【あなたの知らないあなたの部屋】 青柳友子 新潮社HC ☆☆☆★
まあまあ楽しめた。読者をだますためだろう、一部、アンフェアに思える箇所があった。それが残念。
序盤のドキドキ感はなかなかのもので、期待を抱かせてくれる。友達には決してなりたくないタイプの女性が、なんともいい味を出している。
サスペンスとしてはひと味足りないかな……。 (96/12/4読了)
【姑獲鳥の夏】 京極夏彦 講談社ノヴェルズ ☆☆☆☆
再読。予想通り、再読に耐える作品だった。
言葉を選べる人は幸いだ。ただのトリックゲームに興味はない、そもそも文章で表現する必然性すらないようなミステリが多い中で、京極が一般に認知され、支持されるのは良いこと。「狂骨」以降は、シリーズ人気に安住してるってわけでもないのだろうが、独特の世界観にひびが入ってしまったようで、先行きに少々心配がないこともない−−というわけで、京極夏彦には、「姑獲鳥」の夏を、今一度思い出していただきたいもの。 (96/8/4読了)
【湖底のまつり】 泡坂妻夫 角川文庫 ☆☆☆★
泡坂妻夫の初期の作品が好きなのさ。で、その中で、こいつが(どうしてか)未読だったことを思い出したので読んだ。正直、失望した。
あとがきで連城三紀彦が思い切り持ち上げているけど、少なくとも本作が「小説以上のもの」に仕上がっているとは思えない。けっきょく、趣向が勝ってしまっている。
私はこのあたりの中途半端さを認めるほど盲目的なファンではないので、今回はストレートに失敗作だと言わせていただく。 (96/7/4読了)
【その言葉を】 奥泉光 集英社文庫 ☆☆☆☆
ひさしぶりに上質の小説を読んだ気がする。奥泉本人は不満だろうが、収録二作は共に素晴らしい作品であった。
「その言葉を」
素晴らしい。"その言葉"とは何なのか――私の興味の焦点は常にそこにあった。
最後の最後に飛楽が口にした言葉とは? 全共闘世代ではない私に、彼らを真に理解することは不可能だろうが、それはそれとして、小池真理子の遥かに上を行くことは確か。
「滝」
奥泉が類稀なる文章力の持ち主であることを示す、これはたいそう美しい作品。寡作でも全然構わないので、この水準を保ち続けてほしいもの。 (96/8/17読了)
【犯罪小説集】 谷崎潤一郎 集英社文庫 ☆☆☆★
「柳湯の事件」
へんてこりんな話だった。可もなく不可もなし。
「途上」
有名な短編だね。もうちょっとべたべたしたウェットな話かと思っていたけど、実は明るい?話だった。
ただ、谷崎だから書けるってものでもないので、それほど評価はできない。
「私」
先入観を抱かせるのはなんですが、タイトルが秀逸。
ただ、自分のテクニックを自慢しているようで、そのへんが気になる。
「白昼鬼語」
この短編集ではいちばん面白かった。
オチは人によってはブーイングものかもしれないが、これはこれで良いと思う。
雰囲気もなかなか、プロットの吸引力もあって、谷崎の犯罪小説ということでは、これを代表作としたいところ。 (96/8/15読了)
【魍魎の匣】 京極夏彦 講談社ノヴェルズ ☆☆☆☆
「姑獲鳥」に続いての再読。やはり面白い。
あまりにまとまりすぎているというのが欠点――初読時の感想だが、やはり今回あらためて同じことを思った。無論、それは決して悪いことではないんだが……。
「狂骨」以降は、おそらく再読しないだろう。京極は真に輝いていたのはこの二作目まで。新作が出たら当然読むし、今後への期待もあるけど、「姑獲鳥」と「魍魎」を超える作品が書かれることはおそらくないんじゃないかと思う。太りすぎ。 (96/8/15読了)
【頼子のために】 法月綸太郎 講談社文庫 ☆☆☆★
岡嶋二人の中期の作品を思わせる、重いテーマ+軽い筆致が特徴の、一説によるとノリリンの転機となった作品。
面白いんだけど、登場人物の動きが作為的で、どこまでいっても物語なんだなぁという感覚を捨てきることができなかった。作者はもしかしたら、人間を描くことに挑戦しているのかもしれないが、残念ながらここでは失敗している。 (96/7/16読了)
【暁の死線】"Deadline at Dawn"(1944) W.アイリッシュ/稲葉昭雄(訳) 創元推理文庫 ☆☆☆★
最初から最後までご都合主義に彩られたもの凄いお話。
アイリッシュ(ウールリッチ)十八番の華麗な文章が読者を酔わせ、出来過ぎとしか言い様のない物語展開が読者を笑わせる。これ、乱歩のウールリッチベスト2だそうだが、私にはそれほどのもんだとは思えなかった。あまり緊迫感がないんだもの…。 (96/7/22読了)
【憐れみはあとで】"Pity Him Afterwards"(1981) D.E.ウェストレイク/井上一夫(訳) 早川ミステリ文庫 ☆☆☆★
なんとも予想外に面白いので驚いた。
別名義で書いている「悪党パーカー」シリーズは結構好みなのだが、ウェストレイク名義には、なんだか漠然とした不安があって、これまで読んだことはなかった。でもそれって、失敗だったかも。
精神病院を逃げ出した一人の男が、逃走中に出会った男に(もちろん殺したのよ)なりすまし、ある地方の夏期劇場にまぎれこむってのが発端なんだけど、要するに、劇団関係者の誰がそいつだかが解らないってあたりがサスペンスの中心になっているわけ。
本格慣れした私には(笑)、話を複雑に考えすぎたとこがあって、けっきょく正体は予想外だったんだけど、そういう謎解きものではもちろんないわけで。 (96/6/7読了)
【過去からの弔鐘】"THE SINS OF THE FATHERS"(1976) ローレンス・ブロック/田口俊樹(訳) 二見文庫 ☆☆☆
マット・スカダー君の初登場作を、期待を込めて読んだのだが、"バナール"としか言い様のない出来だった(笑)。
リズムが命のハードボイルドで、意外と音痴に仕上がっているのは作者のせいか、はたまた訳者のせいか……。二作目以降に期待していいの?
登場人物中、最も魅力がない(描き込みが足りない)のはスカダーだね。とすれば、これは元よりハードボイルドでさえないのではないか? と思ったりもした。 (96/7/31読了)
【ガラスの村】"THE GLASS VILLAGE"(1954) E.クイーン/青田勝(訳) 早川ミステリ文庫 ☆☆☆
少なくとも、読者がクイーンに求めているのはこういったミステリではないと思う。
マッカーシズム批判もいいし、それをテーマに盛り込むのもいいし、舞台をアメリカ社会の縮図とするのもいい。しかし、肝心要のエンタテイメントとしての面白さが失われてはなんにもならない。
テンポも悪いし、物語の吸引力にも欠ける。これは及第点をあげられない。 (96/12/12読了)
【消えた玩具屋】"THE MOVING TOYSHOP"(1946) E.クリスピン/大久保康雄(訳) 早川ミステリ文庫 ☆☆☆★
『お楽しみの埋葬』よりは遥かに面白かった。ボチボチの出来。
一晩たったら、そこにあるはずの玩具屋が消えているというのは、実に素敵な謎ではあるけど、解決が平凡だし、途中からはその謎だけでは支えきれなくなっている。最後は結局、ドタバタになってしまい興醒め。クリスピンらしいといえばそれまでだが、中途半端な作品ではあった。 (96/9/13読了)
【九尾の猫】"CAT OF MANY TAILS"(1949) E.クイーン/大庭忠男(訳) 早川ミステリ文庫 ☆☆☆☆★
クイーンの代表的傑作にして、ミッシング・リンクものの秀峰。
現代ならばサイコものに分類されるかもしれないけど、当時としては本格のひとつの姿だったんだろう。犯行を方法を除き、一見、何の繋がりもない連続殺人、その失われた環に、我らがクイーン君が挑む!!
いやぁ、何度読んでもいいわ。 (96/9/29読了)
【さらば甘き口づけ】"THE LAST GOOD KISS" ジェイムズ・クラムリー/小泉喜美子(訳) 早川ミステリ文庫 ☆☆☆☆
チャンドラーの正当後継者と言われているんですか? 遙かにウェットな感じがした。私の興味とは逆方向に振れているということでもある。
なかなかに優れた作品であり、満足感もあるが、今イチ、心はアツくならなかった。そもそも、探偵の私生活にあまり興味はないし……。 (96/10/30読了)
【死の接吻】"A KISS BEFORE DYING" アイラ・レヴィン/中田耕治(訳) 早川ミステリ文庫 ☆☆☆★
期待ほどではなかったけど、楽しませていただいた。
しかしなんで日本では、こういった作品が書かれないんだろう? どれだけ非日常であるかを較べっこしてもしょうがないと思うんだけど。真の恐怖、そして驚きは、寧ろ日常に程近いところにあると思うんだけど。如何にも嘘臭い世界で荒唐無稽な出来事が起こっても、それは絵空事でしかない。 (96/8/18読了)
【睡眠口座】"DORMANT ACCOUNT AND OTHER STORIES" C.ウールリッチ/妹尾アキ夫・他(訳) H・P・B ☆☆☆★
「ハミング・バード帰る」
なんでこれが巻頭を飾るのか、理解に苦しむ。この短編集の中では、最も落ちるものだと思う。
「睡眠口座」
アルバムでもタイトル曲やシングルカット曲は2番目に収録されることが多い、これもそう。
さすがに本のタイトルになるだけあって、そこそこ面白い話にはなっている。オチは、まあ、かなり早い段階で読めてしまうけど。
「マネキンさん今晩は」
ウールリッチらしい作品。タイトルもいい。ご都合主義も、これまたウールリッチらしいんだな。
「小切手と花と弾丸と」
ちょいとトリッキーな話。いや、そうでもないか……。
この本の中では、最もウールリッチのイメージからは遠いような気がした。
「耳飾り」
本格畑の人が好きそうな話。
私はクリスティの有名な"アレ"をやっているのだと思っていたのだが、実は違った。それでも、意外性はあ
るかもしれない。いや、読めちゃうんだけどね。
(96/8/10読了)
【すげ替えられた首】"SWITCH"(1984) W.ベイヤー/入江良平(訳) サンケイ文庫 ☆☆☆
10年前に文春から出た「東西ミステリーベスト100」にも挙げられているので期待して読んだものの、実際、裏切られたとしか言いようがない。
つまらないとは言わないが、登場人物がなんとなく薄っぺらく(すべての探偵=刑事にマーロウを要求してるわけではないが)、ひきつけられるものがない。二つの事件が平行して描かれるのだが、その描き様も煩雑で、このあたりの絡みをもう少しうまくしてほしかった。
【生者と死者と】"THE QUICK AND THE DEAD"(1943) E.クイーン/井上勇(訳) 創元推理文庫 ☆☆☆★
必要があっての再読。ところどころ記憶に残っていた部分もあったが、概ね真っ新な気持ちで読めた。
この作品は意外と評価が高く、それなりに期待もしていたのだが、なんというか、ちと肩透かしに終わった感がある。ぼちぼち、といったところ。
ライツヴィルものを書き始めた一方で、同時期にこうした露骨な絵空事を書いたことに興味があるが、このあたりについての研究書なりはあるのかな? (96/9/22読了)
【フランス白粉の謎】"The French Powder Mystery"(1930) E.クイーン/井上勇(訳) 創元推理文庫 ☆☆☆★
クイーンの国名シリーズ第2弾。著者が若いのが原因か、そもそもアイデア自体が貧弱なのかもしれませんが、あまり良い出来とは言えない気がする。
エラリイ君が例によって関係者を集めて「さて」とやるわけだが、この作品を特異な存在にさせているある趣向のせいか、謎の解明はどうにも予定調和的。緊迫感に欠けますね。
随所にさすがクイーンと思わせるところがないではない、でも余り評価できない。残念。
未読の方、上に書いているある趣向とは、"犯人の名前が最後の一行で明かされる"ということなので、読む先に後ろの方のページをめくらないよう、ご注意を。 (96/11/21読了)
【メグレと若い女の死】"MAIGRET ET LA JEUNE MORTE"(1954) G.シムノン/北村良三(訳) H・P・B ☆☆☆☆
シムノンならではの抑えた筆致が、読者の心をえぐる、お馴染みメグレシリーズの一編。
"無愛想な刑事"ロニョンと、メグレ以下レギュラーの刑事たちとの対比が、まず読みどころといえるだろう。そして被害者の少女が、なにゆえ死に至ったのか−−という謎そのものが、この作品の核でもあるのね。
正に傑作、読んで損なしとはこういった作品のことをいうのだろう。 (96/6/13読了)
【甦える旋律】"LE BOURREAU PLEURE" F.ダール/長島良三(訳) 文春文庫 ☆☆☆☆
哀しい恋の物語。車の前に飛び込んできた女性を助け起こし、ひとまず宿に運びこみ医者の治療を受けさせてみたら、目を開けた彼女は、"事故の前の"記憶を全て失っていた。やがて二人は恋におち、そのまま幸せな日々が続くかと思いきや…。ま、読んでのお楽しみ。
もしかしたら絶版かもしれないが、なんとかして手に入れてほしい。間違いなく面白いので。騙されたと思って、ね!! (96/8/31読了)