テーマパークの怪談話 スペース・ツアーズ(創作)

私の創作です。キャストさんとの雑談、常連さんとの話などで思いついたもので、決して実際の出来事ではありません。フィクションとしてお読みください。ディズニーランドのスター・ツアーズをベースにしています。



スペース・ツアーズは、疑似的な宇宙旅行を楽しめるアトラクションである。3Dの映像に加えてフライトシミュレーターのように機体が動き、擬似的な飛行を感じることができる。そして、出港する宇宙船の乗客の中に1名、スパイが混じっている、とされ写真が出る。それにまつわる出来事である。

混雑が枕詞のようになっているテーマパークであるが、それでも混雑の少ない時期がある。そういうとき、比較的人気の高いアトラクションでも“貸し切り”がありうる。ここで言う貸し切りとは1台の乗り物に一人だけ一組だけで乗ることである。もっとも、2人乗りであれば1組だけが当たり前だからそれは貸し切りとは言えない。スペース・ツアーズは? というと平日夜は比較空いているが、それでも40人乗りの宇宙船の貸し切りは滅多にない。
これは6月のある夜のことである。閉園ぎりぎり21:58くらいにスペース・ツアーズに入った。この日は閑散としていた。でも昼は修学旅行の生徒が多かったことだろう。実際、夕方に入園したときは集合時間に遅れそうなのか、走ってゆく生徒が2人3人と見えた。でもこの時間にはもういない。
アトラクションの中、人のほとんどいない通路を進んで乗り場に着く。ゲートが1番から6番まである。奥の方は閉めているようにも見える。3番ゲートに並んでいる人がいて、そちらになるかと思ったら丁度締め切られ、次の船の1番ゲートへと案内された。お好きなところへ、と言われたので最前列にする。ここは前方の景色が大きく見えるので可能なときは希望することもある。なお、最後列は揺れが大きいのでこちらも楽しめる。
1番ゲートは入り口に一番近いゲートである。3番ゲートが出るとお客は誰もいない。時間的にアトラクションを締め切る時間ではあるが、私の入った時間、まだ少し他のお客が来そうなものではあるが・・・。結局誰も来ないまま搭乗口上の画面では注意のアナウンスが始まった。もうこのゲートを締める時間である。入り口近くのキャストさんも“足音もしませんねぇ”と言っている。
丁度締め切られた頃に次のお客が見え、4番ゲートに向かったように見えた。1番ゲートは私一人となった。キャストさんも“どうします、乗りますか?”と声をかけてくれる。一瞬迷った。スペース・ツアーズの貸し切りは滅多にないことだろう。しかし、一人と言うのはやはり寂しい? 今なら4番ゲートに案内されるかな? 今行ったのは若い女性である。でも1番ゲートで、貸し切りで乗ることにした。ただ、1列目でなく2列目にした。キャストさんと至近で一対一で向き合うのはちょっと恥ずかしい気がしたからである。
キャストさんはいつもどおりシートベルトの案内を始めた。乗客はしつこいようだけど私一人。しかも私自身常連でこのキャストさんにも覚えられている。だからだろう、ちょっとやりにくそうで、いつものスピーチ風の話し方ではなく会話調も混じっていた。これも面白い体験である。
扉が閉まり、いつもどおりの出港。ファルコン号が見える。ロボットが中を検査し、スパイが乗っている、となる。対象は当然私のはず、なのに写真に写ったのは髪の長い女性であった。美しい女性である。白黒画像だけど淡い色のワンピースに白い上着を羽織っているような感じである。さっき4番ゲートに向かった女性と似ているな、とも思った。といっても後姿しか見てないけど。この船には当然、そんな人は乗ってはいない。後ろを見ても私一人である。ただ、C-3POは4列目の左側を見て、そこにスポットライトが当たっている。誰だろう? なんて思ってしまう。それ以降はいつもどおりであった。何も変わったことはない。

降りたところで男性キャストさんが話しかけてきた。
“寂しくなかったですが?”
“貸し切り、貴重な体験でした”と答える。スペース・ツアーズで貸し切りになることは滅多にないそうだ。
“次の便も一人だったのでは?”
“いえ、今日はあれから誰も来なくてこの便が最終になっちゃいました。
“でも白い服の若い女性が・・・? そういえば、スパイの映像、おかしかったですよ? 一人なのに私じゃない人の画像が出ていました。”

“え! ”一瞬キャストさんの動きが止まって見えた。
“もしかして、髪の長い女性ではなかったですか?”その通りと返事をすると、
“常連さんだからお話しますが・・・”
深夜、あの女性がときどきスパイとして写ることもがあるのだそうだ。直接姿を見た人はいない。通常運用後のテストなので乗客でその映像を見た人はいないだろう、とのことだ。テストだから通常のキャストで見た人も少なくてうわさだけが流れているそうだ。話してくれたキャストさん自身、写真は見たことはないとのこと。
“お客さん、スペース・ツアーズに乗られる回数が多いですからあの人に気に入られたのかもしれませんね。”

幽霊話となるとちょっと怖いし、気に入られたとなるとなおのこと。でも、不思議と見た人にはその後良いことが起きるとか。
白い服の髪の長い女性、“スターウォーズ好きのだったのでは?” とキャストの中で語り継がれているのだそうだ。



後日談
冒頭に書いた通り、この話は創作であり、幽霊話は完全なフィクションです。ですが、書いた後に似たようなことが現実に起きてしまいました。一人で乗ったのにスパイには乗っていない人の写真・・・。但し、写っていたのは長い髪のきれいな女性ではなく、おじさんでした。

これは4月の比較的閑散な時期の平日夜のことです。スター・ツアーズ(ここは実名?)に入り、途中で写真を撮ってたら遅くなり、2日連続して貸し切りになってしまいました。そして・・・その2回目に本当に私以外の人の写真がスパイとして表示されました。想像ですがその理由、私の写真がうまく撮れなかったからでは? と思います。そして、やむなく前回などの写真を使ったのでしょう。左右にも人が写っているようにも見えました。
実はこの前の貸し切りでの写真、私が写ってはいたのですがブレていたのです。キャストさんとの会話もあり、そうなったのでしょう。そして、この時はそれ以上にまともな写真にならなかったから、以前の写真を使ったのかな、と思います。
乗っていない人の写真、怖いとは思わなかったけど・・・この話、その後キャストさんに怪談話風に話したこともあります。


テーマパークの怪談話(創作)に戻る