【4月読書会】


《本のデータ》

 深夜、ジェーブル伯爵邸を襲った盗賊団の首領と思しき人物が、伯爵の姪レイモンドの撃った一弾に倒れたところから物語は始まる。
 重傷の身を何処に隠しおおせたものか、それきり賊の姿は消え、徒に時は過ぎていく。その混迷する捜査の行く末に光明を投げかけたのは、一人の高校生−−同級生たちにホームズのライバルと称賛されるほどの卓抜した推理力と勇気の持ち主−−イジドール・ボートルレ少年だった。彼は言った、賊の正体こそ、彼の大怪盗アルセーヌ・ルパンであると。
 「空洞の針」の巨大な謎を巡って、ボートルレ少年とルパンの戦いが続く。その先にあるものは果たして何か? ルパンの目的は? ボートルレ少年はホームズに先んじて謎を解明し、ルパンを追いつめることができるのだろうか?

 フランスの国民的英雄?ルパンの冒険譚は、日本で特に読み継がれています。人後に落ちることのない優れた知性と行動力、颯爽と現れ、決して目的を外すことのない怪盗紳士の数多の物語のうち、初めての長編であるこの作品は、同時にシリーズ最高傑作の誉れも高い名品でもあります。
 今回の読書会を通して、幼き日、ルパンの活躍に心おどらされた記憶を取り戻されんことを。ルパンはやっぱりいい!




ネタバレありますので、未読の方は注意!!



《感想のコーナー》


スタッフはこの色  ゲストはこの色


評者:友野健司  評価:☆☆☆☆

 ルパンといえばポプラ社の子供向け抄訳(南洋一郎訳)に尽きるが、『奇岩城』(『奇巌城』)に関してはこの新潮文庫版、堀口大學訳でもじゅうぶんに楽しめる。
 この作品の主人公はルパンでなくイジドール少年ということになるのだろうが、これがなかなか雄々しく女々しい、いかにもおフランスの少年探偵という感じがして嬉しい。ガニマールやホームズを差し置いてルパンと五分以上に渡り合うに相応しいほどには魅力的とは言えないが、ルルーの『黄色い部屋の秘密』に挑戦したとしたものだとしても、ルブランの着眼点は大したものである。
 ゴシックロマンはかくあるべきといった時代がかった道具立てとロマンスの香りは、今読むと意外と美味しい素材なんじゃないかと思うほどである。そうそう、悲劇的結末も、ルパンには悪いがこの作品の魅力のひとつと言えるのではないか。これを露骨に描いて、面倒な手続きを廃したのが南洋一郎訳ということになるのだろうが、完訳は完訳で楽しめるということだ。巷間言われているほどには退屈な作品とは思えなかった。いや、もちろん、ルパンものの大半が退屈であることは否めないとしても……。
 この機会に『813』や『ホームズ対ルパン』の再読なども考えている。

評者:めぐみ  評価:☆☆☆★

 完訳版のルパンを初めて読んだのは高校の頃だったと思う。かなり入れ込んで次々に読みふけり、ご多分にもれず、颯爽としたルパンに乙女心をときめかせたはずである。(エラリィの次にね)
 今、読み返してみて、イメージのルパンとは違って、必ずしも明るく颯爽としているわけではないと感じた。悩み多き皮肉屋のルパンを感じてしまうのは、私もだてに年を経たわけではないということか。
 さらっと読みすごしてしまえば、謎また謎に満ちた面白い活劇である。イジドール少年はまさしく健気だし、ヴァルメラは紳士で、可哀相なレーモンド。
 ただ、リマ事件の影響もあってか、なんとも最後の場面にこだわってしまった。
 確かにレーモンドを撃って死なせてしまったホームズは悪いように見える。しかしルパンも、ホームズの片腕を撃っている。一人の男の胸を撃ち、もう一人のあごを砕いているのだ。なんともやりきれない、後味の悪さを感じた。
 もし、ホームズが現れず、農園でルパンとレーモンドが暮らしたとしても、二人は幸せにはならなかったでしょう。


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