

岸先生の演奏会メモランダム岸 美宏 (LSOT旧指導者) |
| ◆成人の日。純白のガウンをまとってシンと静粛な、新宿新都心。足止めの路線も多かろうに、東京オペラシティには、合唱隊ファンがつめかけた。木のやさしい霊気を漂わすタケミツメモリアル。威圧感がない。「響き」と呼びならすものが、風、空気の交差として実感でき、障子襖の日本文化が誇れるホールがやっと出来たか!そんな実感。
◆帰国公演と題し、オムニバス風プロだが、45周年をやり終え、50年への視座を計るこの時期、合唱隊のレパートリーを一覧した「体系樹」ともとれた。◆その大樹には、よく繁った何本かの枝ぶり。欧米の音楽のエスプリを堪能する歌の系譜。国際親善大使として友好国の歌の数々。日本の団体としてアイデンティティを掘り下げた歌もある。そのどれもが、昔指導した私には、懐かしく楽しい。◆合唱隊の年輪を刻み込んだ根幹はしかし、アヌイ神父(永代指揮者)から聖歌を通じ学んだ“祈り”の歌にあり。リヨン聖ヨハネ大聖堂でのミサ。そして、初演を聴き逃した私としてはこの日、「〜歌う木〜武満徹へのレクイエム」に新しい“祈り”の表現をことさら期待した。 ◆言葉=意味の重みに呪縛されないレクイエム。コトノハのもつ身振り、軽やかなバイブレーション。瞬間風速。新しい細川世界の空気に触れて、またしてもゾクゾクを味わった。◆祈りの中の祈り「主よ、何故我を見捨てられるか」をテキストに、言葉が意味を持つ以前の魂の発露、祈りの原形質に立ち戻り、再構築してみせたあの『テネブレ』ショック。しかし今日いる場はゴルゴダのイエスの内ではない。◆外へ向かって開かれた内庭。天を衝く木々があり、風が吹き抜ける・・・・ ふっと気がつけば、天国の手入れの行き届いた故人の庭に、招じられたかのようなイリュージョン。◆武満氏が楽器で引き出したあの触感やニュアンスが、今は合唱隊の声(息/振動)で繰り広げられる。すると何か不思議に、心がまっさらになり、内なる耳が研ぎ澄まされる。◆純粋世界を構築する才、霊感を受肉させる才のある作曲家と、合唱隊との幸せな出会い。 ◆シェーンベルグは、「なぜ『浄夜』の時代のような(大衆にわかりやすい)書き方をしないのですか?」と問われて「私は今でもそうしてますよ」と答えた。現代音楽の宿命=聴衆の無理解/無関心?◆だが魂のエスペラント語(と言わせて頂く)で、世界を内側から揺さぶる細川氏の作品は、現代人にとって決して難解ではないと思う。まずは、多くの人に聴いてもらう場を作るべきか。◆今は亡き哲学者ドゥルーズは、日本には井筒俊彦 (細川先生、テネブレのヒントでしたね)がいる!と言った。この日きっと、天国の武満氏は、下界に細川俊夫=長谷川冴子=合唱隊がいるのを聴き届けてくれたことだろう。 ◆合唱隊の次世代を担う若手の活躍ぶり。腹の真っ芯で振る花澤利枝子、そしてしなやかなデビューの長谷川暁生。21世紀に大きな期待が持てた。 ◆アンコールは「さとうきび畑」。少年時代「みんなのうた」で聴いた忘れえぬ反戦歌。寺島旋法(あえて敬意を込めて)で焼き付いた心象風景。バーボンの匂いで覚えた歌を、いま度数の高いスピリッツで味わって、あらためて心にジンと滲みた。父を思い出した。帰り道、胸熱く、雪も風も心地よかった。それにしても合唱隊は、心に吹く「風の歌」を、音にし、詩にする名手に恵まれている。◆内に秘めた個人的音楽観をこうして引き出してくれる児童合唱なんて、なかなかない。みんなで世界に誇りたい。 ◆次は50周年。どんな成長を聴かせてくれるだろう。どうか、ますます大樹に育ちますように! |


雪の日の舞台裏 |
| 前日から雪。天気予報も「明日は記録的な大雪」と言っている。実行委員会は「とにかくやるしかない」と気合が入っている。ゴム長やコートを準備、車にチェーンも巻き、雪かきもした。
当日は予報通りの大雪だが、実行委員は余裕を見て早めに会場入り。お父さんたちが舞台に山台を並べる。用意したホカロンを貼る間もなく、身体は温まってしまった。 「全員揃わないと、きちんと音楽が出来ない」と先生は心配気。でも、ゴム長を履き、リュックを背負って両手をあけ、すべらないように完全装備で、子供達はやって来る。頭には雪が積もって、ほっぺはリンゴのように真っ赤。雪が降っても子供は全然メゲない。むしろ嬉しくて興奮している。着いた時には張り切りすぎで疲れてため息をつく子もいるが、制服に着替えてスタンバイすると、もういつもの元気な合唱隊。練習の最初には遅れた子供もいたが、ゲネプロには全員揃った!大雪だけでなく、インフルエンザで学級閉鎖という学校も多いのに、病気も事故もなく全員揃ったのは奇跡に近い。 初めての会場なので、ゲネプロ中に歌う位置を調整する。広い会場だから移動は結構たいへん。特にオルガン席で歌ったりすると移動距離はかなり長い。時間もないので、先生も子供も走る走る。冴子先生も走り回る途中で「お茶ちょうだい」と、まるでマラソン選手のレース中の給水のよう。(実は本番中も、舞台裏では出演者が走りまわっていたのでした。) リハーサルの時に張り切りすぎてのぼせた子が一人。ステージの袖で休ませて間もなく回復。すり傷を作った子供が一人。ガウンの裾を踏んでころんだらしい。当日の救護班の活動はその2件のみ。 本当にやるのかと、問い合わせもひっきりなしで、合唱隊に待機していたおばあちゃん先生は応対におおわらわ!結局100本位は電話を受けたかも。そのため開場への到着は開演に間に合わず。 客足はどう?交通情報も気になる。ロビーの入り口で心配そうに待ち受ける実行委員。オペラ劇場とコンサートホールを間違えた人や、広いオペラシティ内で迷ったという人もいたらしいが、開演時には程々の入りで一安心。この大雪だというのに、外の窓口で当日券が十数枚も売れた。電話予約のお客さんも、何と全員やって来た。キャンセルによる収入減を心配していた委員は「あー、みんな来たわ」と安堵のため息。 小さい子供達はアンコールまでの長い時間を待ちくたびれないように、最初のステージをはりきって歌ってから、ごはんを食べて一息つくスケジュール。おかげでアンコールには、とても元気に登場。 演奏中も玄関には交通情報が随時張り出される。ホールの係員も、自分の帰りの足を心配している。時間厳守と言われていたのに、時間が押して終演が遅れる。実行委員は気疲れするが、会場の中では、そんなことは知らないで熱のこもった演奏が続く。 |