神話(古事記)に登場する桃の実
国生みを終えた伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)はその後、山の神や海の神、岩、土、風、木、五穀など数多くの神々を生んで行きます。しかし最後に火の神(火之迦具土命)を生んだときの火傷が原因で伊邪那美命は死んでしまい、黄泉国へと旅立ちます。
やがて妻を亡くした伊邪那岐命は愛しき妻をこの世に連れ戻すべく黄泉国を訪れます。そこで再会した伊邪那美命と互いの約束を交わすのですが、「けっして中を見てはいけません」という妻との約束を破ってしまった伊邪那岐命は伊邪那美命に見つかりその逆鱗にふれ、黄泉醜女(よもつしこめ)と黄泉軍勢(よもついくさ)に後を追われてしまいます。 |
(以下 古事記原文より) 且後者。於其八雷神。副千五百之黄泉軍。令追。爾拔所御佩之十拳劍而。於後手布伎都都【此四字以音】逃來。猶追。到黄泉比良【此二字以音】坂之坂本時。取在其坂本桃子三箇持撃者。悉逃返也。爾伊邪那岐命告桃子。汝如助吾。於葦原中國所有宇都志伎【此四字以音】青人草之落苦瀬而。患惚時。可助告。賜名号意富加牟豆美命【自意至美以音】 |
(解説) 其の後、八はしらの雷神が千五百の黄泉軍勢を率いて追ってきた。伊邪那岐命は腰に帯びていた十拳劒(とつかのつるぎ)を抜いて後ろ手に振りながら逃げ来たが、さらに追ってきた。黄泉比良坂(よもつひらさか=黄泉と現世を隔てる坂)坂もとまで来た時、その坂もとにある桃の実を三つ持ち軍勢が来るのを待って投げつけると、軍勢はことごとく黄泉国へ逃げ帰った。伊邪那岐命はその桃の実に向かって、「汝、吾を助けた如く、葦原中国(あしはらなかつこく=高天原と黄泉国のあいだの国=現世)にいる全ての人々が苦しい目にあって思い悩んでいるとき、助けなさい。」と告げ、桃の実に意富加牟豆美命(おほかむづみのみこと)という名を賜わせた。 |
古事記はこの後、 黄泉国から戻った伊邪那岐命が、筑紫(つくし)の国の日向(ひむか)の橘(たちばな)の小門(おど)の阿波岐原(あわぎはら)において、黄泉国で穢れた心身を禊祓(みそぎはらえ)を行い、三貴子(天照大御神・月読命・素盞鳴尊命)の誕生へと続きます。 |