いま日本語が危ない 文字コードの誤った国際化

著者:太田昌孝
出版社:丸山学芸図書
出版年:1997
ISBN:4-89542-146-5

 「誤った国際化」というのは「ユニコード」のことで、この本の目的は、ユニコードに「説得力のある反論ができるようになること」であるという。
 ユニコードといえば、何年か前に、ユニコードがISO(10646?)に採用されるかどうかという問題があって、パソコン通信でも話題になっていたが、ユニコードに対する日本国内での慎重論を、当時よく言われた「非関税障壁」の一種であるかのように述べたメッセージがあり、「えー、それはちょっと違うんじゃないのー」と思ったものの、きちんとした反論ができずに悔しい思いをしたものだった。
 というわけで、個人的にはユニコードに対する筋道立った批判にも大変関心があるが、それは別として、文字コード問題一般についての入門書としても、本書はすぐれていると思う。混同されがちな用語や名称について、繰り返しをいとわず、できるだけ誤解の余地がないように解説してあり、また日本以外の漢字圏の諸国のコード体系についても、見通しよく整理されている。
 文字コード問題に関心のある方々にぜひおすすめしたい。とくに、パソコンで表示される文字について漠然とした不満や疑問があるが、どう表現していいかわからない、といった方には、問題を整理する手がかりとなるかもしれない。
 JIS X 0208:1997 の規格票についてのわかりやすい解説も添えられている。(著者は JIS X 0208:1997 の原案委員会である日本規格協会符合化文字集合調査研究委員会WG2の委員。)
 さらに詳しい情報については、この本のホームページを参照されたい。


“ムッシュ”になった男

著者:川上貴光
出版社:文藝春秋
出版年:1997
ISBN:4-16-353420-2

 昔、親譲りのアンチ巨人を脱して阪神タイガースを応援しはじめたころ、監督は小柄な丸っこい体型の人物だった。いつもおだやかで温厚そうだが、目は笑っていない。この吉田監督がかつて牛若丸と呼ばれた名ショートだったことなど当時は知らなかったが、テレビで見たその姿は印象に残っている。
 10年後、阪神が21年ぶりの優勝を果たしたとき、その印象深い吉田義男が再び監督となっていたのがうれしかったものだった。

 二度目の監督をしりぞいた後、フランスの野球チームを指導しているという話を聞いてへえぇと驚いたが、吉田監督とパリ、という組み合わせには、不思議と違和感を感じなかった。本書によると、監督をやめてからフランスへ行くまでの休養期間を自ら「放電」と称していたそうだが、そういうキャラクターが、どこかフランスと通じるものがあるのかもしれない。しかし、そのフランス行きのかげに、パリに住む野球好きの日本人たちの熱意となみなみならぬ努力があったことは、この本によってはじめて知った。

 そのフランスの野球はといえば、

 「そういえば、ダブルプレーの練習なんかはよろこんでやりますね」
 「そうや。いっぺんに二つアウトがとれるいうんは新しい快感なんやろうな。そんなん今までしたことがなかったいうから」
 最初のころは、ナショナルチームやその母体となるクラブチームにして、こんな具合だったという。犠牲バントの趣旨を理解しない、チームプレーが苦手な個人主義の国フランスという話は新聞などでも伝えられたが、フランス人といえどもサッカーではちゃんとチームプレーをやっているらしいので、つまりは野球が極度にマイナーなスポーツであって、富にも名声にもつながりようがないため、打ったり投げたりする楽しみのために野球をやっている人々だけが集まっていたということなのだろう。

 しかし、ひどいエラーもするがここぞという時に大活躍もする、純粋に野球が好きという気持ちだけでやっている「アマチュアらしさ」が彼らの魅力でもあった。彼らが吉田監督のもとでいくつもの試合を経験するうちに、次第に本格的なチームへと変貌していく過程を本書は描いている。ろくな照明もない、でこぼこのグラウンドでの試合を、あの85年のバックスクリーン3連発や西武球場での胴上げなみにエキサイティングにしてしまうのはライターの力もあるが、大観衆を前にした時と同じように真剣に取り組む監督の姿勢があってのものだろう。

 雲の上の存在と思われていたイタリアに勝ち、スペインに勝ち、やがて世界選手権への出場をかけて南アフリカとの決戦。そしてアトランタ五輪への出場権は? と引っぱっていく。フランスの野球を後継者に託した吉田が日本に帰り、97年のシーズンを前に三たび阪神タイガースの監督に就任するところで物語は終わっている。ちょっと劇画調に盛り上げすぎかとも思うが、読後感はさわやかである。これであとは、タイガースが、(以下略)。


古代中国ユーモア100話 Wit and Humour from Ancient China

著者:丁聰(編/画) 谷口勇 訳
出版社:而立書房
出版年:1994
ISBN:4-88059-189-0

 紀元前三世紀から十七世紀までの古典から選ばれた笑い話集で、現代語にリライトした文章に、それぞれ1枚のイラストがついている。日本語版は英語版からの訳に、中国語原文をそえたもの。
 『三国志』などでおなじみの話もあるが、表情ゆたかなイラストが楽しい。舞台装置の設計の経験もあるというベテラン漫画家がこまかく描きこんだ場面からは、現代の中国人が、これらのエピソードの情景をどのようにイメージしているかがうかがえる。

 次のような話も、どこかで聞いた話なのだが面白い:

 ある人が木の股を椅子の脚として使っていたが、こわれてしまったので、召使いに新しい木を切ってくるように命じた。召使いは一日中山をうろついていたが、手ぶらで帰ってきた。「木はたくさんあったんですが、木の股はみんな上向きで」
 「インターネットには私の求める情報はない」と言っている人がときどきいるが、もしかして下向きにはえた木の股を捜してませんか?