旧映画街

金沢の繁華街、香林坊。その裏手に入ると駐車場が並ぶ一角がある。複数の駐車場が並び、結構広い。周囲は建物に囲まれ、すっぽりと抜けたような感覚になる。金沢の中心に近く、その場所に広い駐車場というのは違和感がある。

この広い空間が駐車場になっている理由、通りの名前や駐車場名に答がある。通りはシネマストリート、駐車場も映画に関する名称だったりする。
この場所、かっては映画館が集中していた。建物は4つくらい、スクリーン数で10くらいあったと思う。今では映画館はシネコンと呼ばれる複合映画館ばかりになり、8というスクリーン数はシネコン一つ分程度であるが、各館の規模は大きく合計の席数では倍以上になると思う。この映画街を最初に利用したのは私が高校生であった。映画をそう多く見ることができなかったので、まず見たい映画があり、新聞などで上映時間を確かめてからそれに合わせて電車で行って見る感じだった。だから、目的の映画館に真っ直ぐに、と言う感じではあったが、各館の前を通るとポスターなどが並び、わくわくし、見たい映画への期待も高まったものである。当時の上映は、ほとんどが2本立てで入れ替えがなかったため、時間の都合で途中から入ることもあったし、また見たい映画を2回見ることもあった。座席は指定などなく、時には席を変えてみることもあった。今ではもう出来ない映画の見方である。

ここにあった映画館のひとつは、同じ建物内に4つのスクリーンを持ち、シネコン的要素を取り入れていたのだが、シネコンほど合理的ではなく、また全体に古くなったこともあり、郊外などにシネコンが複数出来た頃に相次いで閉館した。金沢には他にも数箇所映画館が存在したが、ほぼ全てが後を追うように閉館、事実上全てがシネコンとなった。

現在、ここに映画街があったことを知る人は少なくなり始めていると思う。そして、映画館と言えばシネコン、となってしまった。映画を見る上で不都合はないのだが、昔ながらの大きな映画館も懐かしいし、今は映画の看板(映画館ではない、上映中の映画)もない。今この地に映画館はないが、ここに来ると古い映画館を思い出す。そう言えば入館券、以前は”手でちぎる”だったが今はスマートになってしまった。これも昔の良き思い出になってしまった。

通りの名前に映画が残る。
通路は歩道を意識したような造りになりっている。以前は車はほとんど通らない(通れない)道だった。
駐車場名、看板に映画を感じる。
これは旧映画館名を使っている。

写真撮影: 2012年4月

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