずっと前から判っていたのかもしれない。

 いつかこんな日が来るんじゃないかって。

 頭の中では、わかっているつもりだった。

 でも、それでも、この苦しさは消えない。辛さは消えない。

 あの事件のあと、何度も謝りに行こうかと思って耕ちゃんの家の前で立っていた。

 「・・・ごめんね、投げ飛ばしちゃったりなんかして」

 その一言を伝えれば、きっとまた今まで通りでいられるんじゃないかって・・・

 でも、できなかった。

 怖さと、恥ずかしさと、そして姉さんの、耕ちゃんと話しているときの楽しそうな横顔。

 いろんな気持ちが入り交じって、自分がどうして良いか判らなくなる。

 そして、門を叩けずに帰ってくる。その繰り返しだった。

 そのまま、急に引っ越しが決まって、私は耕ちゃんと結局逢う事はなかった。

 姉さんも、結局耕ちゃんとは付き合わなかった。

 その事で、逢えない寂しさと、どこかで安堵している自分に気付いてはっきりと判った。

 (私は、耕ちゃんの事が好きだった)

 ただ、もう同時に取り返しの付かない状態になってしまっていた。

 何年かぶりで偶然出会ったら、親友の女の子と恋仲になっていた。

 あの雰囲気を見れば、お互いが相手をどう思っているか位は自分にだって判る。

 「初恋って実らないとは言うけれど、本当なのね・・・」

 独り俯いて呟く。

 
 その晩、瞳の部屋から灯りが漏れることは無かった。

 ただ、盛り上がった薄い布団が明け方まで震えていた。


 「おはよ〜」

 「おはよう」

 教室に入るなり、尾崎と瞳は薫の席の前に立った。

 「・・・背の高い、かっこいい人ね」

 唐突に尾崎が言った言葉に、しばらく何のことか判らないで「?」としていた薫が、

次第に赤くなっていく。

 「・・・な、なんでしってるんだ、そんな事」

 「いや〜、ちょっと偶然見かけちゃってな、瞳」

 「う、うん、そうそう、偶然よ、偶然」

 あからさまに怪しい口調の尾崎と薫をじ〜っと見る。

 その時、教室のドアががらっと開いて、小走りに女の子がやってきた。

 「尾崎せんぱ〜い、今日の帰りにすきなものごちそうしてくれるんですよ・・・ね・・・」

 その台詞は最後まで言えなかった。

 丁度尾崎と瞳の影に隠れていた薫の刺すような視線に、教室に飛び込んできた薫と同じ

さざなみ寮生のみなみがようやく気付いた。

 「あ・・・薫・・・せんぱ・・・い・・・

  いたんです、か・・・」

 ぴたっと走りかけの体勢のまま凍り付くみなみ。

 「そうか。そう言うことか。

  帰ったらゆっくり話すことがあるからな、岡本」

 目が笑っていない薫の笑顔に圧倒されて、みなみがそのまま回れ右をして逃げ出した。

 「・・・・・あはは」

 「・・・・・すまん」

 謝る瞳と尾崎。

 その様子を見ていた薫は、大きく肩を落として息をついた。

 「まぁ、無理に隠すことはないからよか。

  いずれ紹介するつもりだったし」

 「でも、なかなか良い雰囲気だったじゃないか」

 「そう、きっとうまくいくって」

 腕組みしながら尾崎が、薫の肩を叩きながら瞳が言った。

 その応援に照れ笑いの薫。

 (そう、きっと、うまくいくわ。

  薫と、耕ちゃんなら・・・・・)

 まだ完全に気持ちの整理が付いたわけじゃない。

 けれど、少しずつ、変えていこうと思う。

 2人とも、自分が好きになった人なんだから、応援してあげよう・・・ 



 その日の昼休み。

 「わぁっ!・・・」

 階段を上っていたら、急に女の子がバランスを崩して落ちてきた。

 「しん・・・・」

 男の友達が伸ばした手も間に合わない。

 私も、急だったので体の正面で受け止めるのが精一杯で、そのちっちゃい子は

私の胸に顔を付ける状態で倒れ込んできた。

 女の子みたいな顔をした・・・男子学生服を着た・・・男の子・・・



  〜〜日曜日、晴れた空と今川焼きと・・・ 完〜〜


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