【8月読書会】


《本のデータ》

 もうすぐクリスマス。
 猫弾きのオルオラネじいさんと三匹の猫たちが、アルコールの匂いに惹かれ、若者たちの寂しい心に引かれ、今年もふらふら街にやってくる。な〜〜〜、ふに〜ウ、ねえう〜〜〜〜〜

 伝奇小説界のエース、夢枕獏が、デビュー当時に書いたファンタジー連作シリーズで、ところどころに今の彼を思わせるフレーズが出てくるが、内容はまま正統派の心温まる現代風ファンタジー。
 コバルト文庫など単行本に収録されている6編に、あらたに未収録の『ばく』を加えた「オルオラネ」シリーズの完全版ということで、未読の方は、この機会に通読してみてはいかがでしょう。




ネタバレありますので、未読の方は注意!!



《感想のコーナー》

評者:友野健司  評価:☆☆☆★

 先月と同じ星の数ですが、先月は期待はずれ、今月はほぼ予想どおりでした。
 収録されている7編には、さすがに当たり外れがあって、『天竺風鈴草』や『こころほし てんとう虫』は単品で読んだとしたら、それほど誉められた出来ではないと思います。が、表題作の『ねこひきのオルオラネ』『年末ほろ酔い探偵団』は、まとまりも良く、盛り上がるべきところがちゃんと盛り上がっていて、なかなかの好短編だといえるでしょう。
 皮肉なことに、夢枕獏らしさというのが作品世界をぶち壊しかねないような感じで、また一方ではそれこそがこの作品の魅力だと言えなくもない。こうやって特に夢枕作品だということを意識してしまうのは、おそらく私が彼のファンだからなのでしょうね。
 シリーズキャラはオルオラネと猫たちだけ、彼らと関わった人々はすべて一回きりの登場で再び別の作品に顔を出すことはありません。それでいて毎回、主人公が「ぼく」なのは、それが作者自身の、この作品に対するイメージなのかもしれません。私はこの、約束事、が結構好きです。あるいは「ぼく」は、夢枕自身なのかもしれません。
 猫弾きってのは、なかなかの着眼点でした。作中に描かれる猫たちは、とても可愛かったです。

評者:おきょう  評価:☆☆☆☆

 実はこういうファンタジーは好きなのである。しかも猫も大好きなのである。(^o^)
 収録作品の中では『ねこひきのオルオラネ』と『そして夢雪蝶は光の中』が特に印象に残った。猫弾きのセッション?のシーンなんてもうたまらなくいい!!ひっくり返った文字の中から猫の奏でるメロディーがびんびん耳に伝わってくる気がする。
 オルオラネの柔和な目、日溜まりの座布団のような表情というフレーズは、何か日溜まりで無防備な状態でぐっすり寝りこけている猫が目に浮かぶ。あまりに気持ちよさそうでちょっと突っつきたくなるあの感じだ。ストーリー自体は主人公の『ぼく』の寂しい心(失恋が多い)がオルオラネと猫達によって癒されるという至極単純な物語であるが、読後感はとっても良かった。
 ところで、うちの猫を弾いてみようかと色々さわってみたのですが、ふにゃ〜っと泣いただけでした。やっぱり飲兵衛にしないといけないのかな…… (^^;

評者:めぐみ  評価:☆☆☆☆

 夢枕獏という名前は知っていたが、今まで読んだことはなかった。この作品が初めて。どういう作品であるのかという一切の先入観がなくて読みはじめました。
 最初の数頁から、これはと思いがけなくも惹きつけられた。猫好きの私が、猫たちの的確な描写にうれしくなったばかりでなく、その文体の紡ぎだす世界に共感していった。
 だいたいの小説は出だしから少し読んだところで、後書きや解説を読まずにはいられなくなってしまう悪い癖を私は持っているのだが、これはそういう読みかたをするには勿体ないと感じた。そっと後ろを見てみると、作者の後書きや解説があったが、そのまま閉じて読み続けた。
 何の先入観もなく、1行1行を作品時間の流れのままにゆったりとこの世界を味わいたいと思った。そして、期待に違わず!!
 いいですねえ、こういうの好きです。オルオラネと猫たちに祝福あれ‥‥。

 猫たちの演奏の場面も意表をついてまさに猫たちの歌声が響いてくるような気がしてにんまりしたが、何よりも上滑りをしていない自然の描写がすばらしい。
 テーマは成長物語の一種。主人公である「ぼく」が積極的にオルオラネの世界に関わるのではなく、偶発的に「ぼく」とゆきあったオルオラネが自らの世界に連れ込んで触れさせて、「ぼく」を癒すというか解き放つというお話。偶発的といっても、お酒の好きな猫がお酒に誘われてというのが楽しい。
 表題作である「ねこひきのオルオラネ」と「そして夢雪蝶は光の中」がお勧め。

評者:直江信綱  評価:☆☆☆☆

 夢枕獏は、『黄金宮』を読みました。だから、ああいうのしか書かない作家であると、今までずっと思ってました。それが、それが、こんなファンタジーを書いていたなんて....晴天の霹靂!! ど、びっくり。(¨)
 中では、年末ほろ酔い探偵団が一番好きかな?あんまり、失恋した男がうだうだしてるのは好きじゃないから。ごみ箱が縁で、クリスマスに集まる男3人+女1人。なんで、そろいもそろってクリスマスの夜に時間があるんだろうって思ったりもするけれど、あまり詮索しないのがまた良し。オルオネラじいさんと3匹の猫も、 絶妙なタイミングで登場し、阿鼻叫喚の坩堝に私をも引きずり込むの。猫好きだから、それだけでも気にいってしまったかも。春が、そこまできているようなそんな気持を思いださせてくれる終わり方も、よかったです。
 春先の季節にもう一度再読したいものがたりでした。(^^)

評者:まつもとやえこ  評価:☆☆★

 私は日本のロックと日本のファンタジーが苦手である。私にとって、ロックとファンタジーは「アナザー・ワールドへの扉」なわけだから、普段から慣れ親しんでいる言葉や要素が出てくると気分を損なう(勝手な言い分)。そのへんをうまくだまくらかしてくれる作り手は、いないわけじゃないけれど、非常に稀な存在である。と、考えているからだ。
 そして私は、夢枕獏が苦手である。決してつまんなくはないし、下手ではないと思う。が、あのやたらめったら多い改行と、みょ〜な漢字の使い方、そして何より彼の使う言葉のセンスが肌に合わないのだ。かつてソノラマ少女だった私は「キマイラなんちゃら変」を読みふけり、その物語や世界観には惹かれたが、文章がうっとーしくて投げ出してしまったものだ。だまされてヤラれてしまった深雪ちゃんは、あの後どうなっちゃったんだろう。気になる。

 前置きが長くなってしまった。そんなこんなで、イマイチな先入観を抱きつつ読み始めたのがこの作品。ありゃ、思ったよりよい(笑)。最初は「猫弾きって...ちょっとフリーキー」と感じたけど、うまいことだまくらかしてもらえて、ほのぼのできた。やるじゃん夢枕獏。どことなく、子供の頃好きだった安房直子を思い出す。いちばん良かったのは、やっぱり「年末ほろ酔い探偵団」かな。他力本願なヒーリング話よりは、楽しいエンターテイメントの方が読んでて気持ちいいから。
 しかしだ! 長い前置きでダラダラ書いたマイナス要素もしっかり存在しておられる。だからどうしても、点が辛くなってしまうのであった(笑)。

評者:にこにこ  評価:☆☆☆★

 夢枕獏という作家の小説に対して、正直言ってこれまであまりいい印象を持っていなかったです。かつて、この作家の人気作「サイコバイダー・シリーズ」を数冊まとめて読んだことがあるのですが、ちっともおもしろいとは思いませんでした。むしろ、やたらと続く残酷シーンに嫌悪感を抱いたほどです。
 でも、随分ひさしぶりに読んだ夢枕獏の短編集はかなり楽しめました。「そして夢雪蝶は光のなか」には涙さえしました。感性がかなり細やかですね。こんな作家だったのか、と驚きさえしました。
 私の好みは初期の作品である「ねこひきのオルオラネ」と「そして夢雪蝶は光のなか」です。うだうだしている男に共感できる部分があるせいかもしれません(^-^;)
 オルオラネ爺さんが「ぼく」たちに「青年よ」と呼びかけますよね。あの部分がとっても気に入りました。


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