芸術的な伝声管



金沢21世紀美術館、白くてガラス張りの明るい、上から見ると円形の建物のである。その周囲には歩道と芝生があり、芝生に銀色のラッパ状のものが何本も地面から生えている。その数、十数本。これは一種の伝声管である。

伝声管、これは古くからあるもので、管の前後をラッパ状にしただけのものである。そのラッパに口を近づけて話すと反対側で声が聞こえる、というものである。船などでも使われ、また科学系の博物館にも展示があったりする。伝声管は、電力も何も使わずに声を遠くに伝えることが出来る。これ、構造は単純だけど原理的にはなかなかのものである。音は音源から球状に広がるからエネルギーはその距離の二乗に反比例する。距離が2倍になればエネルギーは1/4に、3倍になれば1/9にと、急激に弱まってゆく。しかし、パイプの中を進む音は平面波であり、広がらないから減衰しない。つまり、どれだけ離れてもエネルギーは弱まらないことになる。実際はそのようにはならないが、200m、300mと通常では伝わりにくい距離でも楽に声を伝えることができる。

金沢21世紀美術館の伝声管、これはかなり大きく、ラッパ状の部分は人の顔が入るほどの大きさである。大型の金管楽器を思い浮かべる。色は銀色。周囲の景色が映っていたりする。これが、あるところはかたまって、またあるところでは1本だけ、地面から生えている。単なるオブジェのようにも見えるが、これを見かけた人の一部は、自然にそこに顔を突っ込むようにしている。直感的に声を伝えるもの、と分かるようだ。そして、時々このラッパから声が聞こえてくる。すぐ近くでなくても、少し離れて歩いていても気がつくほどの大きさである。まさに伝声管である。この伝声管、地面の中をつながっているのだが、どれとどれがつながっているかはすぐには分からない。だから、家族であるいはグループで話そうとしている人もいるけれど、どこから声が出てくるか分からない。なので、思いがけないところから声がしてくることになる。結果として、知らない人が応えることもある。
金沢21世紀美術館、他にも他人とのコミュニケーションをテーマとした作品がある。”プール”である。プールの水面と水中でコミュニケーションを、というものである。まず種明かしをしておくと、水面のすぐ下にガラスがあり、その下に人が入ることが出来るようになっている。上からは普通のプールに見え、下からは水中から見ているような感覚になる。水面の上と下、両方から相手がが見える。これまた他人同士のことが多いのだが、互いに手を振り合う、ということもある。

伝声管、どのラッパ同士がつながっているか、探す方法はある。ラッパの中央の模様、これがばらばらに見えるが、同じ模様のものがあり、それがつながっているはずである。丹念に探してゆけば対応するものがわかる。でも、話しかけて誰かからの返事を待つ、というのも面白いと思う。

顔が隠れるほどの大きなラッパである。
ラッパの中央部の模様はバラバラ。
同じ模様が対応しているはず・・・。


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