【7月読書会】


《本のデータ》

 カリブ海に浮かぶセント・トマス島。その海に面した崖の上に、アダムとケイ、そしてケイと前夫フレッドのあいだにできた娘リザの3人が住む、美しい家があった。
 そこに、ひょんなことからリザの世話係として招き入れられたダイアナ・マイセンは、一見聡明で美しく、見る者をして−−ケイやリザも含めて−−惹きつけられずにはおられぬ魅力の持ち主だったが、表向きの顔とは裏腹に、その実、内には秘めたる暗い過去があった。−−のみならず、ダイアナとアダムは旧知の仲であるにも関わらず、二人はそのことを隠したまま何か怖ろしいことを企んでいるようでもあり……。

 ニューヨークでミステリ専門書店に勤める著者の、数多の賞賛に彩られた本書は、サスペンスというにはいさか軽妙にすぎるかもしれないが、頻繁な場面転換とリズミカルな文章で読者を軽やかに引きずり回す、いかにも現代的な−−良くも悪くもペーパーバック的な−−アメリカンミステリである。




ネタバレありますので、未読の方は注意!!



《感想のコーナー》

評者:友野健司  評価:☆☆☆★

 どうやら、期待しすぎたみたい。一応、面白い部類に入るとは思うのだが、ブロックやウェストレイクやパーカーが絶賛するような、そんな傑作ではないのは確かだと思う。
 上のデータにも書いたけど、章内での場面転換がひじょうに多く、そのへんのシーンのつぎはぎの仕方が、たとえて言うなら、たがみよしひさ的とでも申しましょうか、たぶんに映像的な小説となっているのだな。これはもしかしたら、映画化を意識してるのかもしれない(笑)。
 最初に読者が認めることになるダイアナとアダムの計画だが、中途で、見た目とは異なる裏があるのに気づくことになる。そのとき、根性のねじ曲がった女性が幸せな家族の一員となることで改心していく−−って単純な構図でないことも解ってくるんだけど、ここからが意外と平凡。もっと暗い物語を期待してたのに、なんともうまくいきすぎる感のあるハッピーエンドでしたよ。(^^;
 あまりサスペンスが感じられなかったのは、カリブの青い海のせいか……?


評者:めぐみ  評価:☆☆☆★

 これが、サスペンス小説の傑作? 読みながら、どきどきして、思わず最後のページをめくりたくなってしまうというほどではなかった。まあ、楽しく軽いミステリィ。
 だからといって、謎がいい加減ということはありません。読者を引き込み、興味を繋いでいく、こきみのいいテンポのよさがあります。ついつい一気に読まされました。
 ダイアナがいかにも怪しくて、陰惨な事件を引き起こすであろうという期待は、見事に肩透かしを食いました。うまいです。ただ、いちおう波瀾万丈の、入り組んだ謎が解かれて、満足はしたのですが、いま一つもの足りないのは、なんでだろう。
 いかにもいかにも、という設定に乗り切れなかったという点も、なきにしもあらず。登場人物の実在感があまり感じられず、現実感がない。だいたい、アダムのイメージが掴めない。どうも、すべての女性を惹きつける美貌というのが、嘘臭いと思ってしまうから。
 私は、そういうオトコには見ただけで反発すると思うけれど、ほんとは、「反発する」という裏に隠された真の心理は、どうしようもなく惹きつけられてしまうことへの惧れかもしれなかったりして。
 オトコは見た目じゃない、なかみだ、見た目に惹きつけられるオンナは愚かしい、と思うのは、財力も美貌も持たざるオンナの鬱屈したひがみか!!  深い女性心理の洞察を含んでいるミステリィかもしれない(笑)
 ひとつ、ひっかかったのは、郵便配達夫がダイアナの誤解を正したという、彼自身の根拠です。どこかにあったかなあ、とページを繰り直して、わからなかった‥‥。
 私はハッピィエンドに終わるロマンチックミステリィが好きだから、評価は甘い。


評者:にこにこ  評価:☆☆☆

 正直言って、期待はずれでした。「巨匠たちが絶賛したサスペンス小説の傑 作」とはとても思えなかったです。
 友野さんも書かれてますとおり、場面転換がとても多いです。せっかく文章に 集中しかけても、その場面転換のたびに興が削がれてしまうんですよね。このこ とはサスペンス小説としては、マイナスに作用しているようにしか思えませんで した。
 さらに、登場人間たちのイメージが薄っぺらだったことも不満です。どの人物 にも感情移入できなかったです。だから、読んでいて、まったくハラハラしませ んでした。でもまあ、そんな中でも、老婦人バークレーの視点には唯一かなり引 き込まれるものがありましたね。この老婦人をもっと前半から登場させていたほ うが、おもしろかったかも?(^^;)
 謎が次第に明らかになってくる終盤は、さすがに読ませましたが、もう時すで に遅しでしょう(笑)
 本当だったら、評価を☆☆★にしたいくらいでしたが、最後の台詞が気に入っ たので、☆を3つにしときました。


評者:まつもとやえこ  評価:☆☆★

 ロバート・B・パーカー、ローレンス・ブロック、ジョナサン・ケラーマンにウエストレイクと、有名作家ベタボメの話題作…だそうだけど、私自身はブロックもケラーマンも読んだことないし、ウエストレイクとパーカーはつまんなくて途中で投げ出した人なので、不吉な予感のする賛辞ではある。
 前半はなかなか読ませる、と思う。常軌を逸したヒロインの過去が綴られ、彼女のたくらみは善なのか悪なのかわからないまま、物語は進んでいく。このへんはなかなか楽しめた。しかし、ヒロインと深い絆のある老人が出てきたあたりからもーだめ。あの老人の正体なんて、読者には出てきたとたんにわかっ てんのに、タラタラ調べるな。かったるいよう(笑)。
 サスペンスのラストは悲劇じゃないといかんなんてことは、さすがにもう言いませんが(昔は思ってた)…ここまであけっぴろげなハッピーエンドはやっぱりチープな感じがする。2時間ドラマの「○曜なんとか劇場」で映像化したら、この安さが逆にいい味を出しそう。アダムは長塚京三でお願いね。


評者:南 銀次郎  評価:☆☆☆★

 海を望む断崖の家を舞台にした企みとロマンス、英米で脈々と指示を受け続けている典型的なゴシック・ロマン・ノベルといえよう。ゴシック・ロマンというジャンルは、女性読者に熱狂的なファンが多いが、その魅力の一つはシュチュエーションのゴージャスさであろう。
 ゴシックの主要人物たちは、たいてい有り余る財力を誇り、あくせく働かず、ひたすら優雅に暮らしている。いい男といい女、望むと望まざるに関わらず事件に巻き込まれる若きヒロイン、彼女と恋仲になる青年・・・とまぁ最低これだけいれば、三文ゴシックはすぐに書けるのである。読む方はといえば、女性なら自分 をいい女に見立てて典雅な服装に豪華な食事を夢想するのも楽しいし、ヒロインと一緒に恐怖におののいてもよいだろう。男性なら「俺ならもっとうまくやるぜ」と鼻を鳴らしていればよい。著者の奏でる非日常の旋律に酔うことこそ、ゴシックの正当な読み方であると私は思う。

 ところでこの作品が、P.D.ジェイムズタッチから始まり、パトリシア・ハイスミス 的展開を見せつつも、サスペンス風ハーレクインロマンスというありきたりな結末になっていることを残念に思う。
 破綻の原因は三つほど考えられる。一つには、犯人の知能指数が低いこと。あまりにも大ざっぱで品が無く、野蛮で破廉恥に描き過ぎである。ゴシックの悪役には知性と教養が必要不可欠で、やたらとガツガツ人を殺してはならない。「悪い奴なのに憎めない」という女性好みの人物像にすべきである。
 第二に、余計な人物が多い。登場人物はこの半分の人数ぐらいに絞ると、作品が引き締まるのではないか。ポターのような何の魅力もない警察関係者を無理に登場させることはない。カイルについても作品の品位を貶めるためだけに出てきたとしか思えない。
 第三に、カリブ。
 安易すぎる。カリブ→リゾート地→お金持ち→犯罪、連想の流れとしてはあまりに貧困である。気候風土にミステリアスさが無いにも関わらず、強引にかの地で暗い展開をさせようとするから無理が生じるのである。(個人的には、白夜のあるスウェーデンやノルウェイの海岸などが神秘的で美しいと思われる。)

 べつにあらゆる角度から叩きのめしたい作品であったわけではない。これが処女作であることを鑑みれば、トム・サヴェージはなかなかに目の肥えた作家だと感じられるので、次回に期待する意味を込めて★を追加した。

 以下は余談だが、ゴシック・ロマンの最高傑作は、デユ・モーリアの「レベッカ」であると思っている。ちなみにかの名作の舞台は、南仏の古城風屋敷。何度も観たヒッチコックの映画を、最近もう一度観る機会があった。やはり素晴らしい作品である。


評者:おきょう  評価:☆☆★

 本のデータで説明されているとおり、良くも悪くもペーパーバック的なアメリカンミステリであった。正直な話、何だかなぁ?という読後感だった。全体の印象は良質なハーレクインロマンス。カリブの青い海、超ハンサムな生活感が皆無(これが問題)な男性、スタイル抜群のヒロイン、ヒロインに恋する探偵、これだけ揃えばねぇ。(^_^; 但し、途中で興味が無くなって放り投げるほど読みにくくはなく、どちらかというとさくさくと読めるテンポの良さはあった。
 一番の課題は、ヒロインに全く感情移入できなかったことで、最後のちょっとしたどんでん返しで、それも多少救われたのだけれど、やや遅すぎた。最初の頃はケイがヒロインかと思っていたりして……。ヒロインの復讐劇がメインテーマなんだろうけど、中で起きる連続殺人の犯人はどじが多すぎる、頭悪いよね、彼(笑)。何故もてるのか全く分からない……、男性の肉体にはそんなに魅力は感じないし……。(^^;) 48才の男が美貌と肉体美を誇るなっつうの。
 私は最近はあまり海外物は読まないし、読む時は秀作と友達からお墨付きのものしか読んでいないので、結果的に評価は厳しくなる。
 ところで、彼女はどうやって犬を手なずけたのでしょう?読み過ごしたのかしら?誰か分かったらメール下さい、とっても気になってます。


[MENU]