博物館・美術館 閉鎖博物館の思い出 旧人体科学館
旧清水市(現静岡市)の三保、三保の松原などのある半島の先には東海大学の博物館がある。海洋科学博物館、自然史博物館、そして人体科学博物館であった。三保文化ランドもあり、文化的な雰囲気の高い観光地であった。その中の目玉は、といえばやはり海洋科学博物館だろう。巨大な水槽に加え、機械による魚の動きを再現した展示もあり、とても魅力ある水族館であり、博物館であった。そして、その隣にある、やや地味ながらも特徴ある博物館。それが人体科学博物館であった。
人体科学博物館は1973年4月に開館、去る2000年10月末をもって閉館した。人体科学博物館は、館名のとおり、人体に関する展示があった。その展示は、口から体内に入り、呼吸器や心臓、神経、消化器など、体の各部に関する展示を見て回る。これらの展示に加え、体力測定ができるなど、健康維持に関しても考えられている博物館であった。
展示は模型などを多用し、動きで見せるものが多く、難しい内容ながらも子供でもわかりやすい展示になっていた。
でも、一番の特徴は、”生殖”に関してもきちんと展示してあったことだろう。第二次性徴をはじめ、妊娠、出産、避妊や性病まで展示があり、更に出産風景のビデオも流れていた。難しいテーマなのに、非常にまじめに、真剣に取り組んであったことに感心した。これらの展示は、いまでこそあちこちの博物館でも見られるものだが、そのころは画期的なことであったと思う。そして、賛否両論があったことだろう。ここ以外の展示は一本道になっていて通り抜けるようになっているのに、ここだけは枝分かれしていて飛ばすことができるようになっていた。入り口には”生殖コーナーを飛ばす方かこちらへ→”といった看板もあった。しかし、実際にはここが一番にぎやかだった。もともとは中学生や高校生を対象にしたようだが、大人や小学生も結構いて、軽い性教育に役立っていたようだ。
人体科学博物館、ここは非常に画期的な博物館だったと思う。そして、素人に医学を説明する、すばらしい博物館だった。更に、展示も非常にわかりやすいものだったと思う。子供が見てもある程度理解できそうだし、大人が見ても満足できる。ただ一つ難点があるとすれば、初めがよすぎたためか、更新が少なかったように思う。わたしがここに最初に行ったのは1980年頃である。そして、最後になったのは2000年頃だった。しかし、残念ながら展示は大きく変わっていなかった。この間に医学の大きな進展もあった。が、それらは取り入れられていない。そして、展示がだんだん古くなってしまった。それでも、初めて行く人にとってはとても新鮮だったことだろう。動きのある展示はどうしても壊れやすい。にもかかわらず、きちんと維持されていた。そういう意味でも、とてもまじめな博物館だったと思う。
閉鎖の理由、これはわからないが、訪問者が減ったのが理由の一つかもしれない。この博物館が、というよりは、三保そのものが観光地としての魅力を失ってきていることが大きいだろう。
ただ、個人的には、運営上の問題が一度あった、と感じている。これは明記しておくべきことかもしれない。この館の周囲には、前述のとおり、博物館などの文化施設がいくつもある。それぞれ有料なのだが、割安なセット券も用意されていた。全部回ると2000円程度だったろうか? 結構な金額ではあるが、個別に料金を払うよりは安い、ということで納得して払っていた。2館/3館の割引もあった。見学時間や興味によって見たいところだけ、適切な価格で見ることができたのである。ところが、ある時期、このセット券のみになってしまっていた。そうなると、2000円という金額は大きい。親子4人だと、6000円程度だろうか? どうしても”高い”と感じてしまう。そして、金額だけが一人歩きして、”高い”というイメージだけが残ってしまうのではないだろうか。やはり、見たいところだけ見学できることが大事だろう。特に再訪者にとっては大切である。
幸いなことに、この金額設定は短期間のみだったようで、後には個別に見ることができた。
この人体科学博物館、あまりにも画期的で先進的でありすぎたのかもしれない。これ以降の科学系博物館にも人体を扱った展示が見られるようになってきた。それらの中には非常に面白い展示もある。しかし、魅力からいえば、ここよりもすばらしいところはまだない、と思う。展示の入り口が大きな口になり、出口が肛門(扉を開けるとおならのような音がする)、というのも単純だけどわかりやすい。おそらく、人体に関する展示を企画するとき、多くの人がここを訪れたに違いない。そして、ここの展示の物まねにならないように考えたことだろう。その結果、いろんな展示ができたのでは? と想像してしまう。
そういう意味で、閉鎖されたのはとても残念である。大学の博物館、ということで費用面で苦しかったのだろう。ここに匹敵する人体に関する科学館の出現を熱望する。
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